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第61話ドルトネス共和国03

エドワーズの店を出て、再び宿に戻る。

「にゃぁ…」(遅いぞ…)

と、やや不機嫌なチェルシーを、

「さっと風呂に入ってくる。もう少しだけ待っていてくれ」

と言いながら撫で、急いで風呂場に向かった。

風呂から戻って来るとすぐに、チェルシーを連れて夜の町へと繰り出す。

「にゃぁ」(今日はモツにせい)

というチェルシーの要望に、

「あいよ」

と答えて、私は、目についた居酒屋へと入っていった。


「猫がいるがかまわんか?」

といつものように声を掛け、割と賑わっている店内に入っていく。

「あいよ。どうぞ!」

と言ってくれる店員に進められた店の奥の小さな席に座った。


「とりあえずビールをくれ」

と言って、壁に書かれている品書きを見る。

「お。モツ焼きなんてどうだ?盛り合わせがあるみたいだぞ?」

という私の問いかけに、

「にゃ!」(それじゃ!)

とチェルシーが反応して今夜の飯が決まった。

さっそくビールを持ってきてくれた店員に、モツと適当なサラダを頼んでビールをゴクリとひと口やる。

「ぷはぁ…」

と思わず息を漏らし、

(やっぱりビールはひと口目が美味いな…)

と感慨に浸りながら、その爽やかな刺激を堪能した。


やがてやって来たモツを焼き、ミノを「もきゅもきゅ」するチェルシーを微笑ましく見ながら食べる。

しみ出す脂のうま味と歯ごたえを楽しみ、遠慮なくどっぷりとつけたタレの味で白米をかき込んだ。

満腹になった腹を温かいお茶で〆て店を出る。

(さて。明日は準備か…。洞窟系となると灯りが大量に必要だな…)

と考えながらも、私はどこかふわふわとした足取りでのんびりと宿へと戻っていった。


翌日をきっちりと準備に充て、さらに翌日。

早朝。

美味しそうなカツサンドがあったので、それを買ってチェルシーと一緒にパクつきながらギルドに向かう。

「みゃぁ」(うむ。朝からカツとは気分がよいのう)

と、相変わらずの健啖家ぶりを見せるチェルシーを微笑ましく思いながらギルドの前に到着すると、すでにそれらしい3人とフッツが玄関の前で待っていてくれた。

「すまん。待たせてしまったみたいだな」

と、声を掛ける。

するとフッツはにこやかな顔で、

「いえ。我々も先ほど出てきたばかりですから」

と気さくに答えて右手を差し出してきてくれた。

軽く握手を交わし、

「この3人が?」

と聞く。

「ええ。紹介しましょう『雷鳴』のデニス、ミナ、リカルドです」

とフッツがいうと、その3人はやや緊張した面持ちで、

「デニスです。斧を使います」

「み、ミナです。ハルバードです」

「リカルドっす。剣っす」

と、それぞれに名前と得物を紹介してくれた。

私はそれにうなずき、

「ああ。よろしくな。ジークだ。見ての通り剣と魔法を使う」

と、あえて軽く自己紹介をする。

そして、それぞれと握手を交わしたところで、フッツが、

「鉱山の手前にある村で馬を預かってもらえるよう話をつけておきましたので、まずは村長をお訪ねください」

と言い、私たちはそれにうなずくと、それぞれの馬に乗り、さっそく問題の鉱山に向けて出発した。


鉱山手前の村までは馬でおよそ1日らしい。

最初はなんとなくよそよそしい感じで進んで行く。

そんな中、リカルドが、

「あ、あの賢者様。竜ってどんくらい強いんすか?」

と、思い切った感じで話しかけてきた。

私はその少年のような質問を微笑ましく思いつつ、

「ああ。あの時は大変だったな…」

と切り出し、どこか遠くを見るような目で、4種の竜それぞれとの戦いを思い出す。

そして、仲間のことを懐かしく思い目を細めながら、あの時のことを語って聞かせた。

その話を「雷鳴」の4人はまるで絵物語を聞く子供のような目をして聞く。

時折、質問を受け、その度に丁寧に答えてやっていると、段々私たちの間に合った妙な緊張感が薄れていき、村に到着するころには冗談を言い合えるような感じになっていた。


村に到着し、さっそく村長に挨拶に行く。

村長は歓迎してくれて、その日の宿の提供を申し出てくれた。

喜んでお言葉に甘えさせてもらい、心尽くしの膳をいただく。

「にゃぁ」(おい。そっちの鴨をもう一つよこせ)

と言って飯を催促するチェルシーをみんなで微笑ましく眺めつつ食事は楽しく進んで行った。


翌日。

村長に見送られさっそく現場に向かう。

現場に着き、装備の最終確認を行うと、私たちは互いにうなずき合って、さっそく坑道の中に入っていった。


ヘルメットをかぶり、額の所についた灯りの魔道具で道を照らしながら進んで行く。

坑道の中は意外と広く、道幅は4メートルほどあり、地面も綺麗に整備されていた。

序盤は、順調に進んで行く。

やがて、おおよそ昼頃だろうという頃。

私たちは適当に開けたところで昼食の準備に取り掛かった。

このパーティーの中で一番料理が上手いのはデニスらしく、なかなかの手並みで野菜を切っている。

そんな様子を何となくみながら、そばにいたミナに、

「目撃のあった地点まではあとどのくらいかかりそうだ?」

となんとなく聞いてみた。

「そうですね…。無理をすれば明日中には着きますけど、余裕を持たせるなら2日って所です」

と言うミナに軽くうなずいて、

「そうか。…たしか、目的地の辺りは天然の洞窟だったな?」

とさらに聞く。

その質問にミナはうなずいて、

「はい。目撃のあった地点辺りからそうなってますね。そこからもう少し奥に行くとけっこう大きな空間があります」

と教えてくれた。

私はまたその言葉にうなずいて、ふと、

(なぜ、突然魔物が出てきた?しかも、特異個体らしき大物が…)

