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第31話鞍を作ろう01

キングゴートの狩りが終わり、無事宿場町に戻る。

チェルシーにご所望のチーズバーガーを食わせてやって、翌日。

私はさっそくギルドを訪ね、キングゴートの皮と魔石を持ち込んだ。

「魔石は売るが、皮は売るつもりはない。正規の料金を支払うから下処理をしてくれ」

と頼んで、

「10日ほどかかりますが」

というギルド職員に、

「構わん。なんならもう少しかかってもいいからとにかく丁寧にやってくれ」

と頼んで、宿屋に戻る。

「10日以上かかるそうだから、しばらくのんびりしよう。あの酒場、カプレーゼやらピザやら、とにかくチーズ料理が充実してるみたいだからな。しばらくの間は肉とチーズ三昧だな」

とチェルシーに伝えると、

「にゃぁ!」(それはよいのう)

と言って喜んでくれた。

「はっはっは。昼は弁当を持って近くの原っぱにでもピクニックに行こう。そうすればサクラも一緒に飯が食えるからな」

と言ってチェルシーを撫でてやる。

そんな会話を交わした日から15日。

ほんとうにのんびりした日々を過ごしていると、ギルドから皮の処理が終わったという知らせがきた。

さっそく革を受け取り、宿場町を出る。

ここからクルシュタット王国の古都クルツの町へは普通に歩いても1か月はかかるだろう。

季節は初秋。

私は、

(鞍がいくらするか知らんが、どうせなら最高級の物を作ってやりたい。…途中でダンジョンにでも入って小銭稼ぎでもしておくか…)

と呑気に考えながら、街道を歩き始めた。

やがて、10日ほど進んだところで、街道を逸れ、ダンジョンへと続く田舎道へと入っていく。

道を進みながら、私が、

「今回はちょっと奥まで行こう。鞍代の足しにしたい」

と言うと、チェルシーが、

「にゃぁ…」(仕方ないのう…)

とやや面倒くさそうにそう言った。

(こいつ、段々猫に近づいてきてないか?)

と、魔王が魔王たる矜持を捨て、猫化してきているのではないかという疑いを持ちつつ、チェルシーに、

「ありがとう」

と伝えて撫でてやる。

「ふみゃぁ…」

と気持ちよさそうに鳴くチェルシーは本当に猫としか思えなかった。

そんな平穏な旅路を経てダンジョン前の村へ着く。

今回のダンジョンはひと言で言うなら谷。

谷と言うよりも大地の裂け目と言った方がいいかもしれない。

高い崖に挟まれた広い谷の中に森が広がっている変な場所で、大物が多いことで知られている場所だ。

「さて。何か大物でも出てくればいいが」

と、やや不謹慎なことをつぶやきつつ、私はその村の門をくぐった。

準備を整え、翌日。

谷に向かう道を下っていく。

(この間登ったから次は下りか…)

と妙なことを考えつつ、ジグザグに伸びた坂道を下っていくと、やがて谷底に着いた。

(意外と時間がかかったな…)

と思いつつ、先を急ぐ。

その日は谷の底に広がる森を少し進んだところで野営にした。

いつものように簡単な飯を作り、

「にゃぁ…」(そろそろまともな飯を食わせて欲しいんじゃがな…)

と愚痴をこぼすチェルシーを宥めつつ食べる。

簡素な食事はすぐに終わり、軽くお茶を飲んだところで寝る支度に取り掛かった。

日はとっくに沈んでいる。

暗く静かな森の中、火の始末をしたところで、いきなりチェルシーが、

「にゃ!」(おるぞ!)

と叫んだ。

慌てて剣を取り、

(ちっ。いくらなんでも油断し過ぎた…。チェルシーには今度たんまり肉を食わせてやらねばいかんな)

と変なことを考えつつ、構える。

確かに、言われてみればなんとなく重たい空気を感じるが、言われなければわからないほどの小さな気配が感じられた。

私はその気配を読みながら、

(虎…いや、豹か…)

と考えながら、サクラを守る位置につき、視覚ではなく聴覚に全神経を集中する。

「かさり…」

とわずかな音がした。

どうやら気配の主は私たちの周りをうろつき、こちらの隙を窺っているようだ。

(じれったいな…)

と思いつつも、

(じれたら負けだぞ…)

と思って集中力を高める。

そんなじれったい時間のなか先に動いたのは気配の主の方だった。

微かに地面をける音とともに何かが飛び掛かって来る。

私は素早く剣を抜き、その何かを斬った。

確かな手ごたえの後、

「コロン」

と何かが転がる音がして振り返る。

するとそこには赤く光るやや小ぶりな魔石がひとつ落ちていた。

「にゃ」(豹じゃったぞ…)

とチェルシーがやや退屈そうな声でそう言う。

(いやいや、もっと緊張感を持ってくれ…)

