「隠れて」
城壁らしき壁が見えたかと思えば、手前の木々に体をつけて隠れる事になる。他の皆さんも同じように他の木に隠れていたり、しゃがんで茂みに身を隠していた。
少しだけ体を乗り出してお城の前を見る。壁はところどころひび割れて、破片が地面にいくつも落ちているのも見えるわ。
周囲にはお城から脱け出す時に見たような姿の生き物たちの姿があった。ひしめき合っているという程ではないけれど、こちらの数の倍以上はいそう。
「中の様子が気になるわ。道を切り開いて、中に入りましょ。アタシが仕掛けるわ」
クレア様の言葉にみんなが同意して、行動を始める。特殊な言葉を紡ぎ始めると、ミーティアちゃんに手を引かれた。身を少し低くして木々の間に身を潜めながら、歩いていく。クレア様から幾分も離れたところで止まった。
──空を、風が駆ける。
風の波が離れたこちらからも感じる。目に見えない凶刃が、モンスターと呼ばれる彼らの体を傷つけた。四方八方から血が飛んで、目を閉じてしまう。だめよ。すぐに目を開けると、勇蔵様が飛び出して、剣を振りかぶった。
そのあとを、見る前にミーティアちゃんに手を引かれて走る事になった。
城門前まで駆け抜けると、勇蔵様の前に倒れたモンスターがいた。やがて光となって消える。道中までに何度か見た光景。でも慣れない光景。
勇蔵様に続いたブラッド様が、更に近くのモンスターを斬り捨てた。扉の方を見れば、ミーティアちゃんが大扉に手をかけていた。扉は簡単に開かれる。
「城門が閉ざされていない……。襲撃されてから然程時間は経過していないようです。姫様、必ずお城にお送りしますので!」
「足手まといになる。さっさと連れていけ」
矢筒から素早く矢を引き抜いて、弓を引き絞ったレイラ様が私たちの前で矢を放つ。的確に門前のモンスターに当てた。
「またそのような事を……無礼ですよ、レイラ殿!」
「いいえ。レイラ様の言うとおりだわ。私には皆様のような力はありません」
ミーティアちゃんは怒ってくれようとしたけれど、それを引き留める。
私には力はない。歩きにくさとか、体力とか、そういったものを無視してついていくので精一杯。レイラ様は力のない者を下がらせようとしている。自分で言うのもどうかと思うけれど、賛成だわ。無理に前に出ても迷惑になりかねない。盗賊の時や、ブラッド様と初めて会った時とも状況が違う。
私が今するべきなのは、安全な場所まで逃げることだわ。
「……わかりました。今は、姫様に免じて控えましょう」
「ミーティア! 僕も同行しよう。モンスターたちが中まで入っているかもしれない」
「ユゾ殿が一緒とは有り難く存じます!」
「では、皆さんよろしくお願いします!」
「ああ」
勇蔵様も同行してくれる事になった。申し訳ないけどあとはお願いしなくては。
ブラッド様たちにお願いすると、ブラッド様が一言だけ返し、残りの二人からは返事がなかった。その場に残ってくれている事が返事ね。
三人を背に、お城に向かって再び走り出した。