開いた道に、同じように移動のためのものに乗ると泉があった。何故泉があるのかしら。これまたよくわからず来た道を戻った
結局二つの道を行った私は最後になってしまった正しい道を出現させて正しい道を進んでいった
次に見えた城壁に、道のりは長そうに見えて少しばかり項垂れる。やっぱり城というだけあって広いのね。うちのお城と比べて広いのか狭いのか
どちらにしても体感では結構進んでいても実際にはあんまり進めていないのかも知れないわね
「外まではまだまだかかるの?」
「もうちょっと!」
「あとどのくらい?」
「ん~~このふ、ふ……ふろあにある!」
「本当!? 外に通じているようには見えないけれど……ここのどこかにあるのね!」
スーちゃんの言葉で喜んだものの、今いる場所を見て気力を奪われそうになる
左右と正面に道があってどこを覗き込んでも続いていて嫌な予感がする。入り組んでいそうな気がする
これは所謂迷路というものじゃないかしら
おばあちゃん、迷路行こー、だなんて手を引っ張る孫。連れて行かれた迷路。思ったよりも本格的でなかなか出られず数時間迷った──とか
「アリー?」
「ほ……ほほほ……何でもないのよ」
くたくたになってしまってそれだけで草臥れただなんて。そんな思い出が蘇っちゃった。今まさに迷路らしき場所に入ろうとしているのに
大丈夫、今は若いんだから。そんなすぐに草臥れたりしないわ
「スーちゃん、どの道を行くかわかる?」
「多分まっすぐ!」
さすがに細かいのかスーちゃんもあまり覚えていないみたいで曖昧だった。言われる通りに正面に見えている道を進んでいく
そうしたらまた違う道に出てきた。都度スーちゃんに訊いて進んでいった
「……あら?」
「道、なーい!」
着いた場所は紋様が書かれた行き止まりの壁があるだけだった。どこかで道を間違えてしまったみたいだわ
「違うみたい。一つ前の道を違う方向に進んでみましょうか」
来た道を思い返してみる。すべては覚えていないけれど前の道は二つに別れた道だったはず
前の道まで戻ってもう一つの道を進んでいった
その時だった。どこか壁の向こうからドタバタと忙しない足音が複数聞こえてきた。壁に片手をついてすぐにその場にしゃがむ。壁から振動が伝わってくる
「姫が部屋にいないらしいぞ!」
「何!? 逃げたか!」
「くそ、順調に事は運んでたってのに!」
「もう少しで……あの姫め!」
明らかに私の事を話している声が聞こえてきてドキリとする
あれからどのくらい経ったのかはわからないけれど、ついにバレてしまったよう。もう後戻りは出来ない。するつもりはなかったけど、現実に後ろの道がなくなってズンと響く
「……急がないと」
声を小さくしてスーちゃんにも自分にも言うように言って歩みを進めていく。曲がり角に注意しながら探した
曲がった先はまた違う道。大分深くまで来たとは思うけれど同じような道ばかりで合っているかどうかわからない。とにかく前進しないと声も足音も聞こえてくる。ここは余程広いみたい。どこからか違う音も混ざってる。何かが開くような音。
「ここも、前の部屋みたいに開けるタイプみたいね。ボタンがないか探しましょう」
「ボタン? ボタンじゃないよ!」
「……え? じゃあレバー?」
「違うー」
ボタンでもレバーでもない。それらを探しに行こうとしていたから良い話を聞けた。なんだかスーちゃんに頼りっぱなしだけど今は仕方ない
辺りを二、三度見回してからスーちゃんに尋ねた
「いつもは開いてるけど、開いていない時はー」
「開いていない時は?」
「ん~~なんかかちゃかちゃ!」
「か、かちゃかちゃ? よくわからないけど……ありがとう、探してみるわ」
スーちゃんも詳しい事はわからないみたいで肝心の部分が曖昧だった
かちゃかちゃ。何か音が出るものなのかしら。それとも何か操作するようなもの
考えながらも足を動かす。何度も曲がって、部屋を見つけて入る事になる。一室内には台があって何かをはめるような窪みが四つあった。窪みには模様が描かれている
模様の一つをどこかで見たような気が……。
「あっ!」
「どうしたの?」
「これー! ここー! かちゃかちゃ!」
「これで開けられるのね!」
スーちゃん曰くかちゃかちゃはこれの事だったみたい。今度はこれを操作して道を作ればいいのね
把握したもののかちゃかちゃ要素が――はめるための何かが足りない。誰かが持っているのか、どこかに置いてあるのか
もしかしたら部屋の中にあるのかもと部屋を探してみる。室内には台以外にあるのはあの三つの部屋の内の一つの先の部屋にあった物と全く同じデザインの赤い箱。確か勇者への贈り物。ここにもあるみたい
──まさかこの中に……?
