~~ジル視点~~
ユナにお茶を任せてまずはどっかりと腰を下ろす。
今回、より早く、強く、深く、と意識して浄化を行ったが、かなり疲れた。
かなりの魔力を一気に持って行かれたのが原因だろう。
(想像以上に疲れたわね…)
という感想を抱きつつも、
(もう一度基礎からやり直してみましょう。きっともっと効率的な魔法の使い方があると思うのよね…。それこそ、いったん気を練って一気に放出する、あのやり方みたいな感じで出来れば…)
と、そんなことを考える。
みんなもそれぞれに思うところがあったようだ。
アイカもベルも、なにやら考え込んでいた。
そこへユナが、
「お茶を飲みながら気が付いた点を話してみましょう」
と言って全員にお茶を配ってくれる。
「ありがとう。そうね」
と言ってお茶を受け取り、ひと口飲むと、まずは私が、
「例の早く浄化を終わらせるっていうのができないかと思って試してみたの。…結果はご覧の通りね。少しは早く浄化出来たけど、このありさま。浄化が終わったら即みんなの手伝いに入るつもりだったんだけど、体が動かなかったわ…」
と反省を述べた。
次にユナが、
「私はやっぱり魔法ね。矢に魔力を乗せるのは武器のおかげでずいぶん上手にできるようになったけど、まだまだ魔力を絞るのが苦手だし、あの象の魔物には矢が通らなかったわ…。まぁ、的が大きかったからなんとか急所を狙えたけど…。もっと硬かったり、小さかったり、数が多かったりしたら…」
と少し落ち込みながら答える。
すると、ベルも同様に、
「もっと鋭くしないと…」
とつぶやき、アイカも、
「魔力の練りが全然だったよ…」
としょんぼりしながらそれぞれに思っていることを口にした。
みんなが静かにお茶を飲み、しばしの沈黙が流れる。
その場を重たい空気が支配した。
しかし、アイカの明るい声がその空気を一掃する。
「ねぇ。とりあえずご飯にしない?それから剥ぎ取りをして今日はここで野営にしようよ。ほら、明日からも仕事は残ってるんだし、今日はちょっと休憩って感じでさ」
というアイカの笑顔に、私たちはハッとして顔を上げた。
アイカがわざとらしくニカッと笑う。
その笑顔に私たちも苦笑いを浮かべて、まだ少し重たい腰を上げた。
私はとりあえず、みんなに向かって、
「何が食べたい?」
と笑顔で聞く。
すると、ベルが、
「私、お米がいいわ」
と答えた。
その答えを聞いて、ユナが、
「じゃぁ、あのチーズリゾットかしら。ねぇ、ジル。私、挑戦してみたいから教えてくれる?」
と言うので、私は当然のように、
「もちろん」
と答えて微笑む。
そんなやり取りを聞いてアイカが、
「やったね。あれ美味しかったからまた食べたいと思ってたんだ」
と嬉しそうな顔を浮かべた。
そんないつもの気軽な言葉を交わして、私たちはさっそく食事と野営の準備に取り掛かる。
いつの間にか、私たちの表情には明るさが戻っていた。
ユナ作のちょっとしょっぱくなったチーズリゾットをみんなでワイワイと言いながら食べ、さっそく解体作業を始める。
解体作業は予想通り難航し、魔石を取り出し、皮をある程度剥がした所で、西の空が赤く染まり始めた。
「残念だけど、あとはギルド任せね」
「そうだね。明日からの予定もあるし、この辺が潮時でしょうね」
と言って、私とユナは夕食の準備に取り掛かる。
アイカとベルは夕食が出来るまでもう少しだけ作業を続けてくれるようだ。
私たちはそんな2人にたくさん食べてもらおうと思い、肉と野菜を煮、お米を炊いた。
やがて、日が沈む間際。
「おーい。そろそろご飯にしましょう」
と声を掛けてアイカとベルを呼び戻す。
アイカが一番に駆け寄って来る。
「もう、この匂いたまらないよ」
と言って今にもがっつきそうなアイカの態度に苦笑いを浮かべながら、
「まずはお洗濯しましょう」
と言って、ベルが戻って来るのを待って、軽く浄化の魔法をかける。
辺りの魔素の流れは整っているものの、私たちの周りがまた薄ぼんやりとした青白い光に包まれて、みんなの体から魔物の血が綺麗に無くなった。
「あはは。相変わらず便利だね」
とアイカが笑う。
私も、
「これが聖なる魔法の加護の力ってやつよ」
と冗談を返して、さっそくみんなのお皿を取り出し、炊きたてのお米を盛ると、
「アイカの分はちょっと多めにしておいたからね」
と言って、先ほどからたまらない匂いを周囲に漂わせているカレーをかけてあげた。
「「「「いただきます!」」」」
と声をそろえてさっそく食べ始める。
アイカはさっそくガツガツとカレーをかき込み、私も、ユナもベルもいつもより大きなひと口でカレーを頬張った。
食後、
「外で食べるカレーってなんでこんなに美味しいんだろうね」
と、しみじみつぶやくアイカに、
「きっと特別感があるからじゃないかしら」
と答えつつゆっくりとお茶を飲む。
「そっか。特別な所で食べる物ってなんでも美味しいもんね。ほら、屋台の焼きそばとかさ」
と納得した様子のアイカをみんなで微笑ましく思いながら、ゆっくりとした時間を過ごした。
やがてみんなのお腹が落ち着いた頃、
「さて、明日からの予定を立てなくちゃね」
と、ユナが言ってさっそく地図を取り出す。
「今いるのが、この辺りだから、例の薬草がありそうな場所までは…、そうね、1日あればつけるかしら」
と言うユナの意見に私がうなずき、
