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4-1











 スーちゃんに報告を頼んでからどのくらい過ぎたのか。変わり映えしない料理も食べ終えて、子供アルラウネからの贈り物をちまちまと食べている


 お城の中ではどんな噂話が飛び交っているのかしら……。

 気になって時間が経つのが遅く感じる。落ち着かなくて何度目か扉を見たけど変わりはない

 静まり返った部屋で口の中の酸味やら甘味やら味わって時間を過ごしていく


 何もない時間。最初は色んな事を考えては部屋を物色したり、今の私や昔の私の記憶を掘り返してみたりとした。でも今はほとんど何もしていない

 ぼうっとした。気が抜けて間食を摘まむ手さえ止まりそうになる



「……ダメよ、こんな事じゃ」



 敢えて声に出して自分を奮い立たせた。今の私はアリーシャ姫なんだから。今は今を精一杯生きなくては


 アリーシャである私は囚われの身で

 勇者はここに向かっていて

 アレキサンドリア国は多分まだ混乱中。人の口には戸を立てられないというし、目撃した者もそれなりにいた気がするから話は広がっている

 そんな状態なんだから姫であるわたくしはしっかりしないと



 食べるのをやめて立ち上がり、窓にかかるカーテンを開いてみる。変わらない暗闇が広がっていた。鍵を外して開けようと窓の縁に手をかけた


 その時、突然

 ドンッと衝突音がした


 スーちゃんがドアにぶつかった時よりも少し強い音。考え事をしていたからという事と知られたらマズイだろう事だったから肩が高く跳ね上がった。咄嗟に窓の鍵を閉めて扉を見る

 ゆっくりと扉が空いていく。平静を装うために深呼吸をして自分を落ち着かせておいた


 全開に扉が空き構えていた私は肩透かしを食らう。同時に安堵して両手で器を作って差し出した



「ぷーーっ!」

「スーちゃん!」



 手の中へと飛び込んだスーちゃんの感触を確かに感じてからドアの向こうを覗き込む。注意深く見たけど遠くに見え隠れしているけれど、近くにはいないみたいだった

 徐に閉まっていく扉が完全に閉まってからスーちゃんを連れてソファーへと向かう。ソファーに座ってそっとスーちゃんを隣に下ろした



「何を聞いたか教えてくれる?」

「わかった!」



 私がそう言うとスーちゃんは城内での様子を教えてくれた。私はまだ残っている果実や木の実をスーちゃんにあげながら報告を聞いた


 ――スーちゃんからの報告内容は信じられない、という想いとやっぱりという想いが交錯するものだった

 姫を使う。その〝使う〟事によってアリーシャ姫は──わたくしは死んでしまう?


 ……もし、そうだとしたら


 夢に見てから引っかかっていたアリーシャ姫が死んでしまうという話

 あれはゲームでのお話。似たような名称だったし信じたくないという事もあって無関係だと思っていた。けれど、ここまで来たら無関係とは思えない


 このまま無関係だと思って過ごしていたらお話の通りになるかもしれない。それは避けたい


 ──でも、本当にゲームの中の場所なら……



「あの子達ならわかるけど私にはわからないわ……」



 息子や幼い時分の孫がしているところを見ておけば良かったなんて後悔する。まさか自分がゲームの中の世界のお姫様になるだなんて夢にも思わない

 ……自分で言っていて信じられないくらいなのだから

 それでもここまで来たら信じざるを得ない。そうとなったらここで待っている訳にはいかない。王女として今まで学んできたからアリーシャとしての記憶は引き止めてくるけれど、今はそうは言ってはいられない


 ゲームのことはよくわからない。そんな部分のせいでどうしてもまごついたりしてしまうだろうけど、やる事は決まった


 ──このお城から抜け出す

 信じてここで待ち続けたい気持ちはまだ残っているけど、あの時とは状況が変わってしまった以上は仕方がない。今は一刻も早くここから脱出しないと

 〝使う〟という日までに



「……とは言っても……」



 すっかり見慣れた部屋を見渡す。この部屋には長くいたし、色んな場所を見たり触ったりした。どこか抜け道があったりしたらもう気付いているはず

 さっきも見たけれど、窓の外は深い闇だし。実は底があるとしても試す気にはなれない。見ているだけでもゾッとする


 そうなると一つで、扉を見る

 いつも何故か私では開けられない扉。モンスターの彼らには開けられる。理由はわからないけれど、唯一の出入り口でありながら私がここから出られない原因の一つ



「スーちゃん、ドアを開けてもらってもいい?」

「ぷ? わかった!」



 スーちゃんにお願いしていつもみたいに扉を開けてもらう。何の障害もなく普段通り開いた。辺りを窺う。左右正面どこからもモンスターが見ていたりということはなさそう

 開いた扉に手を伸ばしてみる。心臓がバクバクと速くなり始めた。恐る恐る、部屋の外と繋がる空間に手を出していく。ちょうどドアがあった場所に触れてみた


 ──……なんともない


 ドアが開けられないくらいだし、何かあるのかと思ったけれど、そうでもないみたいだった。あるとすれば扉自身の方かもしれない。扉に何か細工がされていて、空間は普通。そんなところでしょうね

 痛みも違和感もなかったから今度は足も出してみる。今までで一番外へと近付けた。もう一歩足を出してみれば何の苦もなく出られてしまった

 唐突に後ろで音がする。振り返ればスーちゃんがドアノブから剥がれるように落ちていた



「す、スーちゃん閉めちゃったの?」

「出るから閉めたー!」



 地面にいるスーちゃんがぴょんぴょんと元気よく跳ねる。私はドアノブに手をかけて押したり引いたりとしてみるけれどガチャガチャと音がするだけだった

 まさかこんなにもあっさりと簡単に出られてしまうとは思わなかったから何の準備もしていない。もう一度スーちゃんに開けてもらえば済む話ではあるけれど、もうこの勢いで行った方がいいかもしれない。深呼吸をして辺りを見る。壁には燭台が等間隔で設置されていてある程度は見る事が出来る。廊下は長く続いているようだった


 ──ひとまず外に出たいわ……



「外に繋がっている場所はどこかわかる?」

「外? ……こっちー!」



 随分と賢くなったスーちゃんは道案内も出来るようになったらしい

 スーちゃんは跳ねながら先に進んでいく。躊躇のないスーちゃんに対して私は慎重に周囲の様子を見ながら追いかけていく


 廊下を進んでいけば部屋の前をいくつか通る事になる。そういう時は扉に耳をあてて中の音を探ってから足音を立てないように気をつけて外に向かっていった

 どれだけ進んだのかはわからないけれど、今のところは順調に誰にも見付からずに進めている


 ホッと息を吐いた時だった。進行方向から足音が聞こえてきた。スーちゃんを掴んで止めて抱き寄せる。何もわかっていないスーちゃんは私の手の上でゆらゆらと体を揺らしている。さっき分かれ道があったからそこに入ろうと踵を返そうとした

 そうしたら、今度は後ろから違う足音が聞こえた



「……っ!!」



 左右の壁には部屋に繋がる扉はなし。足音はどんどん大きくなっていく。確実にここに向かって来ている


 このままじゃ捕まってしまう……!



「アリー?」

「どうしましょう……!」





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