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第72話北へ02

のんびりとした春の空気の中、街道を進む。

私はとりあえずの目的地を北方では最大のダンジョンがあるキルニス王国に定めた。

ここからキルニス王国の首都キリシアまではおおよそ1か月くらいだろうか。

(まぁ、私のことだ。どうせ真っすぐは行くまい)

と自分で思って苦笑いを浮かべる。

そんなことを思ったからというわけではないが、私はそろそろ路銀稼ぎにダンジョンへ寄ることにした。

途中の宿場町のギルドで依頼を確認する。

特に急を要する依頼は無いようだ。

私はそのことを確認し、少し安心した気持ちでダンジョンへ向け宿場町を発った。


「にゃぁ」(肉は出るのか?)

というチェルシーに、

「うーん。どうだろうな。一応中級者向けではあるから奥に行けばいるかもしれんが、あまり期待はしないでくれ」

と言うと、

「にゃぁ」(つまらんのう…)

とがっかりしたような声が返って来る。

そんなチェルシーを苦笑いで撫でてやりながらダンジョンへと続く田舎道を進み、3日後。

私たちはダンジョン前の村に到着した。

いつものように準備を整え、ゆっくりと宿で一泊してからダンジョンに入る。

久しぶりの森にサクラはどこか嬉しそうだ。

そんなサクラに乗ってダンジョンの中をどんどん前進していく。

そして、初日は遠目からオークを3匹ほど倒した程度で、その他は何事も無く野営に入った。


翌日も順調に進み昼頃。

「にゃぁ…」(まったく、昼時に…)

と言ってチェルシーがため息を吐く。

「出たか?」

と聞くと、面倒くさそうに、

「にゃぁ」(あっちじゃ)

とその方向を示してくれた。

(チェルシーのためにも少し急がんとな)

と思いつつ、いつもよりやや速足で痕跡を辿っていく。

すると、何匹かのティラノが群れているのが見えた。

(5、いや6か…。伏兵はいなさそうだな)

と状況を確認して、刀を抜き、ゆっくりとその群れに近づいていく。

そして、もうそろそろこちらの射程に入ろうかという所で気付かれてしまった。

しかし、構わず突っ込んで行く。まずは先頭になって突っ込んできた1匹をすれ違いざまに剣から魔法を放ち、斬る。

そこからはやや乱戦となった。

噛みつこうとしてきたヤツをギリギリでかわして胴を薙ぐ。

そのまま左に反転して袈裟懸け。

次に後ろを振り返るように横なぎの一閃を放つと3つの魔石が落ちた。

次の瞬間背後から気配を感じ転がるようにして避ける。

軽く受け身を取って立ち上がろうとしたところに、別の1匹が顎を大きく開いて噛みつこうとしてきた。膝立ちの状態から迷わず突きを入れ、刀の先から放った風の矢で貫く。

そして、そのまま左に動くと先ほど私を転がらせた個体に向かって突っ込み牙の攻撃をかわしながら袈裟懸けの一刀を浴びせ、そこで戦闘は終了した。


(こいつら、すばしっこいから意外と厄介なんだよなぁ…)

と思いつつ、

「ふぅ…」

と息を吐き、適当に魔石を拾ってチェルシーとサクラのもとに戻る。

そして、

「にゃぁ」(終わったらさっさと飯にせい)

と、いつもの調子でいうチェルシーに、

「あいよ」

と苦笑いで答えて、さっさと昼食の支度に取り掛かった。


やがて、ドライトマトとベーコンを入れた簡単なピラフが炊き上がり、

「にゃ」(いただきます)

と言ってさっそくいただく。

手早く食事を済ませ、軽くお茶を飲んだ後、

「さて、もう少し奥まで行ってみるか」

と言うとさっそく腰を上げ、また奥を目指して歩を進め始めた。


進むこと数時間。

やや魔物の気配が濃くなり始めたところで野営の準備に入る。

おそらく明日は気の抜けない一日になるだろう。

そんなことを思い、気を引き締めつつも、そこは慣れたもので、半分寝て半分起きるというあの状態でゆっくりと体を休めた。


翌朝。

軽く飯を済ませ、夜明けとともに行動を開始する。

するとものの1時間ほど歩いたところで、またオークの痕跡を見つけてしまった。

(はぁ…また食えない豚か…)

と辟易としながらも、冒険者の努めとして討伐に向かう。

「にゃぁ」(さっさとすませい)

