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10-2






 ここに来る時に見た黒煙にドキリとしたけれど、城下の被害はそんなではなかった。

 真っ黒に焦げた物が入口近くにあったり、柵や壁が壊れていたりしたけれど、そのくらい。人はあまり見掛けない。家々に避難しているのかも。たまに見掛けるけど、全て鎧を着た人たちだった。


 ──良かった。でも……。



「何か、変だわ」



 しっくり来るのに変な感じ。

 どこから違和感が来るのかしら。ミーティアちゃんの言うとおり、襲撃は直近だったから被害は少ないのだろうけれど。



「あっ!」

「姫様!?」



 靴の先が地面に当たって、つんのめりかける。左右のヒールのすり減り方が違うから、バランスを崩してしまった。

 考えるのをやめて、後ろに体を引き持ち直す。足を止めてこちらを心配そうに見るミーティアちゃんに首を振った。



「大丈夫。ごめんなさい。行きましょう」



 違和感は拭えないけれど、考えるのは後にして、今はお城まで避難する事だけを考える事にする。

 まっすぐお城まで向かうと、更に大扉の前で鎧を身に纏った人が二人左右に立っていた。城を守る騎士たちと思われる人たちは、こちらを見て一瞬身構えたけれど、すぐに解いた。ミーティアちゃんが礼をする。私にしたものとは違う礼をすると、騎士たちも礼を返すと表情を引き締めて、私を見た。



「王国騎士団所属、ミーティアです。ユゾ……勇者殿と共に姫様を保護しました。姫様を安全な場所へお願いします」

「お願いします」



 二人が頷き、一人が少し慌てた様子で扉を開いた。開けた人が扉の傍らに立ち、道を開けてくれる。礼をして、扉をくぐった。

 三人とも中に入ると、背後で扉が閉まる音がした。城内は荒らされた形跡はなく、見張りをする騎士たちが立っている。事態が事態だからか、みんな緊張した面持ちだわ。


 それでも、ようやくお城の中に入れた事にホッと息を吐いた。

 ふとミーティアちゃんを見ると、辺りをキョロキョロしている。誰かを捜しているのかしら。目が合うと姿勢を正して、辺りを見回すのをやめてしまう。



「城の中であれば、騎士たちも大勢いますし、安全でしょう。私は騎士団長に姫様を無事お連れした事を報告に行って参ります。ユゾ殿は王の御前まで姫様をお連れいただけますか?」

「ああ。謁見室まで連れていくよ」



 ミーティアちゃんは私に服従の礼をして、離れていった。見送ると勇蔵様に一言、声をかけられて促されて、やおらに向かい出す。

 王様──アリーシャの、私の今の肉親。父母は遠い日に亡くなった身だからか、懐かしいような、違う両親がいることが受け入れ難いような、前世の両親に会いたくなるような。そんな、複雑な気持ちがある。

 でも同時に、会いたいという気持ちもある。体が再会を望んでいる。なら、どのみち会わなくてはね。


 勇蔵様と共に広い階段を上がり、階段を上がった近くにあった部屋に向かう。そこにも騎士がいて、勇蔵様が説明する。



「王に伝えてまいりますので、ここでお待ちください」



 勇蔵様から話を聞いた騎士は大慌てで中へ飛び込んでいった。しばらくすると騎士が戻ってきて、扉が開けられた。扉の先に、王様がいるのね。そう思うと緊張してきたわ。



「アリーシャ姫」



 名前を呼ばれて振り返る。勇蔵様だ。

 勇蔵様もまた、部屋に入ろうとはしていなかった。中を――奥の方にいるだろう王様を見て、私に目を向ける。



「僕はみんなが気になりますので戻って加勢してきます。ミーティアの言う御前……と違って、怒られそうですが」

「いえ、そうしてください。ここまで来れば……安心、ですから」



 一瞬、頭の中に過りかけたものがあったけれど、勇蔵様を送り出す事にした。勇蔵様が共にいた人たちの安否を気にするのもわかるもの。

 騎士たちとは違う礼をーー会釈みたいな軽い礼。というより会釈ね。


 ──……名前とか、髪の色とかからして、海外のようなものだと思っていたのだけれど。日本的な要素もあるのね。

 不可思議なことは今までにもたくさんあったし、深くは考えないでおくべきかしら。



「姫様。王がお待ちです」

「……あ。え、ええ。ごめんなさいね」



 騎士に促されて我に返る。勇蔵様の姿はもう見えなくなっていた。

 私は部屋の中へと足を踏み出した。





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