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第3話

 父はビールを飲みほすと、急に私たちに向かって頭を下げた。

「今日は来てくれてありがとな。それに前から見舞いにもちょくちょく来てくれたのも助かったよ」

「ほんと、今の若い人は忙しいのに、ありがとね。ああ、それから、私達のお墓については、特に心配しなくていいわよ」

 続けて母もお礼を言ったが、その後とても気になる発言を言った。あまりにも自然に話すものだから、一瞬何を言っているのか分からなかった。

「どうしたの、いきなりそんな話」

 とりあえず頭の中で内容を反復し、やっぱり聞き間違いではなかったことを確認してから母に真意を訊ねた。すると目の前で母ははあっと大きなため息をつきながら、

「今のご時世大変ね。お墓の手入れや家の手入れ、それから維持管理。こんなに大変だなんて。あなた達に迷惑かけないように準備しておくから、心配しないでいいのよ」

 ますます訳が分からなかった。はーさんも同じことを思ったのだろう。いつもだったらスマホをいじりながら適当に話を聞いているのに、今日はスマホを弄らずにツッコミを入れていた。

「えっ、何? 気が早すぎじゃない? 」

 姉妹揃って母の発言の意図が分からなくて困惑していたが、父は母の言いたいことが分かるらしい。

「俺も今年で還暦だぞ? 何が起こるか分からないんだから、話せるときに話したほうがいいだろう」

「突っ込みどころが多すぎて、頭がフリーズしちゃったよ」

「そうそう、突っ込みどころ満載」

 つまり、どういうことなのだ。そう思いながら、母の続きの言葉を待った。

「私たちのお墓はいらないわよ。ね、お父さん」

 母の言葉に父はうんうんと頷いているが、余計に私の疑問は深まった。

「お墓要らないって、どうするの?」

「そうだなあ。樹木葬とかいいなあ。それとも海に散骨とかかな。お隣さんは散骨だったんだよな」

「なんで知ってるの?」

「あら、そんなの世間話よ」

 近所づきあいの世間話で墓の話をすることがあるのだろうか、まああるんだろうな。母が話しているのだから。

「今時って、世間話でお墓の話するんだ」

「そういう物よ。散骨もいいけど、場所として一部残っているのがいいわよね。じゃあ樹木葬かしら?」

 両親は世間話のように話すが、ひとつ気になることがあった。

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