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第17話戦士オフィーリア01

ドワイトの店を出た後、例のお好み焼き屋で広島焼きっぽい物を食べ、ルネアの町の商店街を歩く。

「にゃぁ…」(美味かったが、もうひとつじゃったのう…)

とチェルシーが言っている通り、もうひと工夫欲しい味だった。

(やはりあのソースは偉大だな)

と妙な前世の記憶を思い出す。

しかしあの店主も、

「…あと一歩って所なんですがねぇ…」

と言っていから、きっとこの先、あの味に近い物を作ってくれることだろう。

と、なぜかそんな確信めいたことを思いつつ、暇つぶしを兼ねてギルドを覗いてみた。

まずはミノタウロスの魔石を換金する。

さすが、特異個体の物だけあって、かなり高く売れた。

3つで金貨150枚。

とりあえず金貨2枚と粒金貨を30枚ほどもらってあとはギルドの口座に預ける。

(この世界にもそろそろクレジットカードっぽい物が出来ても良さそうなもんだが…)

と、ギルドカードでいつでも現金が引き出せる意外と発達したこの世界の金融システムに、そんなことを思いながら、少し重たくなった財布を懐にしまってギルドを後にした。

「にゃぁ」(先ほど話に出ていたオフィーリアと言うのは我を食うとか食わんとか言っていたあのバカのことか?)

と言うチェルシーに、

「ああ。そうだな。でも、あいつはいいやつだぞ?ちょっとガサツで大飯食らいだが、さっぱりとした性格で好感が持てる」

とオフィーリアの人となりを説明してやる。

「にゃぁ」(まぁよい。今後は失礼のないようによく言って聞かせるのじゃぞ)

というチェルシーに苦笑いで、

「ああ。猫は可愛がるもんだと教えてやるよ」

と言うと、まずは適当な宿屋に入った。

部屋を取ると、さっそく旅に必要な物を買いそろえに市場に向かう。

買い物を済ませ、いったん部屋に戻ると、さっそくベッドの上で丸くなるチェルシーに風呂に行って来ると告げて、銭湯へと向かった。

ゆったりと風呂につかりながら、何となく昔のことを思い出す。

オフィーリアはさっきチェルシーに説明した通り、なんとも豪快な性格の持ち主だった。

よく食べ、良く飲む。

盾役としての能力はずば抜けていて、先日戦ったミノタウロスの一撃くらいなら余裕で止めてしまうほどの力を持っていた。

普段はガサツなくせにいざ戦闘となると、周りの状況を良く見て的確に動ける。

本当に戦士としては優秀なやつだ。

(さて、今はどうしていることやら)

と、懐かしい顔を思い出しながら、私はのんびり風呂を堪能し、宿に戻った。

「にゃぁ」(おい。飯の時間だぞ)

と開口一番言って来るチェルシーを連れて再び町に出る。

今日はなんとなくしっかり食べてかつ酒が飲みたい気分だった。

(さて、どうしたものか)

と思いつつ、町を歩いていると、1軒のハンバーグ屋を見つけた。

(お。いいな。ビールとハンバーグ。うん。ここだ)

と思ってさっそく扉を開ける。

「すまん。猫がいるんだがいいか?」

「ええ。どうぞ」

といういつもの会話を交わしてさっそく席に着くと、

「とりあえずビールをくれ」

と言ってからさっそく品書きを見た。

(おろしハンバーグも捨てがたいが、今日はしっかり食べたい気分だ。よし。このデミグラスハンバーグにしよう。チーズ乗せにしたらチェルシーが喜ぶな)

と思って、さっそくやって来たビールを受け取りつつ、デミグラスハンバーグ、チーズ乗せを注文する。

そして、まずはビールをひと口やると、冒険の疲れが一気に抜けていくような気がした。

(ああ、私はこの1杯のために生きてるのかもしれん…)

とアホなことを思いつつ、チェルシーと一緒にハンバーグの到着を待つ。

やがてやって来たハンバーグは、たっぷりのとろとろチーズが乗った素晴らしい見た目の逸品だった。

チェルシーと一緒にはふはふしながら食べ、ビールを飲む。

そして、調子の出てきた私は、追加でカリカリにあげられたフライドポテトを頼むとまたそれをつまみながら、思う存分ビールを飲んだ。

翌朝。

少し重たい頭を抱えて起きる。

(いかん。調子に乗り過ぎた)

と思いつつ、荷物を持って宿を出ると、市場で軽く朝食を済ませてさっそくルネアの町を出た。

オフィーリアが拠点を置いているトルネ村までは3日ほどとのこと。

(美味い具合にいてくれればいいが)

