スーちゃんはモンスターの元に行くと何かを話し始めた。ここからだと細かい内容はよく聞こえない。話し声が聞こえる程度
大丈夫かしら……
不安に思いながらスーちゃんを持つ。自然と両手を組んでじっとスーちゃん達を見ていた。難航しているのか結構時間がかかっている。他のモンスターの事も気にしなくてはならない事を思い出して周りにも注意しておく。今のところはこちらに近付いて来るモンスターはいなさそう
周囲を警戒してから再びスーちゃん達に視線を移すと、あの植物モンスターが噴水のところまで向かっていた。スーちゃんはというとぴょんぴょんと跳ねてこちらに戻ってきている。上手くいったのね
両手を出してスーちゃんを迎える
「すごいじゃないスーちゃん!」
「話すの、頑張ったー!」
「ありがとう、助かったわ。さ、今のうちにここから出ましょう?」
扉付近にいた中型モンスターはまだ噴水に向かっている。今の内に駆けてしまおうとドレスの裾を摘まんだ
扉に向かってダッシュしていく。一生懸命跳ねてついてくるスーちゃんが愛らしくて声を潜めて言葉をかけた
「そういえばなんて言って退いてもらったの?」
「向こうに行きたいからどっか行ってって」
「えっ」
「水おいしいよー! あそこに何かあるよ! ってたくさん言ったー!」
「え……え?」
直球に言った上に謂わばUFOが空にいる、という感じの騙し方をしたらしい。さっきのモンスターが何か、を確認しに行ったのだとしたら
そう考えた瞬間な事だった。後ろから耳障りな程高い声がした
見たくないけれど、振り返ればあのモンスターが完全にこちらを見ていた。怒っているらしく激しく蔓を鞭のようにしならせている。間違いなくまずい状況。一秒後にはこちらに来る予感がして身を屈めてスーちゃんを持ち上げて肩に乗せて一目散に扉に向かった
「ギシャアアァァァアアアアアア!!」
叫び声が追いかけてくる。姫にあるまじき大股で走っていく
どうか追いつかないで!
「いたっ!」
何かが足に当たった。見下ろせば長い蔓で足が叩かれている。肌は赤くなっていてジンジンと痛んだ。でももう少しでドアにたどり着くから堪えるしかない
──片手がドアにつく。自動扉ではないのか目の前にいるのに開かない
「ど、どうして!?」
バンバンと扉を叩いてみるけれど反応がない。押してみたり引こうとするけれど引っ掛かりがない
ヒュ、と音がして咄嗟に振り向く。頬を掠った蔓ともう、すぐ目の前のモンスター。噴き出てきた汗が滴り落ちた
──せっかくここまで来たのに、終わりなの……?
止めることが出来ない冷や汗が何度も頬を伝って下に落ちていく。モンスターの荒い息がかかりそう。もうどうすることも出来ないのかしら。必死に頭を回転させて、逃げるならどこを行き何をすればいいのか考えが高速で駆け巡ってくる。右はさっき他のモンスターがいたから来た道を戻るようにして左から。他の扉は開くか怪しいから────
「ぷ!」
「……えっ!?」
スーちゃんの声が聞こえたかと思えばぐらりと体が後ろに傾いだ。思考に耽っていた私は完全に不意打ちをくらった。後ろに倒れていった
尻餅をついて、両手を床につく。顔を上げれば扉が閉まっているのが見えて呆然とした。開かなかった扉が何故か開いている。混乱している今の状態ではどういう条件で開いたのか皆目見当がつかなかった
小さく跳ねてこちらに向かってきているスーちゃんが見える。扉の向こうからは何かがぶつけられている音がしていた。それでやおらにではあるけれど立ち上がった
背後を見る。奥には壁しかない。でも床には白色で円と中に模様が描かれていた
「これは……」
「どっか行くやつー!」
「どこか行くやつね。……乗ればいいの?」
「うん」
どこかで見たことがあるようなないような。でも城内では見かけなかったもの。スーちゃんの説明ではこれに乗ればどこかに行けるらしい。不安はあるけれど音が聞こえてくる限り、ここにいるよりはずっといい。というか悩んでいる暇はないわね
スーちゃんと一緒に円の中に乗った。後から一抹の不安からドキドキとしてくる。せめてモンスターがいない場所でありますように
何かに包まれたような感覚が一瞬した後に、景色が変わった
同じ城内ではあるけれど先程とは違って扉までの距離があり床の中央には古びたカーペットが敷かれている。色褪せていて元の色がわかりづらいけど恐らく元は真っ赤なものだったのだろうと思われた
「まだ続くのかしら……」
今のところハラハラさせられる事ばかりで、扉の先に行くのを躊躇ってしまう。ここまでで慎重に来たつもりだけれど、それでこれなのだから出口に近付くにつれてもっと気を配らないといけないかもしれないわ
次の場所に行く前に扉の前で一度止まる。そういえばさっき何故扉が開いたのかしら
「ねぇスーちゃん、さっきどうして扉が開いたんだと思う?」
「ボクがボタン押したから!」
「そう、ボタンを……え、ボタン?」
ボタンなんてどこにあったのかしら
隠れていたのを見つけてくれた?
