ゴーレムと戦いが終わり打ち上げをしてから3日。
私はまだのんびりとしたままでいる。
そんな中、朝食を食べ
(さて、今日は何をしようか?)
と考えていると、チェルシーが、
「にゃぁ…」(平和じゃのう…)
とつぶやいた。
「ああ。平和だな」
とぼんやり返す。
するとチェルシーが、
「にゃぁ」(次はどうするか決めておるのか?)
と、なんとなくという感じでこれからのことを聞いてきた。
私もなんとなくという感じで、
「ああ。一応な…」
と答える。
そして、
「んみゃ?」(ほう?)
と、意外そうな感じで先を促がしてくるチェルシーに、
「もう一度ケインに会いに行こうかと思っている。世界樹のことやらダンジョンのことはやはり共有しておいた方が良さそうだからな」
と、ぼんやりと今考えていることを伝えた。
それを聞いてチェルシーが、
「にゃ?」(我のこともか?)
と聞いてくる。
その問いを聞いて、私は首を横に振り、
「いや。それはない。貴族としてのケインの立場が危うくなるかもしれんからな」
と、ケインが貴族として弱みを握られないよう立ち回りたいということを伝えた。
その答えに、
「にゃぁ」(人間とは面倒臭いのう)
と言ってチェルシーが苦笑いを浮かべる。
私も苦笑いで、
「ああ。面倒臭い生き物だな…」
と答えると、食後のお茶を飲み干し、とりあえず宿を出て行った。
まずはいつものようにサクラのもとに向かう。
いつもより甘えてくるサクラを見て、
(そろそろ散歩に連れ出してやらねばな…)
と思いつつ、たっぷりと戯れたあと、私はギルドへ向かった。
ギルドに着くと、窓口で、当面の資金とすっかり忘れていた刀の手付金を下ろす。
かなりずっしりとした小さな布袋を適当に懐に詰めると、私はさっそくエドワーズの店へと向かった。
店の前に着き、ボロい扉を開ける。
「誰じゃ!」
と、また初めてこの店を訪れた時と同じダミ声が飛んできた。
(どうやらこれがお決まりの挨拶らしいな)
と苦笑いしつつ、
「ジークだ。前金を持ってきた」
と言うと、奥からエドワーズが出て来て、
「おう。そう言えばそうだったな」
と、特に気にしていない様子でそう言いつつ、「ほれ」という感じで手を差し出してくる。
私はその手に懐から取り出した袋を乗せ、
「50枚入ってる。足りるか?」
と聞いた。
それを聞いたエドワーズが、
「はっ。豪儀なもんだ。ああ、これで全額で構わねぇ。むしろちょっと足が出ちまう。他に何かあるか?」
と言うので、私は少し考えて、
「ああ、じゃぁ適当な剣を貸してくれ。今使ってるのが折れちまってな。その刀が出来上がるまでのつなぎで構わんのだが」
と聞いてみる。
するとエドワーズは、
「ほう。ちょっと見せてみな」
と言って、私の剣を見せろと言ってきた。
私は軽く、
「ああ」
と言って鞘ごと外してエドワーズに渡す。
エドワーズはそれを遠慮なく受け取ると、さっそく剣を抜いて眺め始めた。
一瞬間を置いて、
「おい。これを作ったのはどいつだ?」
と聞かれたので、素直に、
「クルシュタット王国のルネアって町にいるドワイトっていう変わり者の職人だ」
と言うと、エドワーズは、
「なるほどな…」
と言いつつ私をみて、
「あんたもしかして賢者様か?」
と聞いてきた。
「ん?ああ、そうだな」
と何気なく答える。
すると、エドワーズは、
「はぁ…」
と、ため息を吐き、
「まぁ、あいつにしちゃぁよくやった方だな」
と言って、その剣を鞘に納めた。
「ほう。ドワイトとは知り合いだったのか?」
と聞くと、どうやらエドワーズとドワイトは同じ師匠の元で腕を磨いた兄弟弟子だという。
それを聞いて、私はなんとなくこのボロい店構えも伝統なんだろうか?と妙なことを考えつつ、
「なるほどな。ああ、ついでだ、その剣打ち直してもらえるか?」
と頼んでみた。
「おう。そいつぁ構わんが、剣を2本持ってどうするんだ?予備か?」
というエドワーズに、私は、
