翌朝。
気持ちも新たに再び中央の山を目指して進む。
するとさっそく、チェルシーが、
「にゃ!」(来よるぞ!)
と声を上げた。
身構えていると、遠くから「ドドド」と足音が響いてくる。
(ちっ…。バッファローか…)
と、そのいかにも大群らしき足音から私は瞬時にその魔物の種類を判別した。
サクラから降り、
(そのうち流鏑馬の練習でもしてみるかな…)
と変なことを考えながら走り出す。
途中ほんの少し足を止め、牽制程度の風の矢を放った。
案の定バッファローたちは怒り狂ったようにこちらに向きを変えて突っ込んでくる。
私は心の中で、
(よし)
とつぶやきつつ、また走って少しでもヤツらをチェルシーとサクラから引き離しにかかった。
やがて、程よい所で足を止める。
数は20ほどだろうか。
私は刀を抜くと集中して魔力を練り一気に旋風の魔法を放った。
渦巻く風が唸りを上げながら、バッファローたちに襲い掛かる。
私はその風を制御し、次々とバッファローたちを魔石に変えていった。
ほどなくして、戦いが終わる。
私は目についた魔石を10個ほど拾うとさっさとチェルシーとサクラのもとに戻って行った。
「にゃぁ」(うむ。よくやった)
と、なぜか上から目線でお褒めの言葉をくださるチェルシー様を撫でてやってからまたサクラに跨る。
そして、私たちはまた中央にある山を目指して進み始めた。
それから順調に進み、昼を過ぎた頃。
再びチェルシーが、
「にゃ!」(おるぞ!)
と叫ぶ。
私はとりあえずサクラから降りて辺りを警戒してみた。
しかし、気配が薄い。
(もしかしてネコ科か?)
と思いながら辺りを慎重にうかがう。
すると、チェルシーが、
「にゃぁ」(囲んでおるな…)
と言って、すでに周りを囲まれていると教えてくれた。
(ちっ…。やっぱりネコ科だったか…。囲んでいるということは、ライオンらしい…)
とその正体を判断しつつ、サクラに、「しゃがめ」の合図を出した。
「よし。いい子だ。そのままじっとしていてくれよ」
と言って軽くその頭を撫でてやる。
そして、私はまな板を持ち、刀を抜いた。
「グルル…」
という唸り声が聞こえてくる。
その声は徐々に大きくなり、ついに私たちの周りを取り囲むようにあちこちから聞こえ始めた。
(5…いや、6か…)
と冷静にその数を確認しながら、油断なく構える。
すると、ライオンの群れも動き始めた。
ゆっくりと間合いを詰めてくる。
私は、手に汗を握りつつも、
(焦れるなよ…)
と自分に言い聞かせ、深く静かに呼吸し、集中力を高めていった。
やがて、
「ガオォッ!」
と言う声とともに、1匹が飛び出す。
他の5匹もそれに続くように飛び出してきた。
くるりと弧を描くように刀を一閃し魔法で牽制する。
すると、最初に飛び出してきた1匹が、
「ギャンッ!」
という声を上げて倒れた。
(まだ浅いか)
と思いつつ、とりあえず1匹行動不能にしたことを良しとして再び構える。
私の攻撃を見たからだろうか、ライオンの方もより慎重になったようだ。
(このままじゃ埒が明かんな…。持久戦は不利だ)
と踏んで、牽制に魔法を放つ。
牽制のつもりだったが、どうやら上手く当たってくれたようだ。
また、
「ギャンッ!」
という声が聞こえた。
(ついてるな)
と思いつつ、さらに構える。
そこへライオン達がいっきに襲い掛かって来た。
1匹の突進を防御魔法を纏わせたまな板で受け止めつつ、右に刀を振る。
今度は確実に仕留めた。
ドサリと音を立ててライオンが地べたに突っ伏す。
そして、そのまま後ろに向けて魔法を放つと、サクラを狙おうとしていた、1匹が、
「ギャンッ!」
と痛そうな声を上げた。
(させるかよ)
と思いつつ、先ほどまな板ではじいたヤツがもう一度突っ込んでくるのをまたはじき倒し、すかさず突きを入れる。
そして、刀を抜くのと同時に後方へ刀を振ると、確かな手ごたえがあって、最後の1匹が倒れた。
動けなくなっている3匹に素早く近寄り、それぞれにトドメをさす。
全てのライオンが動かなくなったのを確認して、
「ふぅ…」
と息を吐くと、私はトントンと腰の辺りを軽く叩き、
「連戦は勘弁してほしいねぇ…」
と苦笑いで独り言を言った。
サクラとチェルシーのもとに戻る。
するとサクラが立ち上がって私に頬ずりをしてきた。
「ははは。よし、よし。もう大丈夫からな。動かずに偉かったぞ」
と褒めながら、甘えてくるサクラを撫でてやる。
