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11-2









 外と直接つながる場所から離れ、部屋に戻ることになった。

 侍女の方とは部屋の前で別れることになった。遠くなっていく背中に「お勤めご苦労様です」と声をかけて、部屋に入るべく振り向くと、騎士の方と目が合った。目が合うと騎士の方は背筋を伸ばして、礼をする。



「お戻りになったばかりのところ申し訳ありません。騎士団長より伝言を預かっています」

「……伝言?」

「階段ホールにお越しくださいとのことです。準備が出来ましたらお声掛けください」



 ──騎士団長が私に用事ということ?

 申し訳なくも庇護していただくばかりの身に、用事となると、思いつくのはお城での出来事とかかしら。


 一度、向かおうとした部屋を見る。準備が出来次第と言っている以上、多少は時間がある。けれど、あまり待たせるのも良くない。スーちゃんをあまり長い時間ひとりにさせるのは不安だけれど、出来ても少し声をかけられるくらいね。

 それなら今から行った方が良さそうだわ。

 騎士の方に声をかけると、階段のところまでついてきてくれるとのことだった。スーちゃんのことが気になりつつも、騎士の方に護衛されながら階段の方へと向かった。


 階段と繋がった広い空間まで行くと、騎士の装いをした人達が話し合っていた。気づけば体が自然と服の裾を広げ、礼をしていた。ちらりと目で窺うと、片側の男性騎士がこちらに体を向けて、何か合図でもしたのか片側の騎士は踵を返す。

 私の立場で長い礼はよろしくないと、知識が頭を巡り、体勢を戻した。



「お呼びでしょうか」

「急にお呼び立てしまい申し訳ありません、アリーシャ姫」



 物腰丁寧で、それでいてどこか緊張感を呼ぶ声。

 背が高くて、首を伸ばして見なくてはならない。堂々とした佇まいで、顔はどことなく角張っている。ダンディという言葉が相応しい人。皺がまたダンディさに磨きがかかっているわね。

 この人は私は初めて会ったけど、知っている。ミーティアちゃんに会って、名前を聞いた時と同じ感覚。


 ──騎士団長ライオネル・ベッツ。

 そして、ミーティアちゃんのお父様。


 そんな人が私をどうして呼び出したのか。用件を聞かなくてはね。



「それで、どのようなご用向きでしょうか?」

「まずはご無事の帰還、お祝い申し上げます」

「ありがとうございます」

「……アリーシャ姫はお戻りになったばかりでご存知ないかも知れませんが、王妃様が体調を崩されていまして」

「それなら聞き及んでいます。横になっているとか」



 王妃──お母様が体調不良であることは先程知っている。知っていることを伝えると、ライオネル様は、一回大きく頷いた。



「王妃様のお役目を代行する方が必要なのです。血族であるアリーシャ姫にしていただきたいのです」



 ──つまり、聖女の方々にしていたような事をしてほしいということね。でも体調が戻るまでだとは思うけれど、何をすればいいのかしら。



「私でお力になれる事ならばさせていただきますが、具体的にはどのような……?」

「王妃とは、元来王を補佐するものと申しますと分かりやすいでしょうか。王の手が回らない時に代わりに行います」

「つまり……国に関わるもの?」



 国政関連に代理として関わってほしいということを、ライオネル様は言っている。

 日本国のいち国民、一般人にはとても荷が重い。元だけれど。今は違っても、知識も経験も足りない。腰が重い。


 ──でも、関わっていけば、いつかスーちゃんのお友達やスーちゃんが住みやすくなるように少しでも変えられるかも。だったら、引き受けたい。



「……わかりました。務めさせていただきます」

「ありがとうございます。とは言いましても、大部分が王が行います。兵を動かすという役目もございますが、あまりないと思っていただいて構いません」



 軍事に詳しくない身からすると、少し安心してしまう。騎士の方々を動かすというのは、すぐに命に直結するから。力が足りない私では過ちを起こしてしまいそうで、怖い気持ちがある。



「話はそれだけです。謁見の間に行きましょう。情勢の把握が重要ですから」

「はい」



 まだライオネル様との口約束でしかないけれど、他の方とも共有しないといけない。そうしたら、私は本格的に関わることになる。そう思うと緊張が走るわね。

 守護される存在として、奥地で身を隠し、情報もなかなか得られなかったけれど、今どうなっているのかも知れるのね。


 そんなことを思いながら、私達は謁見の間へと向かった。





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