食後。
さらに奥を目指して進む。
すると今度はオークの痕跡に当たった。
(面倒臭い)
と正直に思いつつも、冒険者の努めを果たしに向かう。
今度は真面目に刀を抜いてオークと対峙した。
おそらく包丁で十分に戦える。
ただし、刃渡りが短いぶん、手数が必要になるだろうという感触を先ほどのコカトリス戦で得た。
(帰ったら腰に下げられる包丁入れを作ってもらわんとな…)
と考えつつ、一気にオークの群れに突っ込んで行く。
まずは挨拶代わりに軽い魔法を撃って相手を挑発してみた。
案の定、怒ったオークが、
「ブモォッ!」
と気色悪い声を上げながらこちらに突進してくる。
私はその突進をかわし強烈な一撃を刀にまとわせた防御魔法でいなしながら、的確に相手の隙をついて足を中心に攻撃を繰り出した。
足を斬り、倒れたオークにトドメを刺して魔石に変える。
それを5回繰り返した時、戦闘は終わった。
(一応、魔法が効かないミノタウロスを想定して戦ってみたが…。まぁ、及第点だな)
と、ケインに比べたら、やや動きに無駄が多いという反省点を持ちつつ、刀を納める。
そして、さっさと魔石を拾い集めると、すぐにその場を後にした。
その後は何事も無く夕暮れを迎える。
この辺りはいつ何が出て来てもおかしくない。
そんな緊張感の中で簡単に飯を作り、体を休めた。
翌朝早く。
手早く飯と身支度を整えて出発する。
ダンジョンの中心まではサクラの足でもまだ5日ほどかかるだろうか。
私はさらに緊張感を持って注意深く歩を進めた。
やがて、チェルシーが、
「にゃ」(おるぞ)
と言ってくれたので、辺りを見る。
まだ痕跡はない。
「にゃぁ」(あっちじゃな。でかいぞ)
といってくれるチェルシーを礼代わりに軽く撫でて、その前脚が指し示す方向へと進んでいった。
やがて、私にもわかる痕跡が見つかる。
どうやら、サイクロプスのようだ。
(魔法の訓練にはちょうどいいな…)
と思いつつ、その痕跡を辿っていった。
やがて、遠めに敵の姿が見えてくる。
今の所見えているのは5匹。
(思っていたより多いな…)
と思いつつ杖を手に取る。
サイクロプスには物理攻撃があまり効かない。
その代わり魔法はよく効く。
刀を使ってもいいが、私はまだ十分に使い慣れていない杖で魔法を放つ練習を兼ねて杖のみで戦ってみることにした。
慎重に近づき1匹を射程にとらえたところで風の刃の魔法を放つ。
まずは確実に首を落とした。
そこで私の存在に気が付いた他の4匹がいきり立つ。
私は牽制に風の矢の魔法を放ちつつ動き回り、また隙を見つけては風の刃の魔法で首を落としていった。
戦闘が終わり、
「ふぅ…」
と、ひとつ息を吐く。
(やっぱりまだ、効率が悪いな…)
と杖を見つめつつ、そんなことを思った。
そこからもそんな風に相手によって攻め方を工夫したり制限を加えたりしながら戦いつつ進む。
そうやって進むこと4日。
ついに、私はダンジョンの中心まであと少しという所まで辿り着いた。
(ここからは未知の領域だな…)
と思いつつ緊張してすすむ。
するとチェルシーが、
「にゃ!」(おるぞ、ミノじゃ!)
