ペデストリアンデッキに注ぐ月灯りに人が群がっている。
誰も彼もが空を見上げ、カメラを向けている者も多い。
部分月食と満月が同時に見られるらしい。
娘がスマートフォンで撮った写真を見せてくれる。
今はこんなに簡単に月の写真を綺麗に撮れるんだ。
科学技術が進歩し続けていることに内心驚き、何となく申し訳ないような気持ちも覚えていた。
満月が自分の物にならないことは勿論幼い頃から理解出来ていた。
幼い頃は月の見られない夜には写真を眺めた。父は私が軽い気持ちでお願いしたら、満月の夜には必ずと言って良いほど写真を撮りに行ってくれた。
あれこれと工夫して父が写真を撮っている間、私は飽きる事なく満月を眺めていた。
元来凝り性の彼は段々と成長して私の興味が移っていっても変わらず満月の写真を撮り続けていた。
邂逅した光は侵入し、虚構の大人の仮面を外した。
そこには故郷の風景や友人、家族の姿があった。
私達の朝がじんわりと滲んだ。