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9-3






 勇者様──勇蔵様の仮名が決まり、眠くなるまでに女の子二人とも話をした。弓を使っていた女の子はレイラという名前だそうだけれど、私をじいっと見て、一言「レイラだ」と名乗っただけで離れていってしまってあまり話す事が出来なかった。とても綺麗でお人形さんみたいな子。

 もう一人の子はクレアという名前みたい。黒い──ローブというもの? ワンピース?──を着ていた。一見大人しそうな服装だけれど両側の脇の所に等間隔で穴が空いていた。旅で破けてしまったのなら針と糸さえあれば繕ってあげたい。編みレースの手袋を着けているみたいだけれど、不思議な事にそっちは綺麗なままだった。女の子にはあまり体を冷やして欲しくないので何であれ体を冷やさないか心配な子。


 ともかくようやく二人の名前がわかった。彼女たちは苗字を名乗らなかった。名乗らなかっただけか、ないのかどちらかはわからないけれど正直に言ってしまうと横文字の名前を多く言われたところで覚えていられるか自信はない。アリーシャが知っている名前ならまだしも、新しい名前だと本当に自信はなかった。



 ──焚き火の熱気が体を温め続け、徐々にうつらうつらとしてくる。手早く準備をしてくれた内の一つには天幕があり寝床を提供してくれていた。舟を漕ぐ私を見たのかすかさずミーティアちゃんが声をかけてくれ、促されるままに中に入った。携帯用の天幕で布地は薄く、体重がかかれば地面や石の感触があって少し懐かしい気持ちになる。

 眠気に従って横になる。お城に着いたら部屋でぐっすり寝てしまいそうな気がした。徒歩の範囲が狭く、遠出は馬車が基本のこの娘の体ではどうしても疲れが出やすいみたい。少し前までと比べたら若いというだけで随分元気ではあったけれど。

 それでも脱出したばかりの頃に比べれば少しは体力がついたみたいだった。落ち着くまで歩き通しだったから、強制的にではあるけれど。


 明日もお城に向かって行くとして。その後はどうなるのかしら。お城にいることになるだろうけれど、お城にいれば安全なのかもわからない。やるべきことがあったとしても──どうしてもアリーシャが死ぬ運命にある事を思い出してしまって腰が重くなる。例え危険な目に遭いそうな大胆なことをしたからといって必ずそうなるとは限らないしそうならないとも限らない。それでも派手に動かない方が良さそうよね。



「ぷ……アリーシャ?」

「あら、どうしたの?」



 隅の方からスーちゃんが出てきた。天幕の外には勇蔵様たちがいるからか完全には出てきておらず中ほどは隠れている。外を警戒しているスーちゃんを少しでも落ち着かせたくて指でそっと撫でた。スーちゃんは指にすり寄って指と同じ動きをする。子供がまねっこをするような仕草に頬が緩んだ。



「あれこれ考えすぎても仕方ないわよね」

「ぷ……?」

「悪いけどもう少しだけ我慢して隠れていてね」

「わかった!」



 結局のところ今後何があるか詳しくはわからないけれど、自分に今出来ることをするしかない。

 とりあえずお城に着くまではスーちゃんには隠れていてもらうことにした。出てきたのは特別用事があったわけではないのか、忘れてしまったのか元気に返事をすると奥の方へと移動した感触が服越しに伝わった。

 スーちゃんの姿が見えなくなって、瞼を閉じる。無事にお城にたどり着けることを祈りながら、緩やかに眠りについた。





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