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3-5







 片手に弓を携えたエルフの女性の後ろ姿を見ながら森の奥へと歩いていく。続いていけばある地点で足を止めた

 木々の間を縫って歩いて着いたのは何の変哲もない場所だ。勇者は首を傾げミーティアは警戒している


 エルフが木々の間隙に手を入れた

 すると空間に歪みが生じる。女性は気にした様相もなくそのまま体を差し込んでいった



「幻視……隠匿。結界の類の魔法ね。範囲が狭いから入り口からは感知出来ない」



 やや興奮した調子でクレアが言った。てんで魔法に疎い勇者達は首を捻っている

 そうこうしている内に女性は吸い込まれるようにして姿が見えなくなった。クレアが前に出て同じように手を入れる。確かめてから奥へと進んだ。残る二人もそれに倣って結界の中へと入っていった


 感覚としては何もなかったが、結界の中に入ると景色が一変した

 すぐ横にあったはずの木は離れた距離にある。道の先には木造の家がまばらに建てられていた。その中で一番奥にある家へと女性は向かっていく


 それを追いながら里を眺める。当然エルフがおり、勇者達を見たエルフ達は警戒して注意深く見ていた



「ここだ。粗相をするなよ」



 里を見ているとそう経たずに目的の場所に着いた

 エルフの女性がドア代わりの布を腕で持ち上げて中に入る。三人も中に入った


 正面には青年に見える男が立っていた。腰まである金の髪も艶めいていて長にしては若いように思わせた


 何かの冗談なのか。例えエルフジョークと言われても笑い飛ばせる自信がない勇者は出入口の傍らで待機している女性を一瞥すると、女性は眉間に皺を寄せていた



「長の前だぞ。礼ぐらいしたらどうだ」

「え、しっ失礼しました!」



 エルフという種族の特性上見た目は若くとも長のようだ

 勇者達は礼をしようとしたが長は片手で制した



「礼をするのは我々の方だ。同胞を助けてくれたそうだな」

「助けた、という程の事では」



 森での一件の事だろうとすぐに見当がついた。しかし勇者達からすればモンスターを倒しただけに過ぎない。長直々に礼を言われるほどの事ではないのだ

 謙遜ではなく事実として述べると一言「ふむ」と呟いた



「確か勇者一行で仲間を探していると伝え聞いたが」

「……はい。魔王を倒す旅をしています。しかし僕はまだ未熟で……エルフの方は魔力や知力に優れていると聞いたものですから。お力添えいただけないものか、と」

「同胞からもそう聞いている。──レイラ」

「はい」



 鈴を転がしたような声が場に凛然として届く。レイラと呼ばれて両者の間に立ったのは入り口で佇んでいた女性だった。王の眼前のようにレイラは長の前で片膝をついて顔を伏せる



「この娘はレイラ。我が里の弓の名手だ。連れて行くといい」

「協力していただけるのですか? 何故?」



 にべもなく拒絶されたのが記憶に新しい勇者達はそう尋ねざるを得ず問いを投げた



「率直に言えばエルフの面子が潰れてしまうからだ。我々は国に隷属する気はない」

「……つまり、国に関わる勇者に借りが出来てしまったから返しておきたいって事ね?」

「その通りだ」

「いいんじゃないかしら。単なる善意って言われるより信頼出来そうだし」

「クレア殿は穿った見方をしますね」

「そーぉ? ありがと。……それで、どうするの?」



 割って入ったクレアはリーダーである勇者に決定権を委ねる

 他にも理由はありそうではあるが、お互いの利になる。勇者は考え込んだが深く頷いた



「わかりました。力添えしていただけるのは有り難いです」



 勇者は仲間を得て、エルフは借りがなくなる。利害が一致しての事ではあったが、勇者にとっては駄目かと思われていたモノが果たす事が出来て喜びを感じていた

 承服すると長の家から出る事となり家から出た


 エルフの民の弓使いレイラが加入する。そのため、家から出るとレイラに身支度があるから入口で待つようにと言われた。三人は断る理由もないため入口で待機する



「ああそうだ。勇者に訊きたかった事、まだ訊けてなかったわよね」

「ん? ……ああ」


 ふと思い出したようにクレアが言う。初めて森に入った時の事を言っているのだろうと遅れて気が付いたようで後から相槌を打った



「どうしてお姫様を助けようと思ったの?」

「……どうしてって?」

「聞いた限りじゃ単なる冒険者で。王国に来ていただけで、王族には今まで一度も関わった事がない。それなのにこんな危険な旅をして助けようとしているのは何故? 魔王の戦いで死にかけたのに諦めずに邁進しようとしている。何が勇者を駆り立てるのか不思議なのよね」



 クレアの澄んだ琥珀色の瞳が勇者を捉える。勇者は視線を絡ませたあと数秒瞼を下ろして天を仰いだ



「浚われた時。僕はその場所にいた。そして姫に必ず助けると約束した。だからだ」

「…………それだけ?」

「ああ。ダメか?」

「助けたいから助けるという事ですね! 素晴らしい。まさしく勇者を名乗るに相応しい!」



 珍しく目をキラキラと輝かせてミーティアが顔を覗き込んだ。何度も頷いている。勇者が苦笑いで曖昧に返せばミーティアは我に返って咳払いし「失礼致しました」と言って体を引っ込めた



「……ふうん……それだけ、なのね」

「不満そうだな……」

「不満じゃないわ。不思議なだけよ。でも……そうねぇ。ミーティアの言うように勇者らしいわね」



 ぽつりと呟いたクレアに勇者が苦笑いを向けるとミーティアと同じようにを口にした

 クレアは艶めきを感じさせるような笑みを描いた



「ありがとう勇者。今は訊きたかった事はそれだけ」

「そうか」

「エルフ……レイラ殿、でしたか? レイラ殿が来るまでに次の目的地を決めましょう」

「ダンジョンに潜ろう。力をつけないとな」

「あともう一人くらい仲間が欲しいけどねぇ。男手がいるわ。パワータイプとか」

「確かに……パワー不足感はありますね」

「先に力をつけておこう。それから仲間探しだ」



 今後の方針について話し合いを始めた

 マップで確認しながら話し合っていると足音が近付いた。足音でマップから目を話して見遣るとレイラが立っていた。紐で固く結んだ矢筒を背負い弓は片手で持っており、腰には紐のついた革袋を下げていた



「出発だ」

「……ああ。よろしく頼む、レイラ」

「よろしくなどしない。魔王を片付けるまでの間だ」



 握手を求めて片手を差し出した勇者だが、レイラは横を通っていってしまった

 ピシャリと浴びせられた言葉には新たな仲間に対する温かみはない。先を行くレイラにミーティアは僅かに眉を寄せて伏し目がちに息を吐き、クレアは肩を竦めている


 何はともあれ勇者はクレアを始めとし、ミーティアを仲間に入れ、レイラを迎える事が出来た。着々と仲間を増やせている。後は力をつけて再び魔王に挑んで討ち果たし、アリーシャを救出するだけだ


 そう、筋書き通りに進んでいる。ゲームの通りに


 そんな事は誰も気が付かないまま。勇者達は姫を助けるために歩み続けた




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