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第62話ドルトネス共和国04

しばらく進み、今日はあと少しで休憩所に着くというところで、またゴーレムに出くわす。

「任せてください!」

という「雷鳴」の3人を手で制し、

「今度は私が行こう。最近少し運動不足だったからな」

と冗談を言いつつ、今度は私が前に出た。

「漏れたらすまん」

とひとこと言って剣を抜く。

数はまた20ほど。

私は、

「ふぅ…」

とひとつ息を吐くと、魔力を練って一気に飛び出して行った。

ゴーレムは体が岩で出来ているだけあって、硬い。

しかし、しっかりと魔力を纏わせた剣ならたやすく斬ることができる。

(なんだか懐かしい感覚だな…)

と、かつて勇者パーティーとして何度か洞窟型のダンジョンに潜った時のことを思い出しながら、私は右に左に剣を振るった。

まるで木人を相手に剣の稽古をしているような感じで戦いはあっと言う間に終わる。

剣を納め、

「待たせたな」

と言って3人のもとに戻ると、みんなから感心したような目を向けられた。

私はその視線にまた照れつつ、

「さぁ、もう少しだったな。さっさと行って飯にしよう」

と言うと、適当に魔石を拾いながら先へと進んで行った。


やがて、休憩所跡に着き、飯にする。

調理はまたデニスで、今日はまたポトフを作ってくれるらしい。

私たちは野菜の煮えるいい匂いを嗅ぎながら、ひとまずお茶を飲み、ほっとひと息吐いた。

「すごかったです。賢者様」

と、キラキラとした目でそう言ってくるミナに照れながら、

「なに、長い事冒険者をやってればあのくらい誰でもできるようになるさ」

と照れながら答える。

「俺もいつかあんな風に戦えるようになりたいっす」

と、こちらもキラキラとした目で言うリカルドに、

「リカルドはなかなかいい物を持っているが、我流だから少し振りが大きい、そのうち時間があったらギルドの訓練場にでも通って剣術の基礎を少し学んでみるといいぞ。そしたらもっと効率よく剣が触れるようになるはずだ」

と簡単な助言を与えると、

「はい、やってみます!」

と素直な返事が返ってきた。

(みんな気持ちのいい子たちだな…)

と、なぜか父親のような気持ちになりながら、3人で談笑する。

するとそこへまたいい匂いとともにポトフを持ったデニスがやってきた。


なんとも優しい味の、野菜の甘味がしっかりと活かされたポトフを美味しくいただく。

チェルシーも、

「にゃぁ」(なかなかやりおるわい)

と言っているから相当気に入ったようだ。

私たちはみんなで今日の戦いのことを振り返りながら食べ、和気あいあいとした雰囲気のまま食事を終えた。

食後、明日からの話になる。

目撃があった地点まではおそらく1時間もかからないだろうとのこと。

「いよいよだな」

という私の声に、先ほどまでとは打って変わって緊張感のある表情で「雷鳴」の3人がうなずいた。

そんな3人に私は、

「なに。所詮はゴーレムだ。確実に削っていけばなんとかなる。焦らず慎重にいこう」

と、あえて軽い感じで声を掛ける。

その言葉に「雷鳴」の3人は苦笑いながらも笑顔を浮かべて、

「「「はい!」」」

と明るく答えてくれた。


そして、翌朝。

それぞれが装備を確認し、出発する。

小さな灯りの魔道具の灯りを頼りに進んでいると、チェルシーが、

「にゃ」(でかいのがおるぞ)

と、やや緊張感のある声でそう言った。

私はチェルシーを軽く撫でてやりながら、

「おでましらしいぞ」

と「雷鳴」の3人に声を掛ける。

するとみんなの顔が一瞬で引き締まった。

それぞれが得物を手に油断なく進んで行く。

やがて、足場が悪くなり始め、辺りも坑道から洞窟といった雰囲気になり始めた頃。

暗闇の向こうに大きく赤く光るゴーレムの「目」が見えた。


チェルシーに荷物番をお願いし、

「最初のうちは防御に徹してくれ。私がつっこんで削りつつ様子をみる」

「「「はい!」」」

と言葉を交わして各々が、戦闘態勢を取る。

そして、私は杖を取り出し、まずは閃光の魔法を放つと、一気に辺りが明るく照らされ、その魔物が全容を現した。

基本的な見た目は普通のゴーレムと変わりない。

しかし、デカい。

目撃の通り3メートルはゆうに越えている。

そして、所々銀色に輝いている部分があるから、おそらく聖銀の鉱石でもくっつけているのだろう。

(…予想よりも硬そうだな)

と思いつつ、まずは突っ込んで行って、足の辺りを斬ってみた。

すると、意外にもさっくりと斬れたが、相手はさほど痛みを感じていないらしく、何事もなかったかのように私に向かってこぶしを振り下ろしてくる。

私はそれをかわしつつ、今度はその振り下ろされたこぶしを斬ってみた。

「ガキン!」

という音で剣が止まる。

よく見ると、そのこぶしは銀色に光るものが混じっていた。

(ちっ)

と思いつつ剣を見ると、やや刃がかけている。

私はその場はいったん退き、「雷鳴」の3人に、

「銀色の部分は聖銀だ。硬くて斬れん。それ以外の部分は普通のゴーレムだ。時間はかかるが確実に削っていくぞ」

と、これからの作戦を伝えた。

「「「了解!」」」

と声が聞こえて、そこからは「雷鳴」の3人も前に出る。

こぶしを受け止め、その隙に足を削っていくという地道な作業が始まった。


ゴーレムのこぶしは想像以上に重たいらしく「雷鳴」の3人はデニスとリカルドが受け止め、ミナが足を削るという風に役割を分け、左足を中心に削っていってくれている。

私は、なるべく私に注意を引き付けるように、時々、無駄だとわかっていても牽制の意味を込めて軽い魔法を放ちながら立ち回り、右足を中心に削っていった。

やがて、ゴーレムの動きがやや緩慢になってくる。

(そろそろらしいな)

と思い、思いっきり中に踏み込んでゴーレムの脛の辺りに渾身の一刀を撃ち込む。

しかし、また、

「ガキン!」

と音がして、私の剣が止まった。

(なっ!)

