少し時間が経つと、長年使っていたクーラーもやっと効いてきて部屋が少し涼しくなってきた。
「はあ、やっと一息つけたわね」
母は冷たい麦茶を飲んで、生き返ったというような心地で言った。
「疲れたー。暑すぎだよ、今年」
私は手元のハンドファンに向かって、愚痴を吐く。
「今日はみんなお疲れ様。おばあちゃんも喜んでるんじゃないか」
「おばあちゃん、喜んだかな」
父の労いの言葉に私は素直に浮かんだ疑問を言った。すると母はふふっと笑って、
「もちろん。息子も娘も孫達も集まったのよ。あなたたちが来てくれて、おばあちゃん、きっと嬉しかったと思うわ」
するとはーさんがふと思い出したように、
「お話しするの好きだったよね、うちのおばあちゃん。とくに、恋バナ」
「あなたたちが『彼氏できた』とか、『好きな人がいる』とか。それ聞いて、おばあちゃん、えらく喜んでね。キャッキャッしてたわ」
病院のベッドでキャッキャっしていたおばあちゃんを見たのが、随分前のように感じられる。
「うんうん、してた、してた」
「感性が若いなあ、うちのおばあちゃん。それにミーハーだよね。俳優とかも好きだったし」
おばあちゃんは、本当にサッカー選手から今流行の俳優まで詳しかった。多分流行だけだったら、私よりおばあちゃんの方が感性が若いと思う。
「あなたたちより、詳しかったわよ」
「俳優には興味ないな。私には、二次元の『推し』がいるんで」
母の少しからかったような言い方に、はーさんは自分はそんなの興味ありませんと言いたげに答える。すると、父は驚いたように、
「ええっ!まさか好きな人って、アニメとかのキャラクターなのか?」
「いやいや、彼氏はちゃんとリアルにいますー!」
はーさんはなんでやねんと言いたげに、勢いよくツッコミを入れた。お前は関西人か。
「ああ、よかった。おばあちゃんにアニメのキャラクターとかの画像見せて、『私の彼氏』とか言ってたらどうしようかと思ったんだ」
「お父さん。マジなのか冗談なのか、わかんないんだけど!」
父の冗談をどう受け止めたらいいのか、はーさんは不貞腐れた様子だ。
「ふふっ、ですって。お父さん」
「いやあ、悪い、悪い。からかいがいがあってな」
そんな不貞腐れたはーさんの様子は、両親にとっては笑いのツボだったようだ。