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10-3






 中に入れば左右に騎士が待機していて、更に進めば奥には玉座があった。席は二つ。席には誰も座っていなかった。その代わり、座席の一つの前に男性が立っていた。

 数々の苦労が顔に刻まれていた。実年齢より幾らか年を経て見られてしまいそうな程。それでも、どことなく優しそうだと思わせる。争いよりも平穏を望みそうな人。そう思わせるのは、顔立ちなのか雰囲気なのかは判別つかないけれど。

 その男性は、男性と話をしている。身なりは騎士とは違う。肉体労働よりは机仕事に向いた装い。大臣といったところ。大臣とするならば。


 ──あの人が、アレキサンドリアの王様。いえ、お父様なのね。


 すぐ近くまで近づくと、お父様はこちらを見た。アリーシャの姿を見たお父様は、眉を上げて、目の前まで来た。



「おお……アリーシャ……よくぞ無事だった」



 地位ある者として体に叩き込まれた礼をする。ボロボロな今の見た目では、今一つ品は感じられないかもしれないけど。

 王女の肩書きには相応しくない格好に違いないのに、そんなことを咎めることはなかった。むしろ目を細めて私を見ていて、胸の奥から感情が沸き上がり、目頭が熱くなる。


 ──ああ。親って、こういうものだったわよね。


 自分も親になったけれど、親から祖母になってくる時には子ではなくなってしまった。

 あたたかな懐古と、体が求めた再会に、涙ぐみそうになるのをグッと堪えて見つめ返した。



「お父様、アレキサンドリアに何があったのですか?」

「……ああ、そうだな。話しておかねば」



 今後のためにも、今何が起きているのか知らなくてはいけない。

 問いかけると、優しい顔は消え、父から一国を担う王の顔へと変わった。



「いくつかの街が魔王の手におちた事は知っているか?」

「……はい。存じています」



 お店で聞いた話と、旅で実際に見たモノ。

 ムリン村は人のいない村になり、ルトナーク城は魔王城に変わり果ててしまった。どちらの惨状も私は目にして、ここまで来た。



「その後は静かなものだったが、突然我がアレキサンドリアも襲われた。いつ襲撃にあっても対処できるように準備はしていたのでな、今のところは被害は少なくて済んでいる」

「少ないということは……」

「案ずるな。死者は出ておらん。負傷者はいるが、軽傷だ」



 死者や重傷者はいないと聞き、胸を撫で下ろした。早い段階で到着したからかしら。死者も、致命傷を負った人もいないようで何よりだわ。

 だけど、国王陛下の表情は明るいとは言えない。苦しい表情だ。



「民が怯えきっている。今回の襲撃で民は外に出ることを怖れるかもしれん」

「そう……かもしれませんね」



 どこの世界でも家の中が安全だと言う考えは変わらないのね。でも襲撃を怖れ、毎日怯えて外に出ないというのは精神状態が気になってくるわ。ストレスが溜まってくるだろうし、遊びたい盛りの子供たちもそのうち痺れを切らしてしまう。

 騎士の人たちだって疲弊してしまうし。例え次の襲撃がなかったとしても、長引けばアレキサンドリアは内側から崩壊してしまうかもしれない。軽視できない問題だわ。


 不意に陛下は屈んで目線の高さを合わせて、肩に手を置かれた。見ると、王様の顔から父親の顔へと戻っていた。



「後は私たちに任せて、おまえは部屋にいなさい」

「で、ですが……」



 王族としてただ部屋に引きこもっているのは良くないのでは。それに現状をいち早く知っておかないとアリーシャに危機が訪れた時に、何も対策がとれない。

 食い下がると、首を振られて、眉尻を下げられる。



「アリーシャ……」

「……わ……わかり、ました」



 困った顔をされて、二の句が継げなくなってしまった。子供や孫もそうだけど、親に困った顔をされるとどうにも弱い。

 私には戦うだけの力も、政治力もない以上は成り行きを見守るしかない。歯痒さはあれど、今回は引き下がる事にした。今最前線で戦っているだろうブラッド様たちや、報告に行ったミーティアちゃんから後で話を聞くしかなさそうだわ。


 渋々ではあったものの、側近の女性に案内されて、私は謁見の間を後にした。





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