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8-3







 支払いを終え、勇者の値下げ交渉戦を観戦していたクレアとミーティアと共に出入口に向かう。出入口の横の壁にはレイラがもたれ掛かって待機していた。声を掛けるまでもなく、先に店を出てゆく。三人も続けばレイラは振り返りもせず先を歩いていた。



「装飾品に大金を出すなど人間たちはよくわからんな」

「加護付きだったから……」

「粘ったわよねぇ。結局いくらにしてもらったの?」

「三五枚」

「さ、三五ですか。良かったのでしょうか……」

「ねえ勇者、見せてくれる?」

「ああ」



 購入した物は全て道具袋に入れている。道具袋を開き、手を入れて中から先程購入したネックレスを取り出して手渡した。クレアは両手で受け取りじいっと見つめては嫣然と笑う。



「当たりね。運に恵まれやすくなるのと……吸収による魔法軽減がついているわ」

「そうか。それならミーティアが着けていてくれ」

「私ですか? 有り難く存じます」



 クレアの手からミーティアへと渡る。手にしたミーティアはすぐさま首に手を回して飾った。提げられたネックレスに勇者は満悦げに頷く。前方に視線を戻せばレイラが見当たらない。傍らの建物を見上げれば宿のマークがあった

 扉を片手で開けて中を覗けば受付にレイラが佇んでいる。勇者は当初の予定通りそこで他のメンバーと別れた。ミーティアとクレアはそのまま中へと入る。受付を済ませて借りた部屋へと向かった

 簡素なベッドが並んだ一室。鍵も鎖を所定の場所にいくつかかけるだけのものだ。それでも三人は何も言わずにベッドへと腰掛けた。



「姫様……城のどこにもおられなかった……魔王に人質として未だ捕らわれているのでしょうか」

「魔王のいるところに姫はあり、だったらいいけど。意外と逃げ出しているかもしれないわよ?」

「まさか。姫は非力です。跡継ぎが誕生するまでは象徴の一つとしてあらねばならない。戦う力を身に付けるには身を傷つける事になる。非力でなくてはならない。故に我ら王国騎士団がいるのです」

「それが拐われたとあっては元も子もないがな」



 レイラの刺すような鋭い一言にミーティアは口をつぐんだ。

 王国騎士団。王城にて王を始めとした王城に住まう者達を守る存在。ミーティアはそこのいち騎士だった。

 騎士として務めている身ながら、守るはずの相手を守れなかった。

 膝の上で手を組む。力が入った手は小刻みに震えていた



「我らはどのような立場であれ力をつける。むしろ長である程力がある。その姫とやらは剣でも弓でも扱えるようになるべきだな」

「姫様にそのようなこと……! 貴殿は姫に咎があると言うのですか!」

「ないとは言い切れん」

「まあ落ち着いて。仮に戦えても魔王相手じゃあ、お姫様じゃなくとも無理よ」



 悠々とベッドで弓の手入れをし始めたレイラをベッドから降りたミーティアが睨み付ける。世俗から離れた森の民には王城の事情など知ったことではない。それが態度に現れていた。

 クレアが仲裁に入るとレイラはフン、と鼻で笑う。国に忠誠を誓った身であるミーティアは唇を噛んだものの無言で腰を下ろした



「勇者、何か情報を掴めると良いけれど」

「……もし掴めなければ、一度城に戻るのも手かと。王に報告せねばなりませんし、何か情報があるかも知れません」

「そうね。何もなければそれもありねぇ」



 クレアとミーティアで勇者のいない間に話を進めていると手入れを終えたレイラは横になった。目を閉じて体を休め始めている。

 エルフ特有の整った顔立ちからは先程の苛烈さは見当たらない。先に休んだレイラにミーティアは顔をしかめたが憮然とするだけで口にする事はなかった。

 彼女の事は一瞥だけしてミーティアはクレアと話を続ける。様々な話をしたが結局は勇者の情報次第という話で纏まり、勇者が宿に来るまでは体を横たえる事となった





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