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第5話『街の視察に行ってみました』

前回のあらすじ:バカ王子に本物のエリカと間違えられました。

王子が屋敷にやってきてから数日…

私は城下町の視察へとやってきていた。

いやまあ視察と言えば聞こえは良いが、正しくはお忍びで遊びに来ていると言った方がいいだろうか。

というのも、ルイリオ様曰く「キュービック家の一員となるならば民のありのままの現状を見ておいた方が良いだろう」とのこと。

そう、キュービック家、王子の婚約者になるぐらいなので、貴族としての地位は結構高いのだ。

となると必然、それ相応の義務もいずれは発生する訳で…

(…まあ、それは一旦置いておきましょう)

とは言え、色々と試したいこともあったので、城下町に行くことは承諾した次第だったという訳だ。

そして城下町を少し歩いて分かったことが2つある。

「あ、ニエリカ様、おはようございます!」

「ニエリカ様、今日はお忍びですか?」

「ニエリカ様!良い道具が揃ってますよ!見ていかれませんか!」

…いや『ニエリカ』の認知度高いな!?

というかそもそもこっちにやってきてから数日、城下町に出たのも何回かあるかないかぐらいだというのにこの認知度は一体どういう事なんだ。

もしかして私の知らないバグ…いや、ただのゲーム的な都合だろうか。

あるいは…ルイリオ様が裏で手を回して…

(とは言え…民から知られているというのはむしろ良いことなのよね)

私は彼ら彼女らに手を振りながら目的地へと進んでいく。

…そもそもお忍びなのに思いっきり声をかけられているのは良いのだろうか、と思いつつ歩みを進めていると、目の前で爆発音が起こる。

…そう、これがもう一つの分かったことだ。

「あっちゃあ…また爆発しちまった」

「お前やったな~、ハヴォック様のお怒りに触れたぞ」

案の定、城下町もバグり散らかしているということだ。

いや、むしろ屋敷よりもバグり散らかしている可能性まである。

ここまで歩いてきただけでも

・荷台に積み込まれすぎて弾丸のように射出されるじゃがいも

・ドアの向こうにみっしり詰め込まれて雪崩のように溢れ出すじゃがいも

・じゃがいもに挟まれて「T」のポーズのまま空を舞う市民

・じゃがいもを手に持ったまま壁をすり抜ける市民

・見た目が同じなせいで食べた時に回復するのか毒なのか分からないじゃがいも

と、こんな調子なのだが…(…というか、じゃがいもバグの温床過ぎない!?市民ももうじゃがいも使うのやめとけって!)

何故か分からないがことごとくじゃがいも絡みのバグである。

いや、知る限りはいくつかはじゃがいも以外でも代用できるバグではあるのだが…多分、市民的にはじゃがいもが一番一般的に使われているのだろう。

というかこの辺り、何処までが市民の一般常識で何処までが一般常識じゃないのかの線引きが難しいところでもある。

最初に聞こえてきたじゃがいも爆発市民の会話を聞く限りではこういった事が起こるのが日常的なようにも思えるが…

(…うん、逞しいな、市民!)

まあ、バグフェアリーの仕業と言われているみたいだし、妖精と共存するのが普通なのだろう、多分。

なんて、そんな事を考えていたら目的の場所に到着する。

「ここが…道具屋ね」

そう、目的の場所とは何の変哲も無い『道具屋』である。

…正確には道具屋で売っている『ある物』が目的なのだが。

「おお、ニエリカ様、いらっしゃい、何かお探しで?」

「ええ、少し見させて頂きますね?」

うん、流石は城下町の道具屋、いいものが揃っている。

…が、今回の私の目当ては1つだけだ。

「…あったわ、これね、『魔物探知人形』…」

『魔物探知人形』

所持していると魔物からの先制攻撃を1回まで防げる使い捨ての人形だ。

だが値段の割に効果が地味で、かつ先制攻撃を受けても別にそんなに痛くないので『普通の』プレイヤーからはまごうことなきゴミアイテムと言われていたものだ。

…そう、『普通の』プレイヤーにとっては、だ。

つまるところ、この人形には別の使い道がある。

(2000G…売値も一緒ね)

私は意を決して、その今の所持金では決して安いとは言えない人形を購入する。

そして…すぐさまその場で売却する。

「店主さん、この魔物探知人形を売りたいのだけど…」

「ああ、これなら3000Gだね、どうするんだい?」

店主がそう言った瞬間、私は心のなかでガッツポーズをする。

…そう、この『魔物探知人形』の真の価値。

それこそが『買値よりも売値のほうが高い』事である。

(1個買って売るだけで1000Gの儲け…客としては不安になる値段設定ね…)

「それで、どうするんだい?売るのかい、売らないのかい」

「え、ええ、勿論売ります!」

「はいよ、3000Gね」

ああ、本当に売れてしまった。

店主も…ちょっと不思議そうな顔をしているが、よく分かっていなさそうだ。

ひとまず、道具屋の錬金術はこの世界でも通用する事が分かったが…

(…うん、これ良心が痛いわ)

ゲームなら気軽に資金無限増殖として使えていたが、こうして対面で売買をするとなると…やはり良心がかなり痛い。

これは本当にお金に困った時にだけ使おう…そうして、この技は胸の中にそっとしまい込む事にした。

さて、次は何処に向かうか…と道具屋を出た矢先、私は一つのトラブルに遭遇する。

「モブーナてめえ!何度言ったら分かるんだ!」

「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…お父さん…」

ああ…例の胸糞イベントね…

私はそんな事を思いつつも、そのトラブルに首を突っ込む事となる。

…その選択が、まさかあんな事になるとは、その時は思いもしなかったのだが。

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