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第38話エルダーの森へ02

翌朝。

幸せな気持ちで目覚め、さっそく支度を整える。

「ふみゃぁ…」

と言ってまだ眠たそうにしているチェルシーを軽く撫でて起こしてやると、いつものように抱っこ紐に入れてやってから宿を出た。

門をくぐり、村へ続く田舎道へ出たところで、チェルシーが起き、抱っこ紐の中から顔を出す。

「にゃぁ」(鞍に乗せろ)

というチェルシーを専用席に降ろしてやると、チェルシーは、

「にゃぁ」(気持ちのいい日じゃのう)

と言って、軽く伸びをしながら、あくびをした。


「にゃぁ」(カエル退治じゃったかのう)

というチェルシーに、

「ああ。そうだ」

と答えつつ、

「しかし、奥まで見てみる必要があるかもしれんから、一応頭に入れておいてくれ」

と頼む。

「にゃ」(了解じゃ)

と言って、さっそく菓子鉢のような席の中で丸くなるったチェルシーを軽く撫でてやってから、

「サクラも頼んだぞ」

と言って、サクラの首を軽く撫でてやった。

「ひひん!」

と嬉しそうに鳴くサクラの背に揺られてのんびり進む。

そして、夕方前。

無事、目的の村に到着した。


さっそく村長宅を訪ねて依頼を受けたことを伝え、状況を聞く。

村長の話はギルドで聞いたのとだいたい同じ内容だったが、その沼地をカエルに占領されてしまったおかげで猟師が近づけず猟に差支えが出ているという追加の情報を得た。

(こういう小さな村にとって、猟師が獲って来る肉はけっこう貴重だからな)

と思いつつ、村長に安心するよう伝えてその日の宿を頼む。

その日は村長宅で心尽くしのもてなしを受けると、翌朝、さっそく森へと向かった。


森に入ると、さっそくその沼地を目指す。

歩けば1日ちょっとかかるという話だったがサクラのおかげで順調に進み、午後には問題の沼地の側までたどり着いた。

「すぐに終わらせるから待っていてくれ」

と2人に言ってさっそくその沼地に近づいていく。

私は沼地の淵に立つと、杖を取り出し土魔法で半径5メートルほど足場を固めた。

(どうも土魔法は苦手なんだよな…。いまだに足場固めくらいしかできん…)

と自分の不甲斐なさを嘆きつつ、その足場の先端付近に立つ。

すると、どこからか、

「ゲコ」

というカエルの鳴き声がして、それが一気に広がり、体長1メートルほどのカエルの魔物が私の周りを取り囲み始めた。

(うるさいな…)

とその大合唱を煩わしく感じながら、杖を構える。

集中して魔力を練り、初級の水魔法、水の球の魔法を発動した。

私の周りにビー玉ほどの水の球が無数に浮かび上がって、私の攻撃態勢が整う。

そして、私は狙いを定めてというよりも一斉掃射と言う感じで、群がるカエルを撃っていった。

とりあえず見た渡せる範囲のカエルを全て魔石に変えると、私はまた足場をつぎ足し、どんどんその沼地の中心へと進んでいく。

やがて、カエルの鳴き声が聞こえなくなってきた頃。

ひと際大きな個体が現れた。


数は2。

どうやらこの大集落を築いた親玉らしい。

これまで以上に大きな声で、

「ゲコゲコ」

と鳴く大カエルにも遠慮なく水の球を撃ち込む。

戦闘はあっけなく終了し、私は魔石を拾いつつ、撃ち漏らしがないかの確認作業に入った。


わりと広い沼地の周りを1周し、丁寧に辺りを観察する。

時々、カエルを撃ちつつ、元の場所に戻ってきた。


「にゃぁ」(腹が減ったぞ)

と呑気に言ってくるチェルシーに、

「すまん。待たせたな」

と言うと、私はさっそく夕食の調理に取り掛かる。

そして、その日は、野菜が食いたいと言うチェルシーの要望を受けてポトフを作った。


翌日。

今回、カエルがこんなところにまで出てきた理由を探りに森の奥へ向かう。

ここでもサクラが大活躍し、予想以上に奥まで進むことが出来た。

日が陰り出したのを見て野営の準備に取り掛かる。

適当に設営を済ませ、やや重たさを感じる空気の中、村長宅で分けてもらったドライソーセージを使ってトマトスープを作った。

まずはチェルシーの分を取り分けてやる。

チェルシーはひと口食べると、

「にゃぁ」(ほう。辛味が効いていて意外と美味いのう)

と言って、はぐはぐと美味しそうに食べだした。

そんなチェルシーを微笑ましく眺めつつ、私もゆっくりとそのスープを口に運ぶ。

口に入れた瞬間、チェルシーが言うように、複雑な香辛料の香りが鼻から抜け、私の舌を軽やかに刺激してきた。

おそらく村の人達が長年かけて作り上げてきた味なのであろう。

保存と美味しさ。

その両方をちょうど良く達成するのは簡単そうで難しい。

私はそんなことを思って、その味をゆっくりと味合わせてもらった。


やがて、食後。

お茶で人心地ついていると、チェルシーが、

「にゃぁ」(明日は出るぞ)