「ドアの横のボタン、押すと開くー」
「……そ、そうなの。ありがとう」
──横にボタンなんてあったのね。大きめな扉だったし、いっぱいいっぱいで全然気が付かなかったわ……。
「私はお城の中のことは知らないし、何か知っている事があったら教えてね」
「わかったー!」
深呼吸をして、スーちゃんの言うボタンを探す。傍らにボタンが一つだけあってそれを押した。簡単に扉は開く
そういえば扉があったりなかったり。私が閉じこめられている部屋みたいに木の扉だったり鉄の扉だったり。ボタンで開くものだったり。色々とあるみたいね。その辺りも気をつけてみないといけなさそうね
次の部屋は三つの扉が並んだ部屋だった。扉と言っても壁に近く、ドアノブはない。近くには赤、黄色、青のボタン三つが横に並んでいて、その上にはレバーが同じように並んでいた
「スーちゃん、これは?」
「押して押すー」
「押して押す……?」
ボタンを一つだけ押してみる。部屋の中を見渡してから扉を見る。変化なし
違うボタンを押してみる。うんともすんとも言わない
「どうなっているのかしら……」
「下に押すの~」
「下に……? ……ああ!」
──レバーを降ろすってことね!
「どのレバー?」
「……赤!」
「赤の上ね」
赤色のボタンの上にあるレバーを下に降ろしてみる
すると軽い揺れが起こり、扉が上がっていく。見えなくなるまで上がると止まり、通れるようになった。中には同じように他の場所に飛ばされる例のものがあった
これは当たりということかしら。念の為他の扉も開けてみましょう
他のレバーを下げると、触ってもいないのに降ろしたはずのレバーが上がってしまう。扉もまた現れてしまった
けれど、違う道が出来た。こちらにも同じように移動するものが。という事はそれぞれ別の場所かしら
一つしか開かない──そういう仕組みなのね。でも首を傾げてしまう仕組みだわ
「ねえ……ここってモンスターの皆も通るのよね?」
「うん!」
「……ちなみに赤以外はどこに行くの?」
「わからない!」
他の場所にも行ってみるべきかしら。
近道だったりするかも。でもあまり危ないかもしれない事は……。
「…………。ちらっとだけ見て戻りましょうか」
「いいよ!」
少し見てみてすぐに戻るならそこまで危険ではなさそうだし念の為ということもあるので見てみることにした。壁のような扉があった場所は大股で跳んで、通っていく
先にあった移動する円に乗った
──赤い箱があった。宝物でも入っていそうな。
すぐに踵を返して元の道に戻った
「誰かの宝物置き場だったみたい」
額縁の裏やタンスの中からへそくりを見つけてしまったような。犬が骨を土に埋めているところを見てしまったような。そんな気分になってしまった
「いろんなところにあるよー」
「えっ! そうなの? 持ち主は大丈夫かしら」
「聞いたこと、ある! 勇者が来るから!」
「……皆敵に塩を送るタイプなのかしら……」
──う~ん……。私には今ひとつわからないわ
元の三つに道が分かれた場所まで戻ってきた
さっき行った青色のボタンの上のレバーの道。今開けた赤のボタンの上のレバーの道。そしてもう一つの黄色も覗いてみることにした
黄色いボタンの上のレバーをもう一度降ろした。扉は上に引っ込んで道を晒した。それにしても、このボタンは何の意味があるのかしら
「このボタンは何故押すの?」
「それでき、き……起こる!」
「……き、起こる……起動?」
「そう! どっか行くやつ起こるー!」
スーちゃんの説明を受けて首を捻った。やっぱり不思議だわ……
「レバーを倒して、ボタンを押してからじゃないと進めないのよね? なのに普通に皆通るのよね……その、手間ではない?」
「……好きじゃなーい!」
「そうよね……なんでこんな造りにしたのかしら」
考えても考えても首を傾げるばかりなので、考えるのはやめにした。何か理由があるのかもしれないけれど、私は魔王ではないからわからないもの