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第6話実家01

ちょっとしたダンジョンでのちょっとした冒険が終わると、さっそく町を出て街道を進む。

ここから実家のあるエルフの国、エリシア王国までは急げば20日くらいだろうか。

だが、特に急ぐ理由の無い私たちは途中軽くダンジョンに入ったりしながら、のんびりと進むことにした。

「うわぁ、猫ちゃんだ!」

と、たまたまのった駅馬車の中で小さな子供がチェルシーを見てはしゃぎ声を上げる。

「ねぇねぇ。この猫ちゃんおじちゃんちの子?」

という子供に、

「ああ、うちの子だ」

と答えると、

「んにゃぁ!」(我がいつからお主の子になった!)

とチェルシーが抗議の声を上げた。

「あはは。元気だね!」

と言って、子供が笑う。

「そうだな。元気過ぎて困るくらい元気だ」

と私も笑いながらチェルシーの抗議を無視してそう答えた。

そんな平和な光景を挟みながら旅は進む。

やがて小さなダンジョンがある村に着くと、そこでまたお小遣い稼ぎの狩りに入った。

「にゃぁ…」(小物ばっかりじゃったのう…)

と、結局金貨5枚くらいにしかならなかった稼ぎにチェルシーが文句をつけてくる。

私は、

「はっはっは。いい気分転換になったからいいじゃないか」

とその文句を軽くいなしてまた、私たちは旅に戻った。

そんな日々を繰り返すと事2か月。

ようやく国境の門をくぐる。

「にゃぁ…」(着いたのか?)

「ん?ここからあと3日くらいだ」

「にぃ…」(遠いのう…)

「ああ。まぁそう言うな。ここからは馬車があるからな。それでもけっこう早くつくほうだぞ?」

「んなぁ」(やはりお主には馬が必要じゃな)

「うーん…。そろそろ考えんといかんか…」

というような会話を交わし、私たちはさっそく実家のある王都方面へと向かう駅馬車に乗り込んだ。

馬車に揺られ宿場町で乗り継ぐこと3日。

やっと実家のある王都の門をくぐる。

「懐かしいなぁ」

と感慨にふけりながら町の様子を見ていると、

「みゃぁ!」(とりあえず飯にしろ!)

とチェルシーが食事を要求してきた。

「ああ。そうだな。この辺りだと美味いパスタ屋があるがどうだ?」

と聞いてみる。

「んなぁ?」(ナポリタンはあるか?)

と聞き返してくるチェルシーに、

「ああ。確かあったと思うぞ」

と答えると、

「にぃ!」(よし。決まりじゃ!)とチェルシーが嬉しそうな声を上げて、私たちはさっそくそのパスタ屋に向かった。

大盛りのナポリタンを頼み分け合って食べる。

「んみゃぁ!」(やっぱりケチャップは最高じゃの!)

と美味しそうに食べるチェルシーを見ていると、こっちまで嬉しくなって、ただのナポリタンが妙に美味く感じられた。

2人とも満腹で店を出る。

「にゃぁ」(なかなか良い町ではないか)