と思いつつ、いつものようにのんびりと街道を歩く。

春の陽気に照らされて美しく輝く牧歌的な風景の中、私とチェルシーは旅を楽しむようにトルネ村を目指した。

いくつかの宿場町を挟み、歩くこと4日目。

ようやくトルネ村の入り口に着く。

門のところにいた門番という名のお茶を飲みながら世間話をしているご老人方にオフィーリアのことを聞くと、

「ああ、オフィーリアの姉さんならたぶん今頃どっかの畑でさぁ」

と言って、家は歩いてすぐだからと言って地面に簡単な地図を書きながら何となくの場所と家の外観の特徴を教えてくれた。

(のんきなもんだなぁ…)

と思いつつ、その穏やかさになんとも言えず癒されてまずは宿を目指す。

そして、問題無く部屋をとると、さっそくオフィーリアの家へと向かった。

やがて門で聞いた通りに進むと、これまた聞いた通りの赤い三角屋根が見えてくる。

(ほう。意外とこじんまりした家だな)

と思いつつ、玄関の扉を叩くと、やはり返事は無かった。

(さて、どこかの畑だと言っていたから、おそらく夕方には帰ってくるだろうが…)

と少し思案する。

「にゃ」(留守か?)

と退屈そうに聞いてくるチェルシーに、

「ああ。そうみたいだな。…暇つぶしに散歩でもするか」

と提案して、私は試しにオフィーリアを探してみることにした。

「にゃぁ」(ああ、好きにせい)

と言って抱っこ紐の中で丸くなったチェルシーを苦笑いで撫でてから、ぼちぼちと歩き始める。

トルネ村には時々ポツンと集落が見える以外何も無く、どこまでも田畑と牧草地らしき草原が広がっていた。

時折なにやら作業をしている村人に訊ねながらなんとなくオフィーリアを探す。

すると、

「ああ、オフィーリアさんなら今日は新ジャガ堀りを手伝ってくださっとるって聞きやした」

という有力情報を得たので、さっそくその場所を聞いて向かってみた。

そのジャガイモ畑に着くと、オフィーリアはすぐに見つかった。

小さい体ながら、新ジャガが入っているであろう箱を何個も同時に抱えて器用に荷馬車に積み込んでいる。

(相変わらずの力持ちっぷりだな)

と感心してしばらくその様子を眺めていると、どうやらあちらも私に気が付いたようで、いかにも、「もしかして?」という感じで首をひねりながらこちらに近づいてきた。

「よぉ。オフィーリア。久しぶりだな」

と、やや大きな声で呼びかける。

すると、

「なっ。もしかしてジークか?おいおい、どうしたってんだい」

と言いながらオフィーリアが小走りでこちらにやって来た。

「いやぁ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

と、元気なのはわかりつつ一応社交辞令でそう聞くと、オフィーリアが、

「ああ。相変わらずさ。そっちも元気そうだね」

と答えて握手を交わす。

「で。いったいどうしたんだい?」

と聞いてくるオフィーリアになんとなくの事情を説明した。

「はっはっは。ドワイトのおっさんも元気そうだね」

と私が妙に切れる包丁を買ってしまったものだから、それに合うまな板をミノタウロスの角で作ってもらっているというと、オフィーリアが爆笑しながら、私の肩を叩く。

「いてて…。おいおい。痛いぞ」

と私も笑いながらそう言うと、

「はっはっは。ごめん、ごめん。あまりにもおかしくてさ」

とオフィーリアは涙を拭くような仕草をしながら、腹を抑えて笑い続けた。

ややあってその笑いが落ち着くと、

「ってことは、しばらくのんびりできるってことかい?」

と聞いてくるオフィーリアに、

「ああ。特に急ぎの用事はないな。なんならもう一度ダンジョンにでも行こうかと思っていたくらいだ」

と答える。

すると、オフィーリアは一瞬にして目を輝かせ、

「お。いいね!どうだい久しぶりに?」

と聞いてきた。

私が、

「ん?私は構わんが、そっちはいいのか?」

と聞くと、オフィーリアは

「ああ。冬も越したしそろそろまた冒険にでも行こうかと思ってたところだからね。ちょうど良かったよ」

と嬉しそうな顔でニカッと笑う。

私はその顔を見て、

(ははは。こいつも根っからの冒険者だな)

と、なんとも微笑ましいことだと思いながら、

「じゃぁ、決まりだな」

と言って、もう一度右手を差し出した。

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