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3-3





「……何も反応がありませんね」

「やっぱりダメなのか……?」



 数分程返答を待っていた勇者一行だが、何も返事が返って来ない。もう一度呼びかけようと勇者は足に力をこめた


 瞬間の事だ。勇者の足元に何かが突き刺さった。反射的に勇者は身を引く。足元には一本の矢が突き刺さり、揺れていた



「動くな」



 鈴鳴りの声の女性が突然現れた。三人は霧で見えなかったが木の太い枝から降りてきたのだ


 女性はキャンパスグリーンの髪をしており、尖った耳が覗いている。片手には木で出来た弓を持っている。彼女が先程射ったのだろう


 その場にいたのは彼女だけではなかった


 霧が和らぎ、周囲を見渡せるようになると把握させられる。大木の後ろや少し離れた場所に男女様々佇んでいた。弓か杖を手にしており、警戒心を露わにしている


 どの者達も若々しく、整った顔立ちをしているが、その端麗さが冷たい印象を与えた。そんな彼ら――エルフに囲まれている


 ミーティアとクレアは息を呑んで慎重に状況を見ている。少しでも動きを見落とさないように目を頻りに動かしていた


 矢を放った女性が前に出てきた。髪と同じ色の目が睥睨している。それは全体の総意を示すようだった



「話とはなんだ」

「……僕達は魔王を倒すための旅をしている勇者一行です。協力してくれる仲間を求めて来ました」

「まさか仲間になるとでも思っているのか?」



 間髪入れずに周囲の男が言い放った。冷淡な声は耳に届いていたが、勇者は負けじと声を出す



「力を貸してもらえないだろうか」



 目の前にいる女性を見据えて勇者は告げる。ミーティアとクレアは固唾を呑んで見守っていた

 沈黙が下り、霧が濃くなり始める

 それは拒絶。言葉のない否定だ



「っ待ってくれ!」



 霧で姿が見えなくなっていく。消えるようにして紛れていっていた。勇者は手を伸ばし、止めようとする。しかし霧はどんどんと濃くなっていき、やがて先程まで囲う程にいた者たちは見えなくなってしまった


 伸ばした手は空振り、勇者は辺りを見回す。濃霧でほとんど見えない状態に戻ってしまっていた。勇者はがっくりと肩を落とす

 交渉は決裂。仲間を作る事は出来なかった



「エルフ相手じゃあ仕方ないわ」

「噂以上に手強い種族でしたね……」

「ここを出ましょ。長居すれば今度は仕掛けられそうだし」

「……そう、だな」



 霧の中からするクレアとミーティアの声に、後ろ髪を引かれる思いがあるのか勇者はどこか歯切れの悪い返事を返した



 帰り道もわからない霧に風魔法を連発して視界をクリアにして閉ざされた眼界を広げながら来た道を戻っていく。森を出る頃にはクレアは魔法を頻繁に使ったため精神的な疲労が隠しきれていなかった



「少し休憩してから出るか」

「そうですね」

「賛成~~」



 魔力の回復には休息して時間が経つかそれ自体に魔力が詰まっている魔力回復アイテムを使うしかない。アイテムに関しては値が張るのだが旅の必需品だ。勇者一行も当然購入している


 勇者はその魔力回復アイテムを道具袋から出してクレアに渡した。自然に生って魔力を蓄える果実であり、味は良い。そのためかクレアは時間をかけて味わっていた


 その様を勇者は眺めていた。ミーティアも勇者も魔法は使えないため感覚がわからない。かといって目視でわかるわけでもないが、ついつい食い入るように見てしまっていた



「なあに? 食べたいの、勇者。意味ないでしょ?」

「いや……僕は魔法とは無縁だから、不思議で」

「私も書物や魔法使いから見聞きしてはいるもののわかりませんね」



 ミーティアも同じく気になっていたらしく横から入って来た



「魔力が足りなくなる感覚とか」

「……魔法疲れは精神的なものだから気力がなくなっちゃう感じかしら。そうね……甘い物が食べたくなって、食べたら元気! に近いかしら。アタシにとっての甘い物はコレ」



 そう言って二つ目を取り出してクレアは口の中へと入れる。広がっていく味と染み渡る魔力に多幸感を味わっていた



「魔力切れはエネルギー切れね。魔法を使う魔力が全然ないの。気力はあっても魔力がなかったりとかもあるの」

「そういった場合には魔力回復アイテムはあまり摂りたくはないのですか?」

「それはそれ。別物よ。もちろん、普通の甘い物も好きよ? 気力だけで言えばケーキでもいいのだけれど……魔力が回復出来るとなるとこういうのが体はもっと喜ぶってだけで」

「……何だか不便そうにも思えるな……」



 剣士として前で戦う二人には未知の世界の話だ。前衛二人にクレアは肩を竦めてみせた


 軽い休息を終えて口惜しくもエルフの里から離れようとした。一度だけ森を見て、勇者は動きを止めた



「霧が……」

「どうされたのですか、勇者殿」

「霧がなくなっている……」



 勇者の言葉でミーティアとクレアも森を見遣った

 入り口から確認できる程濃かった霧がなくなり、奥まで見えるようになっていた。木の形や道も今ならば明確にわかる。印象も全く異なっていた



「本当ね」

「我々がいなくなったから解除したのでしょうか」

「それはないと思うけど……」



 侵入者の出入りで霧を発生させたり解除させたりするとなると手間になる。標準で魔力が多いエルフであれば長期間の魔法の使用など容易い。交代ならともかく侵入者の有無でわざわざ消す必要はないのだ



「何かあったのかもしれない。入ろう」

「はい。大事の前の小事ですね」

「りょーかい。気をつけて行きましょ」





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