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6-9






 散らばったお金を集めて拾う。金貨の下に入れていた銀貨も出てきてしまっていた。全て巾着に入れていると戦いが終わったブラッド様が戻ってきた。巾着を持って、共に馬車に乗り込んで早々に出発した。

 あった事を細かに話していると左右が木々ではなくなった。狭まっていた景色が広がってゆく。長かった森を抜けたのね。緑以外の景色に馭者台の方まで向かう。二人の隙間から外の景色を眺めた。


 もうアレキサンドリア領には入っているのかしら。どちらにしてもあともう少しだわ。早く勇者一行と合流して、城に戻らなくては。でもその前に。



「頑張ったご褒美あげないとね」

「ごほうび、ごほうびー」

「スライムにしちゃあやってくれたからな」



 立役者とまではいかないけれど、十分重要な働きをしてくれたスーちゃんの体を撫でる。果たしてご褒美の意味を理解しているのかいないのかわからないけれど、言葉を繰り返していた。見られなかった私と違い目撃していたテッド様は同意してくれた。すぐに咳払いをして話から抜けてしまったけれど。


 少々危ない目には遭ったけれど積荷も無事で命もある。前世まえはいつお迎えが来てもいいように整理をしたり、早く来ないかと願ったりもしたものだけれど。今は若いからかやはり生きていたいと思うわね。あれほど息子や孫達に迷惑をかけたくなくて早く全うしたかったのに。


 ──いけないいけない。暗くなってしまうわね。私は今は近々来そうな筋肉痛への事を考えなくてはね。指圧と柔軟で何とかなるかしら。



「──見えてきたぞ。ヴァノーネだ」



 腕を押していた親指を離して身を乗り出す。鎧兜をつけえ槍を持った人が入口に立っていた。その先にはまっすぐな道があって、街がある。街の周囲には柱のようなものがいくつも立っているようだけれど、よく見えなかった。

 人の姿が見えた近くまで進み馬車が止まって、二人が降りる。目的地ではないけれど、せっかくなので街の全貌を見てみる事にした。スーちゃんには「待っていてね」と言えばその場で待機してくれた。

 柱に見えたのは水流だった。絶えず水の音がして、水が落ちている。水は下に向かって流れているのに無くならない。一本道の下は河だわ。水路は街の中にも伸びているようだけれどそれ以上はここからではわからないわね。

 テッド様が兵士の二人に近づくと槍が動く。槍は交差して正面の道を塞いだ。



「許可証はお持ちか?」

「……許可証?」

「アレキサンドリア王国が発行する通行許可証だ」

「何? そんなもんいるなんて聞いてねえぞ!」

「魔王一派による攻撃で被害が出ている。よって都市であるヴァノーネは許可なきものの立ち入りを禁止している。入りたければ許可証をとってから来られよ」



 村が滅ぼされたんだものね。人がたくさん住んでいる都市は特に閉鎖しなくてはならない。解るけれど、急だから知らない人も多いし困る人も多いでしょうね。盗賊に襲われながらも森を抜けてきたというのに、不憫だわ。

 やっとの事でたどり着いたという事でテッド様は抗議をし始めた。次第に懇願に変わったけれど、通せないの一点張りだわ。どれだけ言っても聞き入れてもらえずテッド様は不承不承引き下がった。



 ──これからどうするのかしら……



「なあ、おい」



 潜めた声が聞こえて声のした兵士を見れば片方の兵士が片方の兵に耳元で何かを言っていた。こちら──というよりも私を見ている。何か知れず粗相をしてしまったかしら。ドキドキとしながら動けずにいると耳打ちされた兵が振り返って首を振った。



「あんな身なり……ない……」



 途切れ途切れにしか言葉が聞こえない。処罰を待つ犯人の気分だわ。



「あ、あの……私何か……」

「……いや。何でもない。他の街も順に閉める。許可証を得る事を奨めておく」

「そうですか……。お疲れ様です」



 胸を撫で下ろしてお辞儀をする。礼が違うのに癖でしてしまったけれど、踵を返した。

 馬車まで戻るとテッド様が項垂れていた。深い深い溜め息をついている。方向を変えて気だるげに馭者台へと乗った。台の近くまで寄って見上げる。



「これからどうされるんですか?」

「とりあえず他の街に行く。風の街も通るから風の街で降ろしてやるよ」



 当初はヴァノーネが目的地だったけれど肝心のヴァノーネが入れない以上変えるしかない。場所はまだ決まっていないみたいだったけれど、ひとまず風の街まで送ってくださるみたい。

 お金足りるか少し心配だったけど、乗り込んだ。スーちゃんのところまで戻ると疲れたのか眠っていた。体が楕円形から少し崩れて下にだれている。起こさないように隣に腰を降ろすとやおらに馬車は動き出した。





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