スーちゃんと名付けられたスライムは城内を進行していた。城内は様々な種類のモンスターが行き交っている
アンデッド、獣人、妖精、人型、悪魔────実に多種のモンスターがそれぞれ過ごしている。スライムにとってはほとんどが見上げなくてはならない大きさで、力や能力も高い
スライムは知能は低く、力は弱く特筆すべき能力はない。数だけは多いという認識だ
だからスライムは小間使い扱いとなっている
スーちゃんことスーは廊下を進んではすれ違う同じ種族と会話をする。他のスライムは一言、二言言い放つ会話の仕方をし、去っていった
──スーは同種族と自分の違いに気付いていた
話し方も行動も違う。単純な思考でもない。他と比べ、違いを理解した
だから、自分にスーと名付けてくれた姫君との間の事は誰とも話さなかった
何となく話さない方が良いと判断したからだ
優しくしてくれて、話したり食べ物をくれたりする彼女の事を気に入っていた。だからこそというのもあるだろう
「……ぷ?」
武器庫前に差し掛かった時だった。青みがかった毛が全身にあるというのに二足歩行をするモンスターが三匹で固まり武器庫の前にいた。獣人族の
何やら話しており、スーには気付いていない
「聞いたか? とうとう魔王様が勇者と接触したらしいぞ」
「ああ。でも魔王様は無事だ。今の勇者じゃ敵わんさ」
「魔王様は順調だと言っていたとソーサラーが言っていたぞ」
「そうか……姫を使う日も近付いて来ているな」
「ぷ!?」
姫を使うと聞いたスーが反応して声を発する
すると一斉にギロリと目玉が向いた。複数の目玉に睨まれてスーは固まって動けなくなる
しかし
「なんだ、スライムか」
「あっち行け。今は用はない」
「……しかし魔王様の調子はどうなんだ?」
「また眠りに入られたらしい」
「少しでも力を残しておかねばならんからな」
スーは横を通ってその場を離れた。今の会話を記憶に留めておきながら
次に訪れたのは中庭だった。中庭には植物系のモンスターが何匹もいた
その中には姫に悪戯をしかけるアルラウネがいた。アルラウネは母親と思われる成人した女性の見た目のアルラウネと共にいた
母親は他のアルラウネと話しており、その横で子供は退屈そうにしている
「それでこの間、人間の男を誑かす事に成功してね」
「ねぇ! 光合成したいわ!」
あまりに退屈なのだろう。大人達の会話を遮って、子供は主張を始める
途端に大人達は困った顔をした
「したばかりじゃない」
「……摘みに行ったりもしたいわ」
「それも行ったばかりよ」
「わたしだけでも行っていい?」
「ダメよ。いい? 冒険者や騎士達がいるの。危ないから単独ではダメ」
否定ばかりされてアルラウネは唇を尖らせた。その場に座り込んで大人達から背中を向ける。臍を曲げてしまったようだ
大人達は何度かチラチラと見るもその内話に戻り始めた
スーはその横を通っていく。アルラウネは玩具を目にした子供といった様相でスーを目ざとく見付ける
蔓を伸ばし、スーに絡ませて捕らえた
「ぷーっ!?」
「きゃはははは!」
蔓でスーを宙に浮かせて強く上下に振る。全体で風を感じる羽目になり、体はプルプルと揺れた
楽しげな笑い声が近くから聞こえた母親が「こら!」と声を上げて子を叱る。叩きつけるように地面に落とされてスーは地面にへばりついた
蔓が緩やかに離れていくがスーはすぐに動けなかった
アルラウネの子供はというと母親にまだ叱られており、頬を膨らませていた
「もう! 後で森に連れて行ってあげるから、今は大人しくしていなさい」
「やったあ! じゃあ少しだけ我慢してあげる!」
むくれていた子供は母親の言葉でころりと機嫌を直して大人しくなった
スーは落ちてへばりついた形のままその場を移動する
巨大な花の形のモンスターや木のモンスターなどがいたがそれらは会話などはしていなかったため通り過ぎていった
中庭のある場所を通り過ぎて違う部屋へと入った
上と下への階段があり、下りていく。地下に入ると本棚や道具が並べられた部屋があり、覗く
ソーサラーとソーサレスが何人もいた。薬品を混ぜ合わせる者、鍋で何かを作っている者、分厚い本をひたすら読んでいる者、対話している者がいた
スーは入り口近くで対話をしている者達の会話に意識を傾けた
「…………」
「────、────」
「──。……──」
「ぷぅ……」
しかし何か話しているのは判るのだが、今のスーには内容が理解出来ない
少し知力が上がったとはいえスライムの身にはあまりにも難しすぎた
ソーサラーやソーサレスは上級。おまけに知力と魔力で勝負をする。対してスライムは元々知力も魔力も低い。大きく引き離されているスライムでは理解するのは厳しい
理解出来ない以上は仕方がないため違う部屋に向かった
他は倉庫で、今現在モンスターはいなかった
更に地下への階段があったが異臭と共に嫌な空気が漂っている。スーは後者を感じ取って離れていった
あちらこちらでの情報収集をしながらアリーシャの閉じ込められている塔に向かう。姫を使うという話を報告するために
部屋の前まで来ると皿を持ったリザードマンとスライムがいた
「ぷ?」
「たべる! おわった!」
「ちょうどいい。お前もついてこい。仕事だ」
「ぷ!?」
スーが情報収集に励んでいる間にアリーシャの一回目の食事は終わったらしい。それだけではなくリザードマンに同行を命じられた
アリーシャに伝えたいが、自分よりも上のモンスターに命じられれば従うしかない
リザードマンはスーに言い放つと先に歩いていく。従ってついていくのが当たり前なため付いてきているか見ることも無い
スライムがそれに続いていき、スーもついていくしかなかった