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6-7







 再び馬が駆ける。駆けるとは言っても荷物や道の事があるためそこまでの速度ではない。けれど一息入れたからか幾分馬は元気を取り戻していた。希望通り陽が出ているうちに抜けられるかもしれないわ。時間にするともう何時間もこの森にいるものだから、すっかり見飽きてしまった。鳥や動物がいればいいのだけれど見当たらない。休憩を入れて緊張が少し和らいで、前のテッド様も同様なのかあくびをしていた。警戒といってもとても神経を使うからいつまでもしていられるものではないでしょうし。

 ここまで来れば風景も変わらなさそうなので私はスーちゃんと戯れて時間を潰す事にした。ぷにぷにと柔らかいゼリー状のほっぺた(なのかしら?)をつついてみたり、移動して遊びたがっているスーちゃんを手から手へと移したりとして二人で遊んでみる。


 はじゃいでいたみたいだけれど、あまり遊びは長くは続かなかった。膝においておしゃべりをすることにする。こうして再会するまでに時間が空いているから、それまでの事を訊く事にした。この子にとって大変な冒険だっただろうから。

 スーちゃんは別れてからすぐではないけれど、そう経たずに追ってきたらしい。私は馬車を利用したりもしたけれど、基本的には徒歩だったからそれほど移動していないけれど小さくて跳ねて移動する上どこに行ったかもわからないから時間がかかったみたいだった。



「でもアリー見つけたー!」

「大変だったねぇ。探してくれてありがとう」



 話の最後に嬉しそうに語るスーちゃんに目を細める。

 連れて行く事に決めたけれど、やはり心の隅では迷いがあるわ。この子に何かあったら嫌な気持ちはずっとあるから。かといってここまで来てしまった以上やっぱり帰すなんてことは出来ないけれど。



「でも……どうしてスーちゃんは」



 突如馬車が大きく揺れた。話は中断になり咄嗟にスーちゃんを抱え込む。前の二人が大きな声で何か言い合っているようだけれど聞き取る前に車体に衝撃が起こった。


 馬の嘶き。男の人の叫声。


 数十秒ほどの間で起こった出来事が上手く呑み込めず、荷馬車が止まってから様子を見る事になった。スーちゃんを降ろして馭者台を見遣る。二人は降りているみたいだった

 馬車の中は先程の振動と衝撃で少し荒れてしまっていた。積まれていたものは幾つか落ちて大きな革袋の中身が出てしまっている。落ちているものを中に戻し積めるものは積んで縄で結んで馬車と繋げる。勝手な事ではあると思うけれど、こうしておけば荷物の安全性が高まるわ。

 不意に金属の擦れる音がしてはっとして馭者台の方へと向かった。テッド様がこちらに急ぎ戻ってきている。



「盗賊にやられた! 嬢ちゃん、あの傭兵が相手している間に立て直すのを手伝ってくれ! ここで死にたくないだろ!」

「もちろんお手伝いさせていただきます!」



 何をするにしてもひとまず降りる事にした。振り返ってスーちゃんを確認すればスーちゃんも降りているのが見える。複数の声があちらこちらから聞こえその中にはブラッド様の声も混ざっていた。進行方向の道には太めの木が倒されているわね。道を塞ぐ木には乱雑な切り口がついていて、盗賊が切り倒したみたいだった。

 まずはこれを二人で退ける事になって二人で押した。道はあまり広くはないから、木々の方に向かって転がしにかかっているけれど、ほとんど動かない。体重をかけて押して少しずつ動いてはいるけれどどうしても時間がかかってしまう



「他にも木が落ちていれば……」



 木が二本あれば下に差し込んでもっと楽に動かせるのだけれど。見渡す限りでは落ちているのは小枝や葉っぱばかりだった。使えそうになさそうだわ。今は押すしかなさそう。

 一度止めて深呼吸をする。少しでもやりやすいように腕まくりをして、手についた土を払った。隣でテッド様も息を吐いている



「もう一回……同時に押すぞ!」

「はいっ!」



 場所を移動し再び押しにかかった。片側を押して曲げてゆき横になっていた木を縦に変える。全身の力を使ってやり続けているからか体は汗ばんでいた。力がかかっていた足や腕は疲労感があり、お腹も痛んだ。明日は筋肉痛になっていそうだわ

 それでも何とか横たわった木を退ける事が出来た。入っていた力が抜けて息を吐く。汗だくのテッド様が振り返って声を上げた。



「何しやがる! やめろ!」



 驚いて振り向けば一人の盗賊が荷物を狙っていた。戦いから抜け出してきたみたいだった。

 テッド様は休む間もなく駆け出してゆく。盗賊が荷物を固定している縄を解きにかかっているのが見えて私も向かった。



「んだこりゃ。どう結んで……」

「商品に手を出すんじゃねぇ!」

「あ?」



 舌を打って盗賊がナイフを取り出す。咄嗟にテッド様の足が止まり私も足を止めた。縄を切るのではなく商品に傷をつけられてしまったらテッド様にとっては損害になってしまう。


 いいえ、テッド様自身を傷つけられたら────そう考えれば。戦う事は出来ない私であっても、動く事は憚られた。


 ──ブラッド様を呼ぶ事が出来れば……。或いはあのナイフを取り上げられれば……!





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