すると、サクラは、
「ひひん!」
と鳴いてますます甘えてきた。
ひとしきり戯れ、再び出発する。
いつ何が出てくるかわからない緊張感の中、私はより慎重に辺りの気配を探りながら進んでいった。
無事、夜を越えた翌日。
朝からまた魔物の相手をする。
今朝の相手はお決まりのゴブリン。
斬ったり焼いたりして、いつものごとく勝負は一瞬で終わった。
(そろそろ魔石を拾うのが面倒になってきたな)
と、他の冒険者が聞いたら怒りだしそうなセリフを心の中でつぶやきつつ、魔石でパンパンになった麻袋を見る。
(まぁ、袋はたくさん持ってきたからいいが…)
と思いつつその袋を荷物の中に詰め込んで、私はまた中央を目指して歩を進めた。
それから順調に進むことしばし。
目の前に湿地帯が現れる。
それを見て、チェルシーが、
「にゃぁ…」(うようよおるな…)
と、いかにもうんざりしたような感じでそう言った。
(見えないが、うようよいるということは、ワニか…)
と私もうんざりしながら、
「はぁ…」
とため息を吐いた。
少し考え、
「凍らせるか…」
とつぶやく。
そして、サクラに、
「足元が滑りやすくなるから気を付けるんだぞ?」
と言うと、杖を取り出し、湿地帯の淵にそっと突き立てた。
集中して一気に凍結の魔法を放つ。
すると、私を中心に半径50メートルくらいの範囲が一気に凍り付いた。
「よし。行こう。気をつけてな」
と言いつつ、サクラを引いて慎重に氷の上を歩いていく。
しかし、サクラは平気なようで、むしろ、私に乗って欲しいような感じの視線を投げかけてきた。
「ははは。転んだら危ないから、またの機会にな」
と言って撫でてやりながら氷の端にやって来ると、また同じように凍結の魔法を放つ。
そして、無事湿地帯を抜けると、私は振り返って、業火の魔法を放ち、一気に氷を溶かしつつワニを焼いた。
(まぁ、魔石はしょうがないよな)
と苦笑いしつつ、いったん水がなくなった湿地帯に再び水が入り込んでくる様子をみる。
そして、どうやら現状が回復に向かっているのを確認するとさっさとその湿地帯に背を向けて先へと進んで行った。
それからもお決まりのオークを始め、次から次に出てくる魔物を倒していく。
そして、そんな作業を繰り返すこと4日。
今度はチェルシーが、
「にゃ!」(肉じゃ!)
と叫んだ。
言われてみれば遠くになにやら動く影がある。
(コカトリス…じゃないな…。ああ、ダチョウか)
と気が付き、私は杖を取り出すと、集中してまずは当たらなくてもいいと言う感じで牽制の魔法を放った。
上手い具合に相手がそれに気づき、こちらに突進してくる。
(速いな…)
と、その速度に感心しつつも、私はさらに集中して、今度は狙いを定め、真っ直ぐに突っ込んでくるダチョウの魔物めがけて風の矢の魔法を放った。
しかし、外れる。
というよりも、素早く避けられてしまった。
(ちっ)
と心の中で舌打ちしつつ、続けざまに風の矢を放つ。
すると、なんとか1発当たったようで、そこでダチョウの動きが止まった。
刀を抜いて、駆け出す。
そして、脚をやられたらしく痛そうにジタバタしているダチョウの魔物に近づくと、慎重に攻撃を避けながら、その長い首を綺麗に落とした。
拭いをかけて刀を納めると、そこへチェルシーとサクラがやってくる。
私は2人を軽く撫でてやり、さっそく包丁を取り出してダチョウの解体を始めた。
「にゃぁ!」(おい。さっそく食わせろ!)
というチェルシーを、
「せめてもう少し進んで安全そうなところを見つけてからにしよう。せっかくなら落ち着いて食いたいだろ?」
と宥めながら肉を取り袋に詰めていく。
そして、十分な量の肉を取り終えると、さっそく落ち着いて飯が食えそうな場所を目指して移動を開始した。
しばらくして見つけた大きな木の下で、さっそく調理に取り掛かる。
ダチョウの肉は良くしまっていて、硬そうな印象だったので、少し薄めに切って焼肉にしてみた。
「にゃ」(いただきます)
と言って、焼けたそばからチェルシーががっつく。
私はそれを微笑ましく見ながら、自分の分も焼き、ひと口頬張ってみた。
「にゃぁ」(うむ。少し硬くて淡白だが、これはこれでいいのう)
というチェルシーの言葉通り、淡白な味だが、しっかり肉を食っているという満足感のある歯ごたえがある。
私もチェルシーも久しぶりに食べる肉に舌鼓を打ちながら、夢中で焼いて夢中で食った。