とご満悦のチェルシーに、

「ああ。なにせ俺の故郷だからな」

と訳の分からないドヤ顔を返しながら、懐かしい道を進み、住宅街に囲まれた小さな商店街へと入っていった。

1件の荒物屋、懐かしの実家の前で足を止める。

外観は何も変わっていない。

鍋釜から竹ぼうきまでいろんなものが並ぶ店先をしみじみと見つめていると、

「お兄ちゃん?」

と後ろから声を掛けられた。

「おお。セレナか」

と言いながら懐かしい声に振り返る。

おそらく買い物にでも行っていたのだろう。

手に下げた買い物かごからネギが1束飛び出ている。

びっくりして、言葉が出ない様子の妹、セレナに向かって、

「ただいま」

と声を掛けると、セレナはようやく我に返った様子で、あの頃と変わらない優しく微笑みで、

「おかえりなさい」

と言ってくれた。

「さぁ、あがって。今お茶淹れるわね。ああ、お父さんとお母さんも呼んでこなくっちゃ。…あ。ミリアさん、ルイード兄さん。ジーク兄さんが帰って来たわよ!」

と慌てて店の奥に声を掛けながら入っていくセレナの後姿を微笑ましく思いながら、その後ろをついて行く。

そして、店の奥のカウンターの中にある扉をくぐり、

「ただいま」

と声を掛けた。

やがて、兄のルイードと兄嫁のミリアがやって来る。

続いて、その後ろから父のエミリオと母のアリシアがやって来た。

「まぁまぁ、おかえりなさい」

と言って、私の体をぺたぺたと触って来る母に、笑顔で、

「ただいま。母さん」

と返しながら、

「ただいま」

と父さんに声を掛ける。

「ああ。おかえり」

といって微笑む父の横から、

「ずいぶん久しぶりだな」

と兄が声を掛けてきた。

「すまん。いろいろあってな。ああ、ミリアさんも久しぶりですね」

と兄の横にいた兄嫁にも声を掛ける。

「ええ。お久しぶりですね。そうそう。あとでうちの子達にも会ってやってくださいね」

と言われて、一瞬、きょとんとしてしまった。

「はっはっは。お前が出て行って2年くらい経ったころ生まれてな。なんと双子だぞ」

と嬉しそうにいう兄に、

「おお。そいつはめでたい。知っていればおもちゃのひとつでも買ってきたんだが」

と笑顔で返す。

「いや、気にせんでくれ。それより、あがってくれ。今セレナがお茶を淹れているからな」

という兄の招きでさっそく懐かしの我が家へと入っていった。

居間に着き、

「ああ。そうだ」

と言って、胸元の抱っこ紐からチェルシーを出す。

「にゃぁ」(チェルシーである)

と鷹揚に挨拶をするチェルシーに苦笑いを浮かべながら、

「訳あって一緒に旅をしているケットシーのチェルシーだ。賢いやつだから迷惑はかけんと思うがよろしく頼む」

と言ってみんなにチェルシーを紹介した。

「ほう。ケットシーとは珍しいな…」

「ええ。とっても可愛らしいわね」

と両親は感心し、兄は、

「ああ。お前は昔から猫が好きだったからな」

と懐かしそうな顔になる。

私はそんな兄たちに向かって、やや照れながら、

「ああ、なんというか、魔王討伐の帰りにたまたま拾ってな…。当分の間面倒を見ることになった」

と適当に説明をした。

「そうか。まぁ、ラッキーキャットがいて喜ばない人間はいないからな」

と、どうにも父親譲りで細かいことを気にしないおっとりとした性格の兄らしい言葉に安堵しつつ、

「お待たせ。お茶持って来たわよ」

と言ってセレナが持ってきてくれたお茶でさっそく一服させてもらった。

セレナにもチェルシーを紹介し、

「あらあら。まぁまぁ」

と言って目を細め、さっそくチェルシーの可愛さの虜になっているらしいセレナを微笑ましい目で眺める。

すると、兄が何かを思い出したような表情で、

「今日はすき焼きだな。ああ、肉はあったか?」

とセレナに聞いた。

「あら。今日はチャーハンの予定だったらからお肉はないわね。急いで買ってくるわ」

と言って再び買い物に出掛けようとするセレナに、

「ああ。私が行ってこよう。店のこともあるだろう」

と言って、腰を上げる。

「あら。そう?悪いわね」

と軽く謝って来るセレナに、

「なに。近所に挨拶もしたいしな。じゃぁ、ちょっと出てくるから、チェルシーのことを頼む。ああ、飯はさっき食わせたから、心配ないぞ」

と言って、私はさっそく肉屋を目指して先ほど入ってきたばかりの実家を出ていった。

懐かしい商店街を歩く。

八百屋に漬物屋、干物屋に服屋。

そんな庶民的な店が並ぶ商店街をぶらぶらと歩きながら、顔見知りと会うたびに会話を交わし、たっぷりと時間をかけて肉屋の扉をくぐった。

「おっちゃん。生きてるか?」

とやや失礼な言葉を掛ける。

すると、店の奥から、

「あん?誰だ?」

というダミ声が聞こえて肉屋のおっちゃんが出てきた。

「よぉ。久しぶりだな」

とにこやかに声を掛ける。

すると、おっちゃんは少し驚いたような顔をして、

「おいおい。荒物屋のジーク坊じゃねぇか」

と、懐かしい返事をしてきた。

「元気だったか?」

と一応聞いてみる。

「はっ。見ての通りさ」

と答えるおっちゃんに、

「はっはっは。そりゃ違いない。ああ、という訳で今日はすき焼きだから、一番良い肉を頼む」

と注文を出すと、

「けっ。お前んちは相変わらずだな。なにかっていやぁ、すぐにすき焼きばかりやりやがる」

とおっちゃんは笑顔で悪態を吐きながら、店の奥へと戻っていった。

ややあって、

「おう。けっこういい肉にしといたぜ」

と言って肉を渡してくるおっちゃんに、粒金貨を2枚渡し、

「けっ。あの小僧もずいぶん豪儀になったじゃねぇか。ちょいとまってな」

と言うと、おっちゃんが店先に並べてあったメンチカツをいくつか、

「おまけだ」

といって包んでくれた。

「ありがとよ」

と遠慮なく受け取って店を後にする。

(相変わらずはお互い様だろ)

と、あの頃から変わらない懐かしいやり取りを微笑ましく思いながら、私はまたのんびりと商店街を歩き、実家に戻っていった。

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