会話に出ていたムリンとルトナークに聞き覚えがある。ムリン村に関してはそこまでではないけれど、ルトナークに関しては強く覚えがあった。耳によく馴染む程に。
ルトナークの人と接触して話が出来れば、好転するはず
「ムリン村やルトナークに何かあったのですか?」
──あのザマと。
言っていたあの言葉が過ぎる。嫌な予感で破裂しそうな程にドキドキとして胸を押さえながら尋ねる
震えそうになる声を抑えながら尋ねると店主の方は怪訝そうな顔をされている
「……嬢ちゃん、どこから来たんだ? アレキサンドリアの方からか?」
「え? はい、そうですが」
「やっぱりか……」
質問に質問で返されて、答えると店の方は眉間に皺を寄せて溜め息をついた。頭を掻いておられて、何だか面倒そうな表情をなされていた
「何か買ったら教えてやる」
「購入したら……ですか」
店内をぐるりと一渡り眺めてみる。商品はいくつかあれど喉から手が出る程欲しいものはなく、単純に欲しいと思えるものがなかった
というよりは、縄や例の木の実はともかくそれ以外の物の使い道が今ひとつわからないというのも理由で。でも教えてもらうのだし一つ選んで何か買わなくてはね。ロープにしようかしら。棒結びにしておけば持ち運びやすいし
そうと決まれば早速買おうとロープを手にとろうとして、大事な事を思い出した
──お金がないんだったわ。木の実はもちろんロープ一つ買えないのよ、私。先にアクセサリーをどこかでお金に買えないと。この町に質屋のようなところはあるかしら
「決まったか?」
店主の方に声を掛けられて、言うのを躊躇う。それでも少しだけ待っていただくしかなさそうよね。息を吐いて、深く息を吸った
「実は今持ち合わせがなくて……」
「おいおい……冷やかしは勘弁してくれ」
予想はついた事だけれど顔を顰められてしまった。慌てて続く言葉を述べるため口を開く
「どこかで換金したら必ず戻ります」
「言っとくがアレキサンドリアと違って魔石は安いぞ」
「……魔石?」
聞き馴染みがあって、知っているような気がするけれど知らない単語。奇妙な感覚だけれどこれはアリーシャは知っているけれど詳しくはない――という事かしら。町の事程知っている訳ではなく、けれど知らない訳じゃないとかそういう。
でも他の人からすれば知っていて当たり前の事なのか、店主の方は顰めた顔を更に険しくされた
「あ……魔石ではなく貴金属を売ろうと思って」
「貴金属? うちは買取もしている。見せてみな」
買取までされているのね。何でも屋さんみたいなものかしら、なんて思いながら首から装飾品を外す。ブラッド様に渡すつもりだったそれを店主の方へと手渡した
店主の方は一つ一つの細工を見るようにじっくりと見ている。お金の代わりに渡すつもりだったものだから少額だったらどうしようと緊張してしまう
ドキドキと高まる心音を聞きながら目を逸らさずに見つめて待っていると「ほう」と言って店主の方は顔を上げ私を見る。じっと見られて、思わず目を逸らしてしまう
「金一〇枚で買い取ろう」
「まあ……! お願いします」
一文無しだった私には嬉しい価格だった。このお店で木の実なら少ししか買えないけれど、縄だったらたくさん買えそうな金額。金が一〇枚だもの。
すぐにお願いすると店主の方はあんなに険しかったお顔がにこやかになって、一〇枚の金貨を渡された。金を丸くした金貨には二つの紋章が刻印されている
換金して漸くお金を手に入れる事が出来た。店主の方は袋まで付けてくださって、私の心は弾みそう
──どうしようかしら。ひとまず、疲れもあるし今日はお宿で休みたいわ。これだけあれば足りるかしら
「ああそうそう。ムリンとルトナークに関してだったな」
「あ、少しお待ちくださいね。買うものを持ってきますから」
「サービスだよサービス!」
「え。でも一〇枚もくださった上に巾着もいただいたのに……」
「嬢ちゃんには良い物買わせてもらったからな。話してやるよ」
──何たる僥倖かしら!
すごくサービスしてくださるのね。このお店で売って良かったわ
心は弾むけれど、ムリンとルトナークの話に関してはそうはいかない。上機嫌そうにしていた店主の方も浮かない面立ちに変わった
「つい数日前にムリンは滅ぼされたんだ。あっという間にな」
「数日前、に」
「そして……