「採取自体はものの数時間もあれば終わるけど、探すのはけっこう苦労しそう。できるだけ粘りたいけど、3日が限度ってところかしら」
と、なんとなくの予想を立てた。
「上手く見つけられればいいけど…」
とベルが心配そうな顔を浮かべる。
「うふふ。きっと大丈夫よ。ねぇ、ジル。その薬草の特徴、私たちにもう一度しっかりと教えて」
とユナが言い、私は喜んでちょっとした植物学の講義を始めた。
翌朝。
魔石は取り出したものの、解体はまだ終わっていない象の魔物を残念ながら放置して、夜明けとともに出発する。
目的の場所は現在地から南西に向かった辺り。
行とは違う道を通るが、村の方向へ少し戻る感じだろうか。
私たちは地図を見つつ、慎重に地形を読みながら、目的の場所を目指した。
進むこと1日。
目的地付近に到着する。
目的の場所は地図の通りなだらかな丘になっていて、日中は陽当たりの良さそうな斜面がゆったりと広がっている。
私はその全体が見渡せそうな場所に適当な草地を見つけると、
「今日はこの辺で野営かな?」
と言って足を止めた。
さっそくみんなで野営の準備をして、簡単に食事を済ませる。
食後、ゆっくりとお茶を飲みながら、
「早く届けてあげたいね」
「ええ。帰りは急がなくっちゃ」
「うふふ。今回の打ち上げは王都で派手にいきましょう」
「うん。みんな、よろしくね」
という会話を交わし、その日は少し早めに交代で体を休めた。
翌朝。
目的の場所を見ると、なだらかな丘に朝日が当たり、キラキラと朝露を輝かせている。
私はその光景になんとなく希望を感じ、
「さて、行こうか」
とみんなに声を掛けると、さっそくその場所に向かって歩を進めた。
なだらかな斜面を生えている植物に注意しながらみんなで歩く。
しばらく歩き、
「ねぇ、ジル。これかな?」
というアイカの声がした。
近寄って確認すると、それは例の紛らわしい方のやつで、
「いや、これじゃないわ。その草と良く似た草で、もう少し産毛が濃いやつがあるからそれを見つけてみて」
と指示を出す。
私は、その場に生えていた、紛らわしい方の草をいくつか摘むと、ユナとベルにも渡して、
「これと良く似ているけど、もう少し産毛が濃いの。それを見つけてね」
とお願いして、自分でも草地を丹念に探した。
時折小休止をとり、午後。
「ねぇ、ジル。これかしら?」
というベルの声が聞こえたので、急いで駆けつける。
するとそこには紛れもなく、今回の目的であるクルト草の群落があった。
「これよ!ベル、ありがとう!」
と言って思わずベルに抱き着く。
すると、ベルは、かなり慌てて、
「ちょ、じ、ジル!?」
と焦ったような声を上げた。
「あ、ごめん。興奮しちゃってつい…」
と私も照れる。
そして、
「「ふふふっ」」
と笑い合うと、さっそくアイカとユナも呼んで、根本から慎重にクルト草を採取していった。
やがて、麻袋いっぱいになったところで、
「これ以上は取り過ぎになっちゃうからこの辺りで止めておきましょう」
とみんなに声を掛け、休憩に入る。
「まずはひとつ目標達成ね」
と嬉しそうに声を掛けて来てくれるユナに、
「ありがとう。明日はここからちょっと移動して丘の上にある林の中になると思うから今日はそっちに移動して野営ね」
とお礼を言い、アイカとベルも、
「アイカもベルも、ありがとう」
と声を掛けた。
「あはは。なんだか照れるね。よし、明日も頑張っちゃうよ!」
と照れ隠しにわざと明るく振舞うアイカの姿にみんなして微笑む。
そして、休憩のお茶を飲み終えると、私たちは次の目標に向かって移動を開始した。
翌日。
昨日とは違い、今度は上や遠くを見ながらカラコルの実を探す。
するとさっそく私が、紛らわしい方の実を発見した。
「みんな。ちょっといい?」
と言ってみんなを呼び、
「この実は紛らわしい方ね。これよりも色が濃くてひと回り小さいやつが今回探してるカラコルの実よ」
と説明をする。
「「「了解」」」
と言ってまた散っていくみんなの背中を見て、私は頼もしさを感じ、自分もさっそくカラコルの実を探して、動き始めた。
みんなでわき目も振らず探し続ける。
しかし、カラコルの実はなかなか見つからず、そろそろ日が西に傾き始めてきた頃。
(今日はそろそろ引き上げる時間かしら…)
と私が思っていると、
「ジル!」
と言ってアイカがこちらに駆け寄ってきた。
「ねぇ、これってそう?」
と言ってアイカが見せてくれた実は、間違いなくカラコルの実だった。
「これよ!」
と言ってさっそくナイフで中の種を確認する。
すると、紛らわしい種類の実とは違って、オレンジ色の実の中に、やや白っぽい色の種が5、6個ほど入っているのが見えた。
「ありがとう!どっち?」
と聞いてさっそくそちらに向かう。
するとおそらく私とアイカの声を聞きつけたんだろう、ユナとベルもすぐに私たちの所へやって来て、
「よかったね」
と声を掛けてくれた。
「ありがとう。さっそく取りましょう」
と言ってさっそく私とユナとベルは手の届く範囲の実を取る。
そして、アイカは木に登って少し高い所にある実をたくさん落としてくれた。
麻袋2つ分ほどの実を採り、
「これくらいあれば十分よ」
と声を掛けて暗くなった林の中を急いで戻る。
やがて辺りが暗くなり始めた頃。
私たちは林の入り口まで辿り着き、そこで、
「やったね!」
と声を掛け合って、みんなでハイタッチを交わした。