と考える。

この疑問は最初にこの話を聞いた時からずっと考えていた。

しかし、考えれば考えるほど訳がわからなくなる。

(やはり答えは現場に行ってみないとわからんのだろうな…)

と思って考え込んでいると、

「あ、あの…賢者様?」

とミナが心配そうに私を覗き込んできた。


「ん?ああ、いや、ちょっと考え事をな。心配ないぞ」

と答えるが、ミナはまだどこか不安そうにしている。

私は、

(おいおい。若者を不安にさせてどうする)

と自分のうかつさに苦笑いしつつ、

「いや。本当になんでもないんだ。余裕があればその奥の空間を見に行ってみるべきかどうか考えていただけだからな。安心してくれ、今のところみんなの行動にも不安な点はないし、計画も余裕をもって立てられているぞ」

とミナに安心してもらうよう声を掛けた。

その言葉でミナの顔に少しほっとしたような表情が戻る。

するとそこへいい匂いが漂ってきて、デニスが美味そうなピラフを持ってきてくれた。

「にゃぁ」(うむ。なかなか良い匂いをしておる。どれ、さっそく食わせい)

というチェルシーに、そのピラフを取り分けてやってさっそくひと口頬張る。

すると、まずは口いっぱいにバターの甘味が広がり、続いて刺激的かつ華やかな香りが鼻腔に広がった。

(…まさか!?)

と思って、デニスを見る。

すると、デニスが、

「この国名物のトリュフ入りのバターを入れてみたんですが、お口に合いましたでしょうか?」

と聞いてきた。

(野営飯でトリュフだと…)

と驚きつつ、

「いや。たいしたものだ。恐れ入ったよ」

と、素直に褒める。

その言葉に照れたのかデニスは、

「材料がいいだけですから…」

と言ってうつむきながら、自分で作ったピラフをガツガツと食い始めた。


やがて昼も終わりまた先を目指して出発する。

そして、無事、今日の目的地に着くと、またデニスが作ってくれたポトフを食べてゆっくりと体を休めた。


翌日。

また同じような感じで進み、奥を目指す。

すると、そろそろ昼だろうかという時間になって、チェルシーが、

「にゃ」(なにかおるぞ)

と教えてくれた。

その言葉を聞いて、慎重に気配を探る。

すると、なにやら奥の方で微かにうごめく気配があるのに気が付いた。

「みんな。なにかいるぞ」

と前方を言っていた「雷鳴」の3人に声を掛ける。

「雷鳴」の3人はピンときていないようだったが、私の言葉を聞いて辺りの気配を慎重に探り始めた。

慎重に進んで行くとやがて気配が濃くなってくる。

さすがに「雷鳴」の3人も気が付いたようだ。


「前衛は任せてください」

とミナが言って「雷鳴」の3人が前に出る。

私はその様子を頼もしく見つつも、剣を抜いて油断なく構えた。

やがて、坑道の奥から赤い光の点がいくつかこちらに近寄ってくる。

どうやらゴーレムのようだ。

「…普通のゴーレムまで出て来てるの!?」

とミナが若干驚いたような声を上げた。

そこへ、

「落ち着け、雑魚は雑魚だ」

とリカルドが声を掛ける。

「そうね」

と言って、ミナが落ち着きを取り戻すと「雷鳴」の3人は一気に前に進んでいった。


ゴーレムは適当な岩石がくっついて人型になった魔物で、魔法に強いという特徴がある。

強さはゴブリン程度。

ゴブリンとの違いは消えてなくならず、岩がその場に残る事くらいだろうか。

ともかく、リカルドの言った通り、雑魚であることに違いはなかった。


暗くてよく見えないが、赤い点の数は20程度。

「雷鳴」の3人なら落ち着いて戦えば問題無い数だろう。

(まずはお手並み拝見といきますか…)

と思いつつ、私は後ろに控える。

すると、

「行くぞ!」

というリカルドの声に、

「「おう!」」

とミナ、デニスが答えて、3人は一気にゴーレムの群れに向かって突っ込んで行った。

全員が盾を使うだけあって、問題なくゴーレムの突進を止め確実に岩塊に変えていく。

(うん。動きに無駄がない。少し我流の所はあるが、それでもしっかりと経験を積んできたのがよくわかる)

と少し上から目線で感心しながらその戦いぶりを見ていると、戦闘はあっと言う間に終わった。


「賢者様のおかげで早く気が付けたっす。ありがとうございます」

と、尊敬のような眼差しを向けてくるリカルドに、

「たまたまさ」

と本当はチェルシーのお手柄だと思い、少し照れながら答える。

そして、

「さぁ、さっさと魔石を拾って次に向かおう。この分だとまた出てくるかもしれん。慎重に進もう」

と言うと、

「はい!」

と返事をしてくれる「雷鳴」の3人と一緒に魔石を拾い、私たちはまた奥を目指して進み始めた。


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