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8-1







「どこだ、魔王!」



 黒く澱んだ城。元のルトナーク城を歪めた魔王城に勇者たちは踏み込んでいた。

 モンスターが少なくほとんど出会わない。魔王軍の根城で城を取り返せぬ程の脅威である程には蔓延っているという話が出回っているのだが、その割にはあまりにも少なかった。

 魔王を探して城の中を駆け回る。行く手を阻む魔物を幾度か斬り伏せるが先には宝箱や部屋があるだけだ。

 男魔術師ソーサラー女魔術師ソーサレスがいる部屋まで至った。魔物扱いではあるものの魔族ではない魔術師達は気絶させて隅で緊縛している。クレアが本棚にある本を一冊とって開いた。特殊な文字や図形が並んだページが続いている。魔導書だ。



「少し古いけど……なかなか強力な術ね。もらっていきましょ」

「しかし敵方の物では……」

「敵の物だろうとなんだろうと、役立てなきゃ意味がないわ。ましてや魔王は見付からない訳だし」



 ミーティアにそう言ってもう一冊とった。二冊目を開こうとしたクレアだったがどれだけ力を込めても開かない。鍵の魔法をかけられておりビクともしない。本棚に本を一度戻し違う本をとって小口に手をかけたところで、部屋の中を調べていた勇者が口を開いた。



「ダメだ。隠し扉があったりとかでもなさそうだ」

「こそこそと隠れているならば魔王もタカが知れているな」

「……それらしき姿はない様子。城を出て情報を集めませんか?」

「それがいいな。街を襲っている可能性もある」

「近くの街なら誰か知っている人がいるかも知れないわねぇ」



 情報収集を行う方針で固まった。本を持っていたクレアは本棚へと本を押し込む。最初の一冊だけを手元に残した。先行する勇者の後ろを他のメンバーが続く。城を出るまでの間モンスターは一匹も勇者たちの前に姿を現すことはなかった。


 城を出ると地図を取り出した。皺の部分も手でよく広げる。魔王城の位置から一番近い街──ムリン村は除き──を指でさして確認した。位置を確認すると地図を折り目で畳んでしまいこむ。



「リーヴリスに行こう」

「わかったわ。それじゃあ皆、離れないでね」



 突如として風が起こる。一行を包むように吹く風は強くなり、各々の服や髪が揺れてゆく。足元に魔法陣が形成され緑色に発光する。光が彼らごと周囲を覆い隠し遮蔽された。体表にピリピリとした小さな刺激を受ける。体の内側からは体内が無くなっていくような喪失感を味わった。

 やがて光が収まってゆき、周囲を見渡せるようになる。そこに城はなく、赤い花が風に揺れていた。足元には同じ魔法陣があるが光と共に跡形もなく消えてゆく。街の人々が眉を上げて瞥見していた。レイラが視線に対して睥睨すると視線や顔を逸らす。その様を見た勇者が苦笑いをこぼした。



「この魔法があると便利ですね」

「設置型はあるけれど、自分達でやれるのはいいわよね。旅で得た貴重な術だわ。でも……もう少し魔力を高めないとね。結構疲れちゃうから」

魔法使いウィザードというのも大変なのですね」

「二人共。今日は聞き込みをして、リーヴリスに泊まろう」



 話をしていた二人は勇者の言葉に首を縦に振った。魔王城に向かうまでの間や魔王城での戦いによる倦怠感がまとわりついていた。まだ陽は高く昇っているが情報を集めなければならない為体を休める頃には丁度良いだろう。

 街を歩き出し魔王に関しての情報集めを始める。街の人間に尋ねてゆくがそれらしき話は聞かない。魔王自体には怯えた様相ではあるが、動向はわからぬようだった。魔王城から今は一番近いとはいえ離れており、奇特でなければ魔王城まで赴く事もない。彼らが語るのは明日が恐ろしいという未来への恐怖ばかりだった。

 ろくな情報が集まらず、レイラは嘲笑を含んだ溜め息をつく。ミーティアは顎に手をあてて考え込んでいた。



「明日も行うとし、今日は道具などの補充をしましょうか?」

「まだ時間があるしもう少し聞いてみたい。買い揃えたら聞いてみるよ。その時は一人で回るから三人は先に休んでいてくれ」

「熱心ね。ええ、わかったわ」

「さっさと済ませて宿に行くぞ」





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