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6-2







「着いたぜ」



 男の人の声ではっとする。

 結局大きな揺れに何度も起こされて、うつらうつらとして眠ったのかよくわからなかった。村の床で眠ったりもしたし繊細だとは思っていなかったのだけれど、意外とそうなのかもしれない。もしくは車での移動に慣れてしまっていたのか。もう以前の体ではないのに変な話ね。


 馬車から降りると空はすっかり暗くなってしまっていた。男の人に別れを告げて目の前の街へと入ってゆく

 風が潮の香りを運んでくる街だわ。鼻がなんだか少しツンとする。魔法灯ランプが道を照らしてくれているけど細かなところは見えない。せっかく新しい街に着いたのだし少し見て回りたいところだれど、今は優先する事があるため今は置いておき、目的地を目指した


 船着場に着くと何艘かの船と客船らしき船が二隻止まっていた。船着場はとても静かで、人もほとんど見当たらない。船はあるけれど出る様子はなさそうだった

 見ていても仕方がないため近くにいる人に声を掛けた



「すみません、出航はいつ頃かわかりますか?」

「ああ……今日はもう定期船はないよ。明日の朝また来てくれ」

「そうなんですか……ありがとうございます」



 礼をして教えてくれた方から離れた。

 夜漁の船に乗せていただく訳にはいかないし、今日は休むしかなさそうだわ。お腹を満たして宿に泊まらないとね


 先に食事にしようとお食事処を探せば一店だけあった。大きなお店で、入るとたくさんの人で賑わっている。お店の方らしき人に料理を頼むと銅二枚らしく、銅貨をお渡しして支払いを済ませてから空いている席へと座った

 店内にいる人は様々だった。港町だから色んな人が行き来するのでしょう。肌の色や凶器の有無や髪の色。服装──地域色の出る服の染め方や合わせ方だとか。

 そういった違いが見ていたらわかる。どれがどこのものだとかは残念ながらわからないのだけれど。それでも色んな人がいて見ているだけで楽しい。長いあいだ部屋の景色ばかりだったから余計にそうなのかも



「お待たせしましたーとれたて魚のレッド煮です」

「ありがとう」



 女の子が頼んでいた魚を持ってきてくれた

 種類はいくつかあって悩んだけどせっかくの港町だし、魚で無難そうなものを選んだ。一番始めの欄で見慣れない食材名が目に飛び込んできたからそれらを避けるとこの料理になった。レッド煮というだけあって真っ赤ではあるけれど辛いものではないみたい

 一緒に持ってきてくれた木製のスプーンで掬ってスープから飲んでみる。ほんのり酸味があって、魚の旨みがスープに出ている。どこかで覚えのあるお味だわ。



「あ……トマト?」



 そう、トマトだわ。トマト煮といったところね。もう一掬いしてみる。大きめに切られたものが具材があって口に入れた。噛むと簡単に切れた。このほくほくとした感じは芋かしら。煮崩れしてはいるけれど主役の魚もやわらかい。癖のない白身魚で、とれたてと名に偽りなしの新鮮なものだった


 思っていたよりも記憶にあるものばかりだわ。口にも馴染んでいるし、一般的な料理なのかしら。でも料理名だとかは聞き覚えがない辺りアリーシャは料理には詳しくないのかも知れないわね。



「ふう……」



 食べ終わると思わず息が出る。美味しかったし心身あたたまった。そういえばきちんとした食事は久しぶりだわ。それもあるのかも。



「そういやぁ、俺この間勇者見たぜ。パーティの仲間がそう言ってたんだから間違いねぇ」

「今時珍しくないだろ」

「そうなんだけどよ。美人二人連れてたんで気になって……」



 お店を出ようとして近くの席に座っている男の人二人の会話が聞こてきた。足が止まる

 助けが──勇者の方がこの近くにいるの?



「突然ごめんなさい。その勇者様をどちらで見ました?」

「お?」



 気付けばそう声を掛けていた。定期船に乗って帰るとしても、近くにいるのなら無事である事をお伝えしたかった。あの時の方は普通の旅人のように見えたもの。あまり戦いに身を投じさせるのは喜ばしい事ではないわ。遠くにいるのならまだ諦めがつくけれど、近いのなら向かっても良いんじゃないかしら、と思う。



「あ、ああ……俺が見た勇者はここから西の方だ」



 突然声を掛けてしまったから、驚いた顔をされたけれど教えてくれた。

 西の方にあるという洞窟で数日前に見掛けられたのだと。その洞窟が結構な距離で、さすがに向かえそうになかった。花の街のリーヴリスよりも更に西の方だと言うのだから、馬車を利用したとしても一日の間ではとても辿り着きそうにない。

 お礼を言って改めてお店を出た。勇者様の件は残念だけれど、明日の朝の船に乗ってアレキサンドリアに帰らなくては。


 宿屋で銅を一枚渡して、部屋を借りる。食事も終わっていたし、疲れもあってベッドに入ると泥のように意識が沈んでいった



 ──早くアレキサンドリアに帰れますように……。





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