「いや、この間一緒に冒険した若者に託そうと思ってな」
と何気なく答えた。
「ほう。そいつぁそれほどの腕前なのか?」
と言ってエドワーズが真剣な目を向けてくる。
私はその視線を苦笑いで受け止めると、
「いや。まだまだ全然だ。しかし、将来性はある。どうせならそういう人間に使って欲しいからな」
と答えた。
「はっはっは。そうかい。わかった、その打ち直しも受けてやる。両方となると1か月ほど伸びるが構わんか?」
と言うエドワーズに、
「ああ。時間ならいくらでもあるからな」
と、冗談めかして答える。
すると、エドワーズも、
「へっ。そいつぁお互い様だ」
と言って、「がはは」と笑った。
「ちょいと待ってろ」
というエドワーズがいったん奥に下がっていく。
そして、
「中古だが、それなりに使える。ちょっとした冒険くらいならこれで十分だろう」
と言って、1本の剣を渡してきた。
それを軽く握ってみて、具合を確かめる。
「ああ。十分だ。すまんな」
と言って、それを適当に剣帯に差すと、
「じゃぁ、秋になったらまた来る」
と言って軽く握手を交わし、店を出た。
エドワーズの店を出て、とりあえず市場に向かう。
そろそろ、サクラの散歩がてらダンジョンに入ってもいい頃だろう。
そう思って、適当に必要なものを買いそろえた。
念のため再びギルドに顔を出し、急を要するような依頼が無いかを確認して宿に戻る。
とりあえず厩に行ってサクラに、
「明日から散歩に行こうな」
と言うと、
「ひひん!」
と嬉しそうに鳴いてくれた。
「散歩」という言葉を覚えて嬉しそうにする賢いサクラをさらに褒めてから部屋に戻る。
そして、
「にゃぁ」(おい。そろそろ飯にせい)
というチェルシーの催促を受けて、すぐ部屋を出るとまた町の雑踏の中へと戻って行った。
適当な定食屋でピリ辛のスタミナ丼を食べ、
(そう言えば、この世界にはキムチが無いな…。あれがあればあのスタミナ丼はもっと美味しくなるんだろうが…)
と妙なことを考えつつ宿に戻る。
そして、
(オキアミだかエビだか忘れたが、たしか塩辛みたいなものを入れるんだったな…。その再現をどうするか…。ん?塩辛も無いじゃないか。…あれは日本酒こと米酒に合うんだが…)
と考えながら、思い出せる限りの料理を思い出しつつその製法なんかを書いていった。
翌朝。
ダンジョンに向けて出発する。
今回私はサクラの散歩に良さそうな丘陵地型のダンジョンに行くことにした。
ダンジョンへと続く田舎道をのんびりと進む。
そして、私は広々とした草原地帯で楽しそうに走り回ったりのんびり昼寝をしたりして過ごすサクラの姿を想像して目を細めた。
「にゃぁ」(楽しそうじゃのう)
と言ってなぜかジト目を向けてくるチェルシーに、
「ああ。いつもより足取りが軽い感じだな」
とサクラの首筋を軽く撫でながら、答える。
すると、チェルシーから、
「にゃぁ」(お主がじゃよ)
というツッコミが返ってきた。
その意外なツッコミに、
「ん?私がか?」
と疑問符を返す。
その疑問にチェルシーはややため息を吐きながら、
「にゃ」(ああ。先ほどからニヤニヤしておるぞ?)
と呆れたような言葉を返してきた。
私は思わず照れて笑ってしまうが、そこは正直に、
「ははは。そうだな。久しぶりの冒険だし、なによりサクラが楽しそうなのが一番嬉しい」
と素直な気持ちをチェルシーに教えてやる。
そんな言葉にチェルシーではなく、サクラが、
「ひひん!」
と嬉しそうに鳴いて真っ先に反応してくれた。
「ははは。そうか、そうか。サクラも楽しいか」
と言ってまた笑顔でサクラを撫でてやる。
「にゃぁ…」(まったく、呑気なものよのう…)
と、またチェルシーが呆れたような声でそう言った。
そんなのんびりとした楽しい道中が3日ほど続き、ようやくダンジョン前の村に到着する。
そこで私は食料を少し買い足したり、ゆっくり風呂に浸かったりして英気を養うと、翌日、さっそくダンジョンの中に入っていった。