と叫んだ。
(いや、『タウロス』もつけてやってくれ)
と苦笑いしつつ、チェルシーの指し示す方向に向かう。
そして、私はその痕跡を発見すると、これまで以上に気を引き締めてその痕跡を追って行った。
数は5匹。
案の定デカい個体がいる。
おそらく特異個体だろう。
(厄介なのがいるな…)
と思いつつ、刀を抜いて慎重に距離を詰めていった。
相手も私に気が付く。
私はその瞬間駆けだして、一気に敵との距離を詰めた。
先頭の1匹の拳をかわして懐に飛び込む。
まずは定石通り足を狙った。
足を斬られた1匹が痛がって倒れ込む。
私はその個体に構うことなく、次の個体へと向かって行った。
次の個体が振り下ろしてきた拳をまな板でいなし、すかさず手首を斬る。
やや浅かったが、その個体が痛がって棒立ちになったところでまた懐に入り込み足を斬った。
同じようにその個体を無視して次に突っ込む。
次の個体は少し学習したのか、蹴りを放ってきた。
姿勢を低くし、前に転がり込むようにして交わす。
そして、後ろを取ると刀を跳ね上げるように振るい、風の刃の魔法を背中に叩きつけた。
次は後に気配を感じてすばやく飛び退く。
すると、先ほどまで私がいた場所に凶悪な蹄の一撃が叩きつけられた。
(あれを食らったら終わりだな…)
と、妙に冷静にその状況を見つつ、その振り下ろされた足に風の刃の魔法を放って断つ。
そして、私は最後に残った特異個体と相対した。
ものすごい速さで拳や蹄が振り下ろされるのをこちらも負けじと速さでかわす。
私はそうやって素早く攻撃をかわしながらもちょこまかと攻撃を出し、相手にかすり傷を負わせていった。
やがて怒り心頭と言った感じで大ぶりな一撃が来る。
私はその隙を逃さず冷静にその隙だらけの攻撃をかわすと懐に飛び込み、裂帛の気合を込めて足を思いっきり斬り裂いた。
まるで「スパッ」と音がしたようにミノタウロスの足が斬れる。
そして、バランスを崩し倒れたミノタウロスの首筋に回り込むとそこで一気に勝負を決めた。
残りのミノタウロスにも、ジタバタとするのをかわしながら、トドメを刺していく。
「ふぅ…」
と息を吐いて、刀を納めると、私はさっそく包丁を取りにチェルシーとサクラのもとに戻って行った。
「にゃぁ」(どうじゃった?)
と期待の眼差しで聞いてくるチェルシーに、
「安心しろ。特異個体がいた」
と答える。
すると、
「にゃ!」(ステーキじゃ!)
とチェルシーがはしゃぎ、サクラもなんだか楽しそうに、
「ひひん!」
と鳴いた。
そんな2人を撫でてやってからさっそくミノタウロスのもとに引き返す。
そして、私は、
「にゃぁ」(一番美味い所を頼むぞ)
と言うチェルシーに、
「あいよ」
と苦笑いで答えながら、さっそくミノタウロスの解体に取り掛かった。
やがて、解体が終わり空を見上げると、まだ十分に明るさは残しているものの遠くが少し赤くなり始めている。
私は、少し迷ったが、ほんの少し移動してから野営をすることにした。
「にゃぁ」(よいから早よう焼かんか)
というチェルシーを、
「せっかくの美味い肉だ。落ち着ける場所で食べた方が、より美味いぞ?」
と言って宥める。
その案にチェルシーは渋々ながらも、了解してくれたようで、
「にゃぁ」(ほれ。そうと決まればさっさと行くぞ)
と言って、私に指示を出してきた。
「あいよ」
と答えてサクラに跨る。
そして、私たちはこの危険なダンジョンの中で少しでも落ち着いて飯が食える場所を探して移動を始めた。
やがて、ちょうど良く小川の流れる場所を発見してそこで野営の準備に取り掛かる。
適当に寝床を確保すると、私はさっそく調理に取り掛かった。
チェルシーの要望はステーキ。
私はスキレットを十分に温めると、分厚く切ったミノタウロスの肉に軽く塩コショウをして、表面をと側面をじっくりと焼いていった。
やがて、表面にこんがりと焼き目が付いたところで肉を休ませる。
その間にニンニクと醤油、ほんの少しの砂糖で簡単なソースを作った。
ニンニクと醤油の香ばしい香りが辺りに立ち込める。
「んにゃぁ!」(たまらん、もうたまらんぞ!)
というチェルシーを少し宥めつつ、十分に休んでしっかり火の入った肉を切り、ソースをかけて皿に盛った。
「出来たぞ」
と言った瞬間。
「にゃ」(いただきます)
と言ってチェルシーが皿に乗っかるようにしてステーキにかじりつく。
その姿をみて、私は、
「おいおい。お行儀が悪いぞ」
と一応窘めたが、その気持ちがわかるだけに、結局は微笑んでチェルシーを撫でてやった。
私もさっそく一切れ食べる。
言うまでもなく、とろける食感、脂の甘味、肉の美味さ、どれをとっても絶品だった。
楽しく美味しいうちに日が暮れていく。
食後のお茶を飲みながら、
(今日もいい冒険だった)
楽しい気持ちで今日という日を振り返った。
しかし、
(さて。明日だな。なにが出てくることやら…)
と思って気を引き締める。
まだ見ぬダンジョンの中心。
そこへの期待と不安がなんとも言えない緊張感を生み、私の顔に自然と苦笑いを浮かび上がらせた。