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第60話ドルトネス共和国02

翌朝。

すっきりとした心と体で目覚める。

(やはり香辛料の効能はすごいな…)

と感心しつつ宿を発ち、さっそく首都ルカの町を目指して街道を進んだ。


そして、進むこと2日。

ようやくルカの町に入る。

私は宿を取るとさっそくギルドに向かい、受付にいた中年の男性に、

「すまんが、この国で一番の職人を紹介してもらいたい。作ってほしいのは刀と杖だ」

と言ってギルドカードを提示した。


「少々お待ちください」

と言ってその中年男性が受付の奥に行くと、しばらくして戻って来て、

「ギルドマスターが詳しい仕様を聞きたいとおっしゃっていますので、どうぞこちらに」

と言い、私をギルドマスターの執務室へと案内してくれた。


ギルドマスターの執務室に入り、中にいた老齢の男性に、

「急に申し訳ない。ジークフリートだ」

と言いつつ右手を差し出す。

「お初にお目にかかります、賢者様。この町でギルドマスターをしているフッツと申します」

という男性に、

「こちらこそ」

と言いつつ握手を交わす。

そして、勧められるがままに応接のソファに座ると、さっそく、

「刀と杖でしたか?」

というフッツに、

「ああ。しかし、できれば一体になったもの、つまり、魔法も撃てる刀が欲しい」

と素直に自分の希望を伝えた。

フッツが少し目を見開く。

「ほっほっほ。また変わったものをご所望ですね」

と言って笑うフッツに、

「ああ。自分でも妙なことを思いついたもんだと思っているよ」

と言って肩をすくめてみせた。


「かしこまりました。材料は何をご希望で?」

と聞くフッツに、

「ああ。それならオーガ鉄を拾ってきたからそれで頼みたいと思っている。大丈夫だろうか?」

と言うとフッツがまた目を見開く。

そして、

「さすがは賢者様ですな…」

と言って、

「はっはっは」

と、さもおかしそうに笑った。

ひとしきり笑い終えたフッツが、

「それなら飛び切りの職人を紹介しましょう。ただ、ちょっと頑固者ですから、時間がかかるかと思いますが、余裕はおありで?」

と聞いてくる。

そんなフッツに、私は、

「ああ。職人は頑固な物だし、ご覧の通り長寿だ。時間なんていくらでもあるさ」

と冗談っぽく返した。

今度は2人して笑う。


そして、

「では紹介状を」

と言うフッツからそれらしい書類を受け取ると、私は、

「すまんな」

と言って、そのまま席を立とうとした。

そんな私を、

「ああ。少々お待ちください賢者様」

と言ってフッツが呼び止める。

「ん?」

と言って、フッツの方に目をやると、

「実は折り入ってご相談が」

と言って、フッツが、真剣な眼差しを私に向けてきた。


「聞こう」

と言って、少し姿勢を正す。

おそらく重要な話だろう。

私はフッツの目を見て、なんとなくそう直感した。


「実は、数日前、鉱山の奥にゴーレムが出現しましてな…」

と、困ったような顔で言うフッツに、

「ほう?」

と視線を投げかける。

洞窟型のダンジョンでゴーレムは珍しい存在じゃない。

むしろ雑魚と言ってもいいだろう。

たしかに鉱山に出たというのは驚きだが、そこまで困る事なのだろうか?

おそらくフッツも私のその疑問を察してくれたのだろう。

私に向かってひとつうなずき、

「目撃者によると体長はゆうに3メートルはあったそうです」

と、衝撃の事実を告げた。


「なっ…」

と一瞬絶句する。

私の知っているゴーレムは子供くらいの大きさで、ちょっと剣でつつけばボロボロと石ころになってしまうような魔物だ。

ミノタウロス並みの大きさの物など聞いたこともない。

私は、まだ驚愕しながら、思わず、

「…本当か?」

と聞いてしまった。


「ええ。私もにわかには信じられませんでした。しかし、目撃した人物はかなり信頼できる人物です。そこで今回その真偽を確かめるための調査隊を送り込もうということになっていたのですが、いかがでしょう?賢者様もそれにご参加いただけませんかな?」

と言いながらこちらを窺うフッツの視線にひとつうなずき、

「わかった。出発はいつだ?」

と答える。

「おお。それはありがたい。いや、急な話で申し訳ありませんが、今回調査に向かってくれる連中も心強いことでしょう。ではさっそく詳細のご説明を…」

と言ってフッツは立ち上がり、地図らしきものを数枚持って戻って来た。


「ではご説明を…」

と言うフッツから詳細を聞く。

どうやら問題のゴーレムが現れたのはかなり歴史のある鉱山のそれも奥の方のようだ。

その鉱山は、産出量こそ少なくなってしまったが、希少で質の高い聖銀が取れるらしく、その鉱山を熟知したベテランが時折潜っているとのこと。

今回の目撃もそんなベテランのひとりということだった。

一通り概要を聞き、

「なるほどな。で、どのくらいの経験がある人間が何人くらい参加するんだ?」

と、今回の調査の規模について尋ねる。

その質問にフッツは軽くうなずくと、何やら個人調書のようなもの取り出して、それを見せながら、

「参加するのは『雷鳴』というパーティーで、デニス、ミナ、リカルドの3人で組んでいます。武器はそれぞれ、メイス、ハルバード、剣を使いますが、全員が盾も扱うので防御力は相当なものです。討伐よりも調査を優先した人選だとお考え下さい」