と思ってチェルシーの方を見ると、チェルシーの横でサクラが堂々と膝をついて眠っていた。

(信頼されてるってことなんだろうな)

と苦笑いで軽く2人を撫でてやる。

「ふみゃぁ…」

「ぶるる…」

といかにも幸せそうな声を漏らす2人の姿に私もなんだか癒されて、その日はゆったりとした気持ちで体を休めた。

翌日。

すっきりとした気分で目覚めさっそく行動を開始する。

深い森の中を歩いていると、急に森が切れ、川に突き当たった。

(ふぅ…。これで少しは歩きやすくなるな)

と思いつつ、地図を見る。

大物の目撃が多い場所まではもう少し。

私はこのまま川を下っていけばいいだろうということを確認すると、川沿いを下流に向かって歩き始めた。

歩くことしばし。

日が暮れかけてきたところで野営にする。

おそらく明日には接敵するだろう。

なんとなくそんな予感がしていた。

「にゃぁ」(わかっておろうが、意外と近いぞ)

とチェルシーが教えてくれるのに、

「ああ。なんとなく感じていたところだ。ありがとう」

と答える。

「にゃ」(ふん。わかっておればよい)

と、いつものようにツンデレるチェルシーを微笑ましく思いながら、簡単なスープを作ってのんびりと食べた。

翌朝。

妙な気配で目が覚める。

(近いような遠いような…)

そんな感じを覚えてふと上を見ると、朝焼けの空を何か大きな鳥が飛んでいるのが見えた。

(あれは…)

と思ってその飛んでいるものをよく見てみる。

そして、

(ワイバーンか…)

とその正体に気が付いた。

「にゃぁ…」(朝から騒がしいのう…)

とチェルシーがなんだか寝ぼけたような声でそう言う。

私はそんな呑気な声に苦笑いを浮かべつつ、

「2人は…そうだな、あの木陰にでも隠れていてくれ」

と言い、川沿いの藪を指さす。

すると、チェルシーが、

「にゃぁ」

と鳴き、サクラの上に器用に飛び乗った。

「ぶるる」

と鳴いてサクラが私の指さした方へと向かっていく。

(おいおい。ほんとに言葉がわかってるんじゃないか?)

と、そのあまりの賢さに驚きつつも、

(まぁ、楽で助かるが…)

と苦笑いを浮かべて、さっそくワイバーンが飛んでいる方に向かって駆けだした。

少し走って、2人から十分距離が取れたところでまずは炎の矢を放つ。

ただの牽制なので、当たる必要はなかったが、偶然1匹の翼の辺りをかすめた。

「ギィィ!」

と鳴き声がして、そのワイバーンがこちらに突っ込んでくる。

私はそれを冷静に見定めて、また炎の矢を放った。

今度は上手くかわされてしまった。

遠慮なく爪を突き出して私に襲い掛かって来るワイバーンをギリギリのところで転げるようにして避ける。

そして、素早く起き上がると、再度私を襲おうと、上昇していくワイバーンに向かって再び炎の矢を放った。

「ギィィ!」

と鳴き声がしてワイバーンが落下する。

今度は体の中心に正確に当たったようだ。

地面につんのめるようにして落ちたワイバーンに駆け寄り剣を抜く。

バタバタとデタラメに振り回される翼を素早くかわし、首筋を一突きして、息の根を止めた。

「ふぅ…」

と息を吐く。

しかし、私はまだ気を緩めず、もう一度空を見上げた。

(3匹か。それなりだな)

と、思って立て続けに炎の矢を放つ。

すると、ワイバーンたちは怒り狂ったように、こちらめがけて突っ込んできた。

(相変わらず、単純な性格だな…)

と思いつつ、また冷静に魔法を放つ。

その魔法で1匹が落ちた。

残りの2匹が連続して爪で襲ってくるのをまた転がるようにしてギリギリでかわし、魔法を放つ。

また1匹が落ちた。

翼を貫いたようだ。

しかし、浅かったのだろう。

地上に落ちてなお、私を襲おうと、「ギャァギャァ」言いながらこちらに向かって来る。

私はそれを少し走ってかわし、すれ違いざまに剣でその脚を撫で斬った。

「ギィィ!」

と鳴いてワイバーンがつんのめる。

するとその直後、上空からすごい速度で爪が襲ってきた。

(おっと…)

と心の中で声を上げつつギリギリでかわしつつ剣を出す。

どうやら上手い具合にどこかに当たってくれたらしい。

また、ワイバーンが、

「ギィィ!」

と声を上げてドサリと地面に叩きつけられた。

2匹それぞれに向け、連続して炎の矢を放つ。

すると、それは2匹の体の真ん中を綺麗に射抜き、完全にその動きが止まった。

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