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8-4






 空が夜闇に包まれた頃、勇者が戻ってきたが苦心して集めた情報は大したものはなかった。その日は宿泊して体を休め、ミーティアとクレアが話し合った通り──勇者も賛同したため──アレキサンドリア行きが決定した。



「アレキサンドリアはアタシ行ったことがなくて、術が使えないから……森を抜けないとならないわね」

「まだ盗賊が出るのでしょうか?」

「ああ、盗賊ね……それなら近場に飛んだ方がいいかしら?」



 リーヴリスのように転位をするには指定先を知っていなければならない。クレアがリーダーである勇者に尋ねると、勇者は首を縦に振った



「そうだな……水の街が比較的近くて行きやすい」

「街道も整備されていますからね」

「わかったわ。ヴァノーネにはよく行っていたし、設定出来るから」



 クレアを中心とした足元に紋様が描かれていく。文字と記号で構成された紋様は広がっていき、円で留められる。風の力と共に光を帯びた。円の外側にいた者は中へと足を踏み入れる。

 刺激と喪失。

 そして景色は変わる。一陣の風が魔法陣を攫っていった。周囲を見渡せば見張りが立てられた街が近くにある。水の街ヴァノーネの前だ。足の向きを変えた。

 草が刈られ、一本の線を描くように道が続いている。木で出来た案内板が進んだ先に設置されていた。矢印を模した形がヴァノーネと道の先を指している。文字が書かれているようだが、彼らの位置からは読み取れない。

 案内板の下には男が一人立っていた。長い道の先が何処なのか黙読している



「念のため訊きながら向かおう」



 男性を視界に認めた勇者が彼女達に告げる。少しでも情報が欲しいのは皆同様だ。首肯で意思を伝えると進行方向にいる男に近寄るように歩み始める。

 足音を聞いた男が振り返った。顔を合わせると魔王の行方を尋ねる。姿ではなく異変でも構わなかった。些細な出来事でも聞き出そうと問い掛けるが、男は首を横に振った。

 肩を落とす勇者の後ろからミーティアが顔を出す



「それではアレキサンドリアの姫君の話をどこかで耳にしませんでしたか? 魔王と共に行方知らずなどでも」

「拐かされた、という話は聞いたが」

「……然様、ですか。感謝致します」



 声に落胆の声が混じる。伏し目になったも、男に一礼をして身を引いた。

 世界を騒がせている魔王の話は途絶えている。情報は更新されておらず、ただ恐怖を抱いて街の警備や日々を過ごしている。だが襲撃も起きておらず静かながらも平穏とは呼べない現状はただ怖気を呼んだ。

 不安に因る焦燥を汗と共に滲ませたミーティアが息を吐いて表情を引き締めて顔を上げる。幸先は悪いが公算は無いわけではないと切り替えた。



「今はアレキサンドリアへの帰着が優先ですね。道中で得られれば僥倖でありますが」

「ああ」

「まだ残っている王城、か。魔王は何故すぐに滅ぼさない……?」



 レイラが疑問をぽつりと呟く。思考を巡らせたのは須臾の間の事で、疑問は形だけを残して遠くへと追いやられる。あまりにも情報が少なく憶測にしかなりそうになかった。


 一路アレキサンドリアに向かうため男と別れて歩き出そうとする。

 黙して会話を聞いていた男が片手を出して引き止めた。男はまじまじと彼らを見ている。怪訝な視線を返せばどこか重みのある声ながら軽く詫びた。



「珍しい取り合わせだが、あんた達は何故魔王や姫を探しているんだ。旅芸人が探すわけもない」

「魔王に拐われた姫を探し、魔王を倒すために旅をしているんだ。だから、何か情報があれば欲しいんだ」



 ほう、と男が息を吐くと共に相槌を打つ。一人ひとり改めて眺めた。

 旅人らしきリーダー格の男。

 鎧を身につけた凛然とした少女。

 魔法使いウィザードらしい服装をした成熟した雰囲気の女性。

 尖耳をした鋭い目付きの弓を携えるエルフ。

 大道芸人として活動していると言われても信じてしまいそうな組み合わせ。しかし男の目は少女の軽装鎧に刻印を目聡く見つけてその一点を見た。視線に気が付いたミーティアは刻印の方を確認して騎士の礼をしてみせる。



「アレキサンドリア王国、王国騎士団のミーティア・ベッツと申します。今はこの方々と共に姫を探す任についております」

「王国騎士団……」

「それがどうかしたのかしら?」



 王国騎士団の所属と聞いた男が思案で俯く。しばらくして息を吸い込んで顔を上げた。



「俺はブラッド・アドラム、傭兵だ。

話に関してはわからんが、アレキサンドリアの姫らしき娘にならば会った」




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