いくらなんでも扉を開ける鍵に当たるものを勇者にあげたりはしないと思うけれど……
確認のため開けてみた。鍵はかかっていなかったから簡単に開ける事が出来て、中身を見ることが出来た。中に入っていたのは見たことのある果実で案の定鍵は入っていなかった
「やっぱり入っていなかったわ。それにしても……あの子こんなところでもイタズラしてたのね」
「あ、食べるー!」
あのアルラウネの子はこんな場所でもイタズラを仕掛けているみたい。鍵がかかっていなかったのもそのせいね
果実を見るやスーちゃんがそれを体内へと取り込みにかかる。消化されて消えていくのを見てお腹をさする。あれからずっと歩いて走ってとしてきているからお腹がすいてきていた。なるたけ考えないようにしていたのだけれど
どこかの町に着くまで我慢だわ。スーちゃんから顔を背けて見ないようにする
「アリー?」
「何でもないのよ。違う部屋に行きましょうか」
「あっちの部屋を開けて捜すぞ!」
「わかった!」
「え……」
近くから声がして、足音が近付いてくる。ここに来るみたい
来た道を戻れば遭遇してしまう。隠れられるような場所は────今目の前にある箱くらい。果実一つだけしか入っていなかったけど箱自体は結構たくさん入りそう。蓋も高さがあるし。ただ大分折り曲げて縮こまって入る必要がありそうだけど迷っている暇はない
体を痛める覚悟でスーちゃんと一緒に入った。膝を曲げて伏せ、腕を体に出来るだけくっつける
「スーちゃん、蓋を閉めて!」
「いいよー!」
スーちゃんに頼むとべちゃりと蓋にくっついて垂れる。重みで少しずつ下がっていき中は真っ暗になった。背中に何か転がっていく感覚がする。私はほぼ身動きが出来ないのでスーちゃんに転がっていってもらうしかない
その少し後に足音が入ってきた。足音は一つだけ。台の前に向かったのか足音は横に流れていく
微かに何かをはめたような音がした。箱が軽く揺れる。どこかの扉が開いたんだわ
「開いたぞ! 急げ!」
箱を開ける事なく足音は部屋から出て行き遠ざかっていく。静かになった室内。足音が聞こえなくなってからゆっくりと腕を伸ばした
蓋を押し上げて箱を開け出る。体のあちこちが痛い。体を伸ばせば節々から音がした。のろのろと亀のような遅さで台まで歩いていく
台にはさっきまではなかったものが置かれていた。半透明の赤い珠。占いとかに使う水晶に似ている。あれを一回り二回り小さくしたようなもの。綺麗で凝視してしまう。赤い珠は四つの内の一つの窪みにしっかりと入れられていた。基本的には管理しないで置いておいて開けっ放しにするのね。スーちゃんも普段は開いていると言っていたし。でもこの開いた場所に行くのは気が引ける。追っ手がこの道から出て行ったということだから
違う場所から出ようと違う窪みを見る。一つ一つ窪みの中の紋様は違うから道はあと三つあるという事よね
「……あ……」
思い出した。紋様に一つに見覚えがあると思ったら、壁に描かれていたものと同じだわ。ということはあそこが通れるようになるということよね。誰かが違うところを通ったのね
道を作るため珠を掴んで、ハッとする。私が部屋から抜け出した事は知られているのだから違う追っ手が来るかもしれないのよね
深呼吸をして、もう一度体を伸ばしてスーちゃんを両手で持ち上げて肩に乗せた
「スーちゃん、一気に駆けていくから落ちないようにしっかり掴まっていてね」
「……がんばる!」
私の肩に沿うようにして形を変える。くつろいでいるかのようにも見える
スーちゃんがしがみついているのを見てから珠を動かして見覚えのある紋様の窪みにはめた。足の裏に振動が伝わるとすぐに裾をつまんで地面を蹴った
来た道を戻っていく。今は鳴ってしまう足音は無視した。道を覚えているか不安だけれど足は止まることなく進んでいく。別れ道はいくつもあるのに通りなれているみたいにスムーズに駆けていけた
「ん? 今何か……姫だ! 姫がいたぞ!」
通り間際に聞こえた声に構わずただ目的地を目指す。いくつか抜けたところで足を止めた。大分戻ってきたしこの辺りのはず。何度も辺りをキョロキョロとして探す。体を方向転換して入口から歩いてきた時のような状態にした
追いかけてくる足音と心臓の音が重なる。違和感のある道にそちらに踏み込んだ
走り抜けた先にあの移動の印を見付けてそのまま止まらず円の中に入った
──景色が変わる
赤い絨毯が床に敷かれた道が続いている。石像が並んでいたり、階段があったりして今までと違うのが明らかだった
大きな両開きの扉が目に付く。他にも部屋がありそう。近くにも外に通じそうな扉があった。大きな扉から出るのは気が引けてそちらから出た
風が、髪を揺らした
辺りは薄暗く靄のようなものがかかっている。黒色が上空を覆っていて見上げても青空も夜空も見えそうになかった
「さっきのやつが近道! でもこっちからは行けない! 好きじゃなーい!」
「そう、なのね……」
風を感じるという事は外に出られたという事だと思うのに。外に出たような気がしない不安感があった。この暗さのせいね
何はともあれ漸く出られたのね。後はとにかく町を目指すだけだわ
──それでもしばらくは追っ手とかいるだろうし。抜け出すまではなんとか捕まらなかったし攻撃とかはされなかったけれど。これから先はそうじゃないかもしれない
攻撃されたりとかして危ない場面に何度も出くわしてしまうかもしれない。私の知らない事もたくさんある
そうなったら────
「スーちゃん。ここでお別れね」
「……ぷ?」
これ以上スーちゃんを連れてはいけない
スーちゃんを肩から地面にそっと降ろした
「今まで本当にたくさんお世話になったわ。ありがとう。……何もお返し出来なくてごめんなさい」
人差し指でスーちゃんの上の部分を撫でる。本当に頼りにしてばかりだったしお世話になってばかりだった
でもだからこそこれ以上はダメよね。恩返しが何も出来ないのは心苦しいし、癒やしだったから離れたくはないけれど仕方がないわ
「もし誰かに何か言われたら、姫に脅されたって言うのよ? おどされた。いい?」
「……おどされた?」
「そうよ。……元気でね」
名残惜しくてもう一度だけ撫でて感触を指先に残しておく。どちらが町かわからないけれどとにかくこの場を離れなくちゃ
もう一度裾を持ち上げて、振り返らずに真っ直ぐ駆けた