「……姫。ひとつ、覚えておいてください」
謁見の間の前まで来て、足を止めると、ライオネル様が口を開いた。私は深呼吸をして、入るための心の準備をしていたのをやめて、視線を向けると、ライオネル様は深々と騎士の礼をする。
「なんでしょう?」
「アリーシャ姫、あなたは護られるべき存在であり、我らアレキサンドリアの象徴です。他を犠牲にしても、身を守ることをお考えください。王国騎士団はそのための剣であり、盾なのです」
権力者──いえ、国に仕える騎士は命を捧げる者。国を存続させる上の人間は生きる者。わかっていても、それを聞くのは気分が良くはない。言葉が出なくなる。
──でも、アリーシャはそう言われて育ってきた。
だったらなぜ、アリーシャは死んでしまうのかしら。あのお城から出られなかった、とか?
日が過ぎる程に、状況が悪化する毎に、その時が迫っているようで気になってしまう。
ライオネル様も言うように、騎士の人達は守ってくれているというのに。犠牲に出来なかったからとか、他にも考えられるわね。
もし仮に、アリーシャが犠牲に出来なかったのなら、私は咎められない。自分の代わりに誰かが死ぬのは嫌だから。
せっかく新たな人生を得たのに、終わってしまうのを避けたくて、未来に怯え、思案する現状と矛盾してしまうけれど。
「それでは、お入りください」
ハッとして意識を外に戻すと、ライオネル様と見張りの騎士が扉を開けて支えてくれていた。二人ともこちらを見ている。
──今後関わっていくのなら、ますます慎重に行くしかないわね。考えることはたくさん増えてしまうだろうけど。
決意を新たに、騎士二人によって開かれた道を厚意に甘えて通って、中に入った。間もなく背後で扉の閉まる音がして、合わせるように私は正面に目を向ける。
国王陛下とそれに付き添う大臣、並んで立つ警護の騎士たちだけでなく、勇蔵様たちも全員揃っていた。みんな無事みたい。
みんなの壮健そうな姿に安堵の息を吐いていると、私の横をライオネル様が通り、王の御前で片膝をついて、騎士の礼を行った。そうして礼儀と忠誠を示してから、伝える。私が王妃の役目を代行する事を担う事を。
それを聞いた陛下は、顔に手をあてて、深い深い溜め息をついた。
「わかった。今は仕方ない。ただし、何かあれば随時報告するのだぞ、アリーシャ」
「は、はい……!」
溜め息の中に承諾したくない想いを吐き出したのかしら。感情を抑えたように見える。それが娘を案じたものか、指揮を案じたものかまではわからないけれど。
「……それで、王様」
「ああ。アリーシャも加わったことだ。改めて話すとしよう」
成り行きを見守っていた勇蔵様が切り出すと、陛下は話し始めた。
「魔王一味より現在攻撃を受けている。襲撃への対処後は仕掛けては来ていないが、空にはモンスターが常駐しており、窺っているように見受けられる」
「知性があるモンスターか、誰かが指示をしていますね」
「指示なら一番考えられるのは、魔王ね」
外は今モンスターが空を飛んでいてこちらの様子を窺っているみたい。少しずつ侵攻してきているような、嫌な感覚。相手の掌の上のようだわ。
「次の襲撃に備え、配置している。勇者には迎撃をお願いしたい」
「わかりました」
「みな、頼んだぞ」
今はこちらも相手の出方を窺いながら、籠城して防衛するみたい。
勇蔵様たちも従って、護りの体制に入るみたいだった。今後は勇蔵様たちとも情報を共有していかないといけないわね。