先にスーちゃんに言い聞かせてから歩き出した。
街の至るところに吊り下げられている
幻想的な光景に加えて、どこからか風が吹いている。それもただ吹いている訳ではなくて、風の力を利用して場所を移動したりという事もしているみたい。強力な風に押し上げられて、上に上っている人を見掛けた。他にも街には風の魔法が使われているだろうけれど、今日は休みたいので宿を探しましょう。
大きな街だからか案内板がしっかりしているわ。別れ道には案内板が置かれている。宿のある方向に向かっていけば大きな箱が置いてあった。人が数名入れそうな大きなもので、上にはロープが通っているわね。索道、かしら。中央には円が描かれていて、円の中には図形や見たことのない文字が並んでいるわ。
乗るのは少し勇気が必要ね。何度か深呼吸をして、思いきって飛び乗ってみた。頑丈みたいで、揺れたりといった事はなかった。代わりに足元の円が光って。突然箱が動き出した。その場から一歩も動かず、正面や上の方を見る。どんどんと高くなってゆき、上に着いたところで箱は止まった。すぐに降りると息を吐いて知らず知らず入っていた体の力を抜く。スーちゃんが外套の下から顔を出した
「ぷ?」
「大丈夫よ。少し緊張しただけだから」
猫の首を撫でるようにして人差し指でスーちゃんを撫でる。スーちゃんは指に体を一度くっつけてから再び外套の下へと隠れた。
宿は二階建ての建物だった。両開きの大きな扉を開ける。開放的な空間で、奥に受付があるようだったわ。宿は宿でもホテルのよう。
ここは宿泊に銅貨が三枚必要みたい。銅貨を渡せば部屋の名前を教えられたわ。受付を済ませたけれど階段が見当たらない。階段ではなく台が左右にあって、正面の壁には石が埋め込まれているわね。この石は触ってもいいものなのかしら。他の場所にもあったように魔法が施されているのだとしたらこれよね。
そっと石に触れてみる。台が一気に上がって、あっという間に二階に上がったわ。私には細かい仕組みがわからないけれど、とにかく不思議な石に触ればいいのね。エレベーターのボタンみたいなものかしら。
──確か……寝室は三階って言っていたわね。
台は一階と二階を行き来するだけのものみたいで、三階に通ずる台を探して、同じように石に触って上がった。
教えられた名前を探せば、それらしいマークの部屋があった。部屋に入る。ベッドと文机が備えられているわね。扉には中央に一つの印があった。扉の近くには紐についた認識票のような金属板がかけられているわ。金属板には扉と同じ印。金属板をとって並べてみる。やはり同じだわ。
「何かしらこれ……。えっ」
板と扉の印が光ったわ!
急いで引っ込めて、扉を触ってみる。今ので傷がついたとかではなさそうだわ。念のため反対側を見ようとして。押しても引いても動かない。
どれだけ引いても開かないので、扉に張り付くくらいに押してみる。また、印が光った。緑の光を浴びたかと思えば扉は簡単に開いた。先刻までびくともしなかったのに。
──もしかして……これは鍵、なのかしら
お城でも使われていたか、思い出そうとしたけれど浮かんで来ない。この街だけなのかしら。
ともかく、これは鍵なのね。正体もわかったのだし鍵として使わなくてはね。もう一度近付けて、光るのを確認したら離した。念のため何度か開くか試みる。開かないのを確かめてからベッドに腰掛けた。肩にいるスーちゃんを優しく降ろして撫でる。
「もう大丈夫よ。いい子だったわね」
「アリーとお話出来るー!」
許可をするとスーちゃんは部屋の中を跳ね回った。やがて私の隣へと飛び移ってその場に体を崩す。休んでいるみたい。私はもう一度体を撫でてから巾着を手にした。中身をベッドの上に出す。巾着が張るだけあってそれなりの数だわ。緡で繋いだ方が纏められて良さそうな気がしてくる。
金貨を一番底に入れて、銀貨を流し入れ、最後に銅貨を積んだ。三層になった巾着の口を結んでおく。
お金の整理を終えて、体を伸ばしてから横たえた。スーちゃんに声をかけると返事がない。体は時折動くけれど。どうやら眠っているみたい。
「おやすみなさい」
──明日は勇者様の御一行を探して、スーちゃんにはご褒美をあげなくっちゃ