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第67話刀02

ゴブリンの魔石を拾っていると「雷鳴」の3人がやって来る。

そして、みんなで手分けして、手早く魔石を拾い集めた。

「いつもこんな感じなんすか?」

聞いてくるリカルドに、

「いや、杖を使って魔法を放っていたころだと戦法は違ったな。たいてい大きな威力の魔法で一掃したあと、剣に持ち替えて残党を狩っていくというやり方だった」

と、これまでの戦い方を説明する。

すると、

「…さすがっすね…」

と言ってリカルドが苦笑いを浮かべた。


「ははは。年の功ってやつだ。みんなにはみんなの戦い方がある。それを究めればいい。そうしていくうちに道が見えてくるさ」

と言って、なにも誰かの真似をする必要はないということを伝える。

すると、「雷鳴」の3人は真剣な顔で、

「「「はい!」」」

と答えてくれた。

その素直な気持ちを快く受け取り次を目指す。

こうして今回の冒険は気持ちの良い出だしで始まった。


そこからも順調の奥を目指して進んで行く。

昼を挟んで歩くこと1時間ほど。

また、

「にゃ」(あっちじゃ)

とチェルシーが教えてくれた。

その方向に向かって進む。

すると、やや大きな痕跡を発見した。

(どうやらオークらしいな…)

と思い「雷鳴」の方に視線を向ける。

すると、3人も気が付いたようで、私に向かって力強くうなずいてくれた。

私もうなずき返しながら、

「任せる」

とだけ告げる。

「「「はい!」」」

と適度に緊張を含んだ返事が返って来て、そこからは「雷鳴」の3人に行動の主導権を渡した。

慎重かつ的確に動いていく。

さすがは幼いころから一緒に冒険していた仲らしく動きや連携に無駄がない。

彼らは近接特化型だ。

(はたして、どんな戦い方をするのか…)

私はなんとなく想像はついているものの、実際に彼らだけで戦っている姿は初めて見るので、その戦いぶりが見られるのを楽しみにしつつ、万が一に備えて密かに気合を入れた。


やがて痕跡の主が見え、

「行くっす!」

というリカルドに続いて、3人がオークに近寄っていく。

私のように無警戒に突っ込んだりしない。

あくまでも基本に忠実な攻め方をしているところに好感が持てた。


そして、十分の距離が詰まったところで、

「行くっすよ!」

「「おう!」」

という声を合図に3人が飛び出していく。

相手の数は5。

さて、どう戦うのかと思ったが、まずはリカルドとデニスが先頭になって突っ込んできたヤツの一撃を軽く止め、その脇をミナが抜けて行って素早くその手首辺りを断ち切った。

(こうしてみるとハルバードというのもなかなか使い勝手の良い武器だな…)

と感心しつつ見ていると、今度はそのミナの後からこぶしが突っ込んでくる。

ミナは慌てずそれをいなすと、今度はリカルドが飛び込んで脇腹の辺りを一閃した。

そのリカルドにオークが襲い掛かる。

しかし、その攻撃はデニスが見事に受け止めた。

どうやら、デニスは主に盾役、ミナとリカルドがそれぞれ機動的に動くというのが「雷鳴」というパーティーのやり方らしい。

そんなことを思いつつ見ていると、またリカルドが突っ込んで行ってオークに一撃をかました。

さらにミナも反対側から突っ込んでオークを魔石に変える。

続けざまに襲ってくるオークを、デニスが中心になって、誰かが受け止めてはその隙を縫って攻撃するという見事な連携で、私に比べたらやや時間はかかったものの見事にオーク5匹を魔石に変えて見せた。


「いい連携だった」

と魔石を拾っている「雷鳴」のもとに近寄りながら、賛辞を贈る。

すると、リカルドがやや興奮気味に、

「すごいっす。この剣!」

と言ってキラキラとした目を私に向けてきた。

ミナとデニスも、

「うん。いつもより斬れてた」

「そうだな。いつも以上に早く倒せたから楽だったよ」

と言って感心している。

「ははは。気に入ってもらえてよかった。整備はエドワーズという職人に頼むといい。かなり偏屈な爺さんだが、私の紹介だと言えば、『けっ。しょうがねぇから見てやるよ』見たいな悪態を吐きつつも見てくれるはずだ」

と笑いながらエドワーズのことを教えてやる。

すると、

「え?エドワーズってあのエドワーズさんですか!?」

とミナが驚いたような声を上げた。

「ん?知っていたのか?」

と聞くと、

「い、いえ。…有名な方ですから」

というミナに、「ほう?」という顔で続きを促がす。

その視線にミナは、少し困ったような表情を浮かべつつも、

「本当に国一番の武器職人さんなんで、私たちじゃ到底近寄れない感じなんですよ…」

と苦笑いしつつ答えてくれた。

「はっはっは。そうか。本当に国一番だったんだな。いや、腕は確かだと思ったが、本当にそうだったとは恐れ入った。なに、口は悪いが、人間は悪くない。店に入った瞬間『誰じゃ!』と言って脅してくるが、それさえ気にしなければいい店だ」

