「──ふあ、あ……あいたた」
開けておいた扉から入る陽の光で目が覚めた。今日は陽が差すような良い天気みたい。空は良い調子みたいなのに体の節々は痛んだ。固い床で寝ていた事だけではなく、久々の運動で流石に堪えたみたい。足は筋肉痛になっているみたいで痛みが持続している
立ち上がって体を伸ばしていく。伸ばしすぎると今度は攣ってしまいそうで程々でやめておいた
──昨日手に入れた干し肉をよく噛んで食べて満腹にさせて、次の町まで堪えなくっちゃ。出来るだけ早くあのお城から遠い場所に行かないと
早めの行動が吉として、村にはこれ以上長居せずすぐに出る事にした
自分が来た方を振り返って辺りをよく観察してから出発した
何度か休憩を挟みながらも進んで、次に見えたのは向こう側がまったく見えない程の深い森。深みのある緑色で枝を覆い天に向かって枝葉を伸ばす木々はこれでもかという程に場所を埋め尽くしていて。
もしかしてここを越えるしかないのかしら……
「……もしかしなくてもそうよね」
深呼吸を繰り返して、眼前の恐ろしい程の一面の緑を見つめる。何回も何回もつい深呼吸をしてしまう。わかりきっていることだけど逃げてはくれないのよね
ここはそう、思い切って飛び込むのが一番。腹を括って大きく足を踏み入れた
──森は怖い。虫や獣はいるし、景色がそう変わらなかったりして道がわからなくなってしまったりとする。山のようにあまり緩急がないだけいいわね。それに、範囲は広いようだけど、陽の光が入るのが幸いだわ。ええ、まだ恵まれている。最悪ではない。とは言っても最高ではなくて。この森を抜けた先の事よりもまずは抜けられるかが心配になってくる
ひとまず真っ直ぐ真っ直ぐ進んでみるけど障害物があって結局は右や左に行かなくてはならなくなってなかなか上手くいかない
今日は昨日と違って晴れていて太陽が見える。直視は出来ないけれど大体の位置を見ることは出来た。今は真上くらいにあって森を照らしてくれている
空は晴れていて、城から離れたのに気持ちは晴れ晴れとしない。先行きが不安ということもあるのだけれど、今はこの森がそうさせていた
がさがさ、がさがさと、どこからか音がするから
「……確実に、何かいるわよね……」
鹿や猪とかだったらまだいい――出会いたい訳ではない――けれど追っ手のモンスターだったら最悪だわ。筋肉痛で抜け出した頃よりもペースは落ちているだろうし、遭遇してしまったら一巻の終わり。いえ流石にすぐに殺されたりはしないとは思うのだけれど。何かに利用するみたいだったし。何はともあれ森を抜けなくちゃ
考え事をして、心臓に悪い物音を聞きながら進んでいって。お天道様が傾いてきた頃に一度足を止めて大きく息を吐く
しゃがんでふくらはぎをさすった。セリがどこかに生えていたりしないかしら。煎じて飲むことが出来たら違うのに。合っても煎じる道具がないのだけれど。そもそもここの食べ物ってどうなっているのかしら。アリーシャは与えられて食べるばかりであまり詳しくない。村で見た限り私が知っている食べ物に似た物はあったけれど見たこともない物もあった
……ゲームってそういうところどうしているのかしら。現実にあるものを出すかしら。それともまったく新しい物を出すのかしら。どっちが多いのかわからないけれど、ここではその両方かしら。これからは食べ物にも気をつけないとね
「あら?」
立ち上がろうとして、茂みに白いもこもこが見えた。この真っ白い毛はうさぎかしら。ガサガサの正体はこの野生のうさぎだったのかしら。見えている限りでもふわふわそうな毛。ちょっと触ってもいいかしら
少しドキドキしながら手を伸ばす。触ろうとした直前で動いた。咄嗟に手を引っ込める。触れなかった事を残念に思っていたら白い壁が出来た。目の前に白い手触りの良さそうな――――
「……アラー?」
──うさぎ。ウサギ?
私の知っているサイズのうさぎじゃない……。木と同じぐらいの背丈があるのだけれど
振り向いたうさぎの顔は知っている顔そのものだけれど鋭くて大きな牙が見える。あれは位置だけ見れば切歯のように思える。だけれど脚には全て鉄の篭手が着けられていた
大きくて濡れたみたいに潤んだ目と目が合った
瞬間に体の中心から全身に向かって寒気が走った。すぐに地面を蹴って走り出した
「ッ……!!」
後ろからバキバキという木が割れる音とドスドスと重そうな音がする。もっと早く走らなきゃ。自分の息が鮮明に、よく聞こえる
あのモンスターは知らないけれど、多分あの子もモンスターよね。今まで会ってこなかったのに、まさかこんな場所で遭遇してしまうなんて。ただでさえどっちがどうだとかわからなくなりそうなのに。嫌な遭遇だわ
不意に音が消えた。諦めてくれたのかしら
そんな事を思っていたら。突然に影が差した
──あ。まずいんじゃ
そう思うのに足が止まってしまった。足は小刻みに震えていて恐怖を訴えている。こんな時に限って汗が流れているのをやけにはっきりと感じた
「横の草むらに向かって飛べ!」
──誰の声!?
誰かはわからないけれど、体は動けるようになっていて、体は反射的に動いていた。気付けば草むらに横たわっていた
私がいた場所にはさっきの巨大なうさぎがいた。上を見ていなかったからわからなかったけれどかなりぎりぎりだったみたい。地面が振動したのはつい今し方だったから
そうだわ。私に声をかけてくれた人は一体どこに? 姿が見えない
「こっちだ! そう、こっちだ来い!」
うさぎがピンと立てている耳を動かし、声のする方を向く。私が息を呑むと同時にうさぎが跳躍して、そう間もなく金属音がした。そう遠くない場所に助けてくれた人はいるみたい。すぐにそちらに向かった