と何気なくつぶやく。

私はそのつぶやきに、

「ああ。そうみたいだな…」

と、やや重々しくつぶやき返した。

チェルシーが、続けて、

「にゃぁ」(大物じゃなければよいのう)

と、まるで村を心配してくれているかのような言葉を発する。

私はその言葉がなんとも嬉しくて、

「ああ。そうだな」

と微笑みながら返し、チェルシーを軽く撫でてやった。


その日はそのままゆっくりと体を休め、翌朝。

日の出とともに行動を開始する。

なんとなくダンジョンの中心へ向かう方向に進んでいると、私の前方でチェルシーが、

「にゃ」(来るぞ)

と言って、空を見上げた。

私もその視線の先を追う。

すると、遠くにくるくると弧を描きながら空を悠然と飛ぶ大きな鳥の姿が何羽か見えた。

(トンビか!)

と直感する。

トンビの魔物はこんな浅い場所にはいないはずだ。

それが何らかの理由でこんなところに現れてしまった。

おそらくそれがカエルを村の近くまで追いやった原因だろう。

(しかし、なぜトンビが…)

という疑問は残ったが、私はその疑問をいったん脇に置いて、サクラから降りる。

そして、

「木陰ながら安全だ。しばらくじっとしていてくれ」

と言って、サクラを木陰に避難させると、急いでその場を駆け出し、まずは牽制の意味を込めて上空にいるトンビめがけて風の矢の魔法を放った。


「ピーヒョロー」

とどこか気が抜ける声を上げて、トンビの魔物が集まって来る。

私は、

(よし。とりあえずこちらに目を向けさせられたな)

と思いながら走り、倒木のせいで少し開けた場所を見つけると、そこでまたトンビたちに向かって風の矢を放った。


また、

「ピーヒョロー」

と気の抜けた声を上げて、トンビの魔物が徐々に高度を下げてくる。

おそらく怒っているのだろう。

私は引き付けられるだけ、引き付けると、今度は確実に狙いを定めて風の矢を放った。

「ギャ!」

と声を上げて、1羽落ちる。

すると、続けて襲い掛かって来た2羽目が少し戸惑って上空に逃げるような仕草を見せた。

(させるか!)

と心の中で叫びつつ、続けざまに風の矢を放つ。

その魔法も過たずトンビの魔物を射抜き、魔石に変えて地面に落とした。

(次!)

と、また心の中で叫んで魔法を放つ。

どうやらそれでトンビの魔物が本格的に怒ったらしい。

今度はいっせいにこちらに向かって襲い掛かって来た。

(釣れた)

と思いつつ、なるべく引き付け、旋風の魔法を放つ。

すると、私めがけて突っ込んできたトンビの魔物が巻き上げられるようにして切り刻まれ、一気に魔石に変わって落ちてきた。

「ふぅ…」

と息を吐いて、とりあえず目についた魔石を拾い集める。

拾い集められた魔石は5つ。

もう何羽かいたように思ったが、おそらくどこか遠くへ落ちてしまったのだろう。

(ったく。これだから飛んでる魔物は人気が無いんだよ)

と変なことに愚痴を言いつつ、サクラとチェルシーのもとへと戻っていった。


「すまん。待たせたな」

と声を掛けると、さっそくチェルシーから、

「にゃぁ」(飯じゃ)

といつものように飯を催促する言葉が投げかけられる。

「あいよ」

と私もいつものように苦笑いでそれに応じると、さっそく荷物の中から食材を取り出して昼食の調理に取り掛かった。


パンにハムとチーズを挟んだだけの簡単な昼食を済ませて、さっそく帰路に就く。

野営を挟みながら、村に帰り着き村長に無事終わったことを報告すると、予想以上に喜ばれた。

聞けばこんな安い報酬で請けてくれる冒険者がいるかどうか不安だったらしい。

それに、私がひとりだったことを心配してくれていたのだそうだ。

そんな田舎の村人らしい、純朴な優しさに嬉しさと照れくささを感じる。

私は、照れ隠しに、

「たいしたことはしていない」

というようなことを言うと、さっさと村を後にした。


宿場町に戻り、カエル退治の報告をして、とりあえず宿に入る。

私はなんとも言えない達成感のようなものを感じながら、少しウキウキとした気持ちで銭湯に向かった。

風呂から上がりさっぱりした所で、いったん宿に戻る。

「お待たせ」

と言ってチェルシーを抱きかかえてやると、

「にゃぁ」(今日は鶏肉の気分じゃな。鴨でもよいぞ)

というので、さっそくそれっぽい店を探しに町へと繰り出していった。


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