と思って咄嗟に退く。

どうやら岩に覆われた足の中には骨のように固い部分があるらしい。

ふと、剣を見ると剣の先端が5センチほどすっぱりと折れてなくなっていた。

「おい。こいつ中に骨があるぞ!」

と告げ「雷鳴」の3人に注意を促す。

(これは思ったよりも…)

と苦戦を覚悟した瞬間私はふと思いついて、杖を取り出すとゴーレムの後に回り、その足元に向かって立て続けに風の刃の魔法を叩き込んだ。

ゴーレムの足元の岩場が崩れゴーレムが体勢を崩す。

(よし!)

と思った私は、次に何の属性もないただの魔力の塊をゴーレムの膝の裏辺りに打ち込んだ。

ゴーレムに魔法は効かないが、衝撃は多少あったようで、いわゆる「膝カックン」を食らったようにゴーレムがバタンと倒れる。

「今だ!」

と声を掛けると、みんなで一斉にゴーレムに取りつき、起き上がる暇を与えないように、どんどんその岩の皮膚を削っていった。

やがて、また私の剣が欠ける。

そこで私は剣を捨て、腰に差していた包丁を取り出した。

「むんっ!」

という気合の声とともに包丁を突き刺す。

すると、あの硬かった骨の部分があっさりと切断され、ようやくゴーレムの足が1本落ちた。

「よし。足を一本落とした。後は削るだけだ!」

と声を掛けてさらにゴーレムを削っていく。

「「「おう!」」」

という声とともに「雷鳴」の3人もゴーレムの上に取りつき、先ほどにも増してその体を削り始めた。

やがて、ゴロゴロと音を立ててゴーレムが崩壊する。

その音を聞いて、私たち4人はこの戦いが終わったことを覚った。


「ふぅ…。やっと終わったっすね」

とリカルドが額の汗を拭いつつ、つぶやく。

「ええ。手強かった…。私たちだけじゃ危なかったかも」

「ああ、そうだな…」

とミナとデニスもそうつぶやき返して、今はただの岩塊になったゴーレムを見下ろしていた。

私も、

「ふぅ…」

と、ひと息ついて、先ほど捨てた剣を拾いに行く。

剣は先端が折れている以外にも所々が散々刃こぼれしていた。

私はそんな剣を見つめて苦笑いをこぼしつつ、「雷鳴」の3人もとに近寄る。

そして、

「帰ったらまず武器の整備だな」

と冗談を言うと、肩をすくめて自分の剣を見せてやった。

「俺たちのもひどいもんっすよ」

とリカルドが苦笑いでそう言い、ミナとデニスをも同じく苦笑いを浮かべている。

私はそんなみんなに、

「とりあえずみんなは持てるだけこの聖銀を持ってギルドに報告に行ってくれ。私は簡単に奥を調査してから戻る」

と告げた。

「え、でも…」

というミナに、

「なに、ちょっと気になることがあるから軽く様子を見るだけだ。無理はせんよ」

と答えて、とりあえず荷物を置いた場所に戻り簡単に飯を食う。

そして、飯が終わると、私と「雷鳴」の3人はそこから別行動をとることになった。

「気を付けて帰れよ。『お家に帰るまでが冒険』だからな」

と冗談を言って、奥へ向かっていく。

やがて、「雷鳴」の3人が見えなくなったところで、チェルシーに、

「どうだ?」

と聞いてみた。

その問いにチェルシーが、

「にゃ」(小さいが似ておるのう)

と答える。

私は、

(やはりか…)

と心の中でつぶやくと、あの世界樹の森の脇で起こっていた異変のことを思い出した。


(嫌な予感ほどよく当たるってのは本当だったらしいな…)

と、思いつつ進む。

そして、奥にあるやや広い空間に辿り着くと、

「にゃ」(ここじゃ)

というチェルシーの言葉にうなずき、世界樹の杖を取り出した。


今回の異変はおそらく世界樹の森の端で起きていたことと同じだろう。

違いがあるとすれば、今回は初期の段階で発見できたから大事には至らなかったといことぐらいだろうか。

おそらく、放置しておけばここは間違いなくダンジョン化していたに違いない。

そう思うと冷や汗が出てくる。

私はそんな状況を見て、

(いったい何がどうなっているんだ…)

と、この現象の不可解さに心の中で首をひねりつつも、まずは今できることをしようと気持ちを切り替え、杖を地面に突き立てた。


一気に魔力を流す。

すると、まるで私の体の中にあるすべての魔力を吸いつくさんばかりの勢いで杖が私の魔力を持って行った。

(くっ…)

と歯を食いしばって耐える。

そして、そろそろ限界かと思ったところで、魔力の流れが止まった。

「はぁ…はぁ…」

と肩で息をしながら、その場で仰向けに倒れる。

(おいおい。マユカ殿はこんなとんでもないことをしてたのか?)

と思いながら、私は洞窟の天井を見上げ、

(こりゃ、しばらく動けんぞ…)

と思い、その瞬間意識を手放した。


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