と、今回同行する人物たちの概要を紹介してくれた。


私はそれにうなずき、

「なるほど。良い人選だな。で、3人の経験は?」

と、さらに詳しい人物像を聞く。

そんな私にフッツは、どこか優しい目をしながら、

「はい。3人ともまだ40代と若いですが、それでも20年近い経験があります」

と答えてくれた。


私はその表情を少し疑問に思いながらも、

「ほう。ずいぶんと幼いころに冒険者になったんだな」

と何気なく聞く。

するとフッツはまた、優しい顔で、

「ええ。彼らは同じ孤児院で育っておりますから」

と答えた。


「…そうか」

と、少し複雑な気持ちでその言葉を受け止める。

そんな私のほんの少しの気まずさに気がついたのだろうか、そこでフッツは少しその場の空気を変えるように、

「なので、連携に関してはかなりのものですよ」

と笑顔でそう言った。


「ふっ。それは頼もしいな」

と私も自分の余計なお世話をおかしく思いながら苦笑いで答える。

その私の態度に、フッツもどこか安心したような表情になりながら、

「ええ」

と微笑んでくれた。


「わかった。出発は早い方がいいな」

と言って、真剣な表情に戻りそう言う私にフッツも真面目な顔で、

「ええ。できれば」

と答える。

私は少し考え、

「洞窟となると準備も必要だろう。あと一応刀の注文もしておきたい。…明後日の朝、ギルドに集合でどうだ?」

と提案してみた。


「かしこまりました。伝えておきましょう」

と言ってフッツがうなずく。

私は、

「じゃぁ、よろしく頼む」

と言って、立ち上がると、

「いえ。こちらこそよろしくお願いいたします」

と言うフッツと握手を交わしギルドを後にした。


ギルドを出て、

「にゃぁ…」(お主も難儀なものよのう…)

と他人事のように言うチェルシーを苦笑いで撫で、いったん宿に戻る。

時刻は夕方前。

私は少し迷ったが、まずは紹介された職人のもとを訪ねることにした。


サクラに積んでいた荷物の中からオーガ鉄の入った重たい袋を取り出し、宿を出る。

そして、紹介状と一緒にもらった簡単なメモ書き程度の地図を開くと、さっそくその紹介された職人の店を目指して歩き始めた。


簡単に道順を示しただけの地図を見ながら細い路地を歩く。

するとやがて、狭い長屋や様々な職人の店らしい看板が軒を連ねる、いかにも職人街といった雰囲気の場所に出た。


(八百屋の2軒先…)

と頭の中でつぶやきつつ、地図と現実を突き合わせながら進む。

そして、地図に書いてあった通り、八百屋の2軒先に「武器・エドワーズ」と書かれた小さな看板があるのを発見した。

(ボロいな…。良い職人ってのはボロ屋が好きなのか?)

と、どこかルネアの町で例の包丁とまな板を作った武器職人ドワイトの店のことを思い出しながら、心の中で苦笑いを浮かべつつ、その店の扉を開ける。

すると、突然、

「誰じゃ!」

というダミ声が店の奥から聞こえてきた。

「客だ」

と、ひと言答える。

すると、

「うちは素人の来る店じゃねぇぞ」

と、ずいぶんな返事が返って来た。


私は、

(職人ってのはどうしてこう、誰もかれも似てるんだ?)

と思いつつ、苦笑いで、

「ギルドマスターのフッツに紹介されてきた。この町一番の武器職人で間違いないか?」

と、やや冗談っぽく尋ねる。

そんな私の問いかけに、その声の主は、

「俺が一番なのはこの町でじゃねぇ。この国でだ」

と、やや不機嫌そうに答えて、重たそうに腰を上げ、私の方へと歩み寄って来た。

「エドワーズだ」

と言って差し出された右手を、

「ジークフリートだ」

と言って握る。

私の手を握った瞬間エドワーズは、

「ほう…」

と言って、私に値踏みするような目で見つめてきた。

「客だとわかってもらえたか?」

と、ニヤリと笑いながらそう聞くと、エドワーズが、

「ふんっ。で、何を作れってんだ?」

と、いかにも職人らしい、ぶっきらぼうな感じでいきなりそう聞いてきた。

(おっさんのツンデレはいらんのだがな…)

と心の中で苦笑いしつつ、私も率直に、

「魔法が撃てる刀を作ってくれ。材料はこれで頼む」

と言ってオーガ鉄の入った袋を渡す。

するとエドワーズは、その袋の中身を軽く見て、

「ほう…」

と言って目を細めた。

私はあえて、できるかできないかという質問を飛ばし、

「どのくらいかかる?」

と聞く。

その質問にエドワーズは一瞬考えるような間を置いたが、

「3か月だ」

と言って私に「どうだ?」というような視線を送ってきた。

「わかった。ああ、ついでに剣帯も作ってくれないか?こいつも一緒に差せるといいんだが」

と言って例の木刀にしか見えない世界樹の枝で作られた杖を差し出す。

すると、エドワーズは大きく見開き、

「おい…」

と、つぶやいてその驚きの表情をそのまま私に向けてきた。


「まぁ、いろいろあってな」

とだけ答える。

すると、エドワーズは、

「はっはっは。長生きはするもんだ!」

と言って豪快に笑った。

私もつられて、

「ははは」

と笑う。

そうして私たちはひとしきり笑うと、

「よし、気に入った!久しぶりの大仕事だ。任せときな。世界に1本しかないバカみたいな刀を作ってやるよ」

「ああ。頼んだ」

と言って再び握手を交わし、商談を成立させた。


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