と、笑いながら教えてやる。

しかし、そんな私の冗談もあまり効果がなかったのか、「雷鳴」の3人は困ったような顔で苦笑いを浮かべているのみだった。


そんな会話の後、少し移動して野営にする。

そして、またデニス特製の乾燥野菜で作ったとは思えないほど美味しいパスタを食い終わると、明日からの予定を確認してみた。

「雷鳴」の3人は、一応5日分くらいの食料が余っているらしいし、私もそのくらいだから、余裕を持たせ、あと1日冒険したら帰ることを決める。

そして、明日はオーク程度までだったら「雷鳴」に任せるが、それ以上の大物だったら、一緒に戦おうということを決めると、その日は交代で見張りをしながら、なんとなく体を休めた。


翌朝。

簡単な朝食を済ませてまた奥を目指す。

いつものように、

「にゃ」(あっちじゃ)

と教えてくれるチェルシーを礼代わりに撫でてやると、その方向へ迷わず進んで行った。

やがて、痕跡に当たる。

「…鶏だな」

「はいっす」

「どうする?」

「…よければ連携させてください。こんな機会もうないかもしれないので」

「ははは。まぁ、また気が向いたらこの町にもくるだろうが…、まぁ、そうだな。よし、何羽いるかわからんが、連携して当たろう。今日は焼き鳥だ」

「「「はい」」」

「にゃ!」(焼き鳥!)

と若干違う声も混じったが気合の入ったいい返事が返ってきたところで、私たちはさっそくその痕跡を追いかけ始めた。


やがて、遠めに昼寝でもしているのか、5、6匹のコカトリスがのんびりしているのが見えてくる。

私たちはそこでいったん足を止めて、

「最初に魔法で一撃入れる。そしたら怒って飛び掛かってくるだろうから冷静に受け止めてくれ。いつも通りでいい、援護は任せろ」

「「「了解です」」」

と言葉を交わし、簡単に作戦を確認した。


作戦通り、まずが私は風の矢の魔法を放つ。

すると、それを受けた1匹が、

「ゴケッ!」

と醜い声を上げてのたうち回った。

そこへすかさず「雷鳴」の3人が突っ込んで行く。

まずはデニスが先ほど私の魔法で倒れた1匹を確実に仕留めた。

次に襲い掛かってくるのをリカルドとミナが止める。

私はまた牽制の意味を込めて風の矢を放ち、残りのコカトリスの足を止めた。

リカルドとミナが確実にコカトリスを削っていく。

そこからは、先ほど同様、デニスが受け止めリカルドとミナが交代で突っ込んで行くという連携が始まり、次々とコカトリスが倒されていった。

最後に一応、私も木の上から襲い掛かろうとしていた1匹を魔法で仕留めさせてもらい戦闘はあっけなく終了する。

私は、周りに気配が無いことを確認しつつ、「雷鳴」の3人の方へ近づいていった。


「お疲れ」

と言って手を掲げる。

すると、「雷鳴」の3人はどこか遠慮しながらその手に自分の手を合わせ、ちょっとぎこちないハイタッチを交わした。

「さて、剥ぎ取りだな」

という言葉に、

「「「はい」」」

「にゃ!」(肉!)

という元気な返事が返って来て、さっそくコカトリスを捌いて行く。

途中、私の包丁に驚かれるという一幕を挟みながらも、解体は無事に終わり、たんまりと肉を取り出すことができた。


やや離れた場所に移ってさっそく飯にする。

私が常備している竹串を取り出し、それにデニスが器用に肉を刺していくと、そこからは楽しい焼き鳥パーティーが始まった。

「にゃぁ!」(お。タレもあるのか!おい。そっちもよこせ)

というチェルシーに串から外して肉を取り分けてやる。

私も「雷鳴」の3人もそれぞれが串を頬張り、豪快に焼き鳥を食べ、今回の冒険は楽しく美味しく終わった。


冒険を終え、ルカの町に戻り、3日ほどゆっくりした私は、また旅に出る。

ルカの町に戻ってきたその日に「雷鳴」の3人とは打ち上げを兼ねて別れの挨拶をしておいた。

3人はさっそくまた冒険に行くと言っていたからきっと今頃どこかのダンジョンに続く田舎道を歩いていることだろう。

ルカの町の門を出て、とりあえず南に進む。

いつものようにのんびり進んでいると、

「にゃぁ」(次はどこじゃったかな?)

とチェルシーが聞いてきた。

「ああ。とりあえずケインの所に向かおうとは思っているがな。まぁどうせ真っすぐは行かんだろうよ」

と、苦笑いしつつのんびりした口調で答える。

「にゃぁ」(風来坊よのう)

とチェルシーの苦笑いでそう言った。

「ぶるる!」

と久しぶりの旅に楽しそうなサクラを撫でてやりつつ、寒さを感じ始めた晩秋の空を見る。

一時期に比べれば少し低くなってきた空に薄い雲がたおやかに流れている。

「風流だねぇ」

と思わずつぶやいた。

「にゃぁ」(風流も良いが飯の手は抜くなよ)

という「花より団子」のチェルシーの言葉に苦笑いを浮かべつつ、いつもの通り、

「あいよ。了解だ」

と答える。

黄金色のススキが風に揺れ、その波が草原を渡って行った。

また、あてのない旅がはじまる。

私はそのことをどこか後ろ髪惹かれるように感じながらも、サクラにゆっくり前進の合図を出し、いつものように、風の向くまま気の向くままに進んでいった。


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