と退屈そうなチェルシーの言葉に、

「あいよ」

と答えて、荷物を置くとさっそくその豚の群れに突っ込んで行った。


デタラメに振り回されるこぶしを後ろに飛んで避けて、着地するや否や、横なぎに刀を振るう。

すると、刀から風の刃の魔法が放たれ、まず1匹目が魔石に変わった。

次は一気に駆け抜けまた同じように風の刃で横腹を斬る。

斜め後方から叩きつけられたこぶしを少し飛び退さってかわすと、今度はそのこぶしを袈裟懸けで断ち斬った。

痛がってうずくまるオークの頭を風の矢の魔法で貫き魔石に変える。

そして、最後の1匹を遠目から風の刃の魔法を3発ほど放ち斬り刻むとあっという間に戦闘が終わった。


(朝の体操にしては動きすぎだな…)

と、ややシニカルに笑いながら、魔石を拾って次に向かう。

そして、やや進んだところで、今度は昼飯前にどうやらコカトリスらしい痕跡を発見した。

「にゃぁ」(ようやく肉じゃの。腹が減っておるさっさとすませてまいれ)

と言いうチェルシーに、

「あいよ」

と軽く撫でてやりつつ返事をする。

そして、先ほどまでよりはやや慎重にその痕跡を追っていくと、3羽ほどのコカトリスが呑気に草を食んでいるのが見えてきた。


まずは風の矢の魔法で1匹仕留める。

その1匹が「グギャ!」

と苦悶の声を上げて動かなくなったのを合図に私は残りの2匹めがけて突っ込んでいった。

真っ直ぐ突っ込んでくるヤツはすれ違いざまに首を切り落とし、バサリと飛んで上級から爪を突き立ててくるヤツは軽く魔法で撃ち落としてからその首を刎ねた。

念のため、最初に魔法で倒したヤツの方へ近寄ってみるが、完全に沈黙している。

私はそれを確認すると、最も傷が少なかったその個体の剥ぎ取りを始めた。


いつの間にかこちらに近づいてきたサクラの上から、

「にゃぁ」(焼き鳥にせい)

とチェルシーから要望が伝えられる。

私はまたいつものように、

「あいよ」

と苦笑いで答えると、さっそく荷物の中から串を取り出し、小さく切った肉にその串を打っていった。


焚火の横で「じゅぅじゅぅ」と音を立て、脂を滴らせながらモモとムネが焼けていく。

私のチェルシーも意外と時間がかかるその様子を今か今かという目で見つめながらいい感じに出来上がるのを待った。

やがて、焼き鳥の表面がいい感じにこんがりとしてきた頃。

「よし、そろそろいいだろう」

と言って、まずはチェルシーに串から外した肉を取り分けてやる。

「にゃ!」(いただきます!)

と、ずいぶん待たされたからだろうか、いつもより元気に「いただきます」の挨拶をしてチェルシーがさっそくその肉にかぶりついた。

「んみゃぁ!」(美味いぞ!)

とご満悦のチェルシーを軽く撫でて私もさっそく串にかじりつく。

モモ肉の方だったらしく、程よい弾力と香ばしさが相まってなんとなく酒が飲みたくなってしまった。

(いくらなんでも冒険中に酒盛りはできんしな…)

と当たり前のことを思いつつ、まだ何本かある焼き鳥を火から外して焼き鳥丼っぽくして食べる。

すると、横からチェルシーが、

「にゃ!」(ずるいぞ、我にもそれをよこせ!)

と言って、私の焼き鳥丼も分けろと言ってきた。

「あいよ」

と言って小皿にチェルシー専用の焼き鳥丼を作ってやる。

「にゃぁ」(うむ。これはこれでよいな。やはり焼き鳥は奥が深い)

と、なにやら評論家っぽい感じで、焼き鳥の魅力を語りつつ「はぐはぐ」と食べる姿を微笑ましく見つめながら、私もさっさと焼き鳥丼をかき込んだ。


(さて、どうしたものか)

と思ったが、今回はここで引き返すことにする。

奥地まで行って鎮静化するということもできなくはないが、このダンジョンはきちんと冒険者が入って管理されているし、もし、鎮静化して魔物が出てこなくなってしまったら、冒険者はもちろんのこと、その冒険者の落とす金で生活しているこの村の暮らしを破壊してしまう事になりかねない。

私はそう考えて、今回は普通にダンジョンを出ていくことを選択した。


(なんでもかんでも無くしてしまえばいいというものでもないからな…。世の中ってのは難しいねぇ)

と、ひとり愚痴ともなんともつかないようなことを言って荷物をまとめ始める。

そして、

「さて、肉も食ったし、帰ろうか」

と2人に声を掛けると、私たちは行と同じく軽い足取りでダンジョンを後にした。


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