教会本部を出て、とりあえずみんなで下町を目指して歩く。
「いやぁ、緊張したね」
「ええ」
「なんか、お腹が空いてきちゃったよ」
「ふふ。そうね」
「私がっつり系がいい!」
「まったく、アイカったら…。でも、そうね。私もなんだがっつり行きたい気分だわ」
そんなアイカとユナの会話にベルも、
「いいわね。私お米が食べたいわ」
と賛同して、私たちはとりあえず下町の職人街を目指すことにした。
下町の職人街に着くと、さっそく表通りから路地へと入る。
この辺りの路地には職人御用達の、がっつり食べられる店が多い。
そんな職人街の路地を適当に歩きながら、良さそうな店を探して歩いた。
「あ、カレーがあるよ」
「あら、あっちの日替わりはハンバーグ定食ですって」
「丼物も捨てがたいわね」
と話しながら歩く3人の話を聞きながら、私はみんなのお腹を平等に満たしてくれる最適解はなんだろうかと考える。
そして、ふと、この先にちょうどいい感じのお店があるのを思い出し、
「ねぇ。この先にラーメン屋さんがあるんだけど、そこはどう?たしかラーメン以外の定食も充実してたわよ」
と提案してみた。
「いいね!」
とアイカが真っ先に賛成し、
「ええ。今の気分にぴったりだわ」
とユナも微笑む。
ベルもうなずきながら、
「チャーハンもいいわね」
と言ってくれたので、私たちはさっそくその店を目指した。
しばらく歩き、さっそくその店の暖簾をくぐる。
「らっしゃい!」
という威勢のいい声に導かれて適当な席に腰を下ろした。
私は自分のお腹の具合を探りながら、
(ラーメンだけってのもなぁ…)
と考えて壁に貼ってある品書きを眺める。
私の横からも、
「あー。ラーメンもいいし丼物もあるなぁ。どうしよう」
「私は定食ね、どれがいいかしら」
「チャーハンにも種類があるのね」
という声が聞こえてくるから、みんな同じように考えているのだろう。
みんなして、しばらく壁の品書きを見つめたあと、まずはアイカが、
「よし。決めた」
と言ってみんなの方へ視線を送った。
みんなもうなずく。
その視線を確認してアイカは、手近なところにいた店員を呼んだ。
「へい。ただいま」
と言って注文を書く紙を手にやって来た店員に、
「えっと、私が餃子定食とカツ丼ね」
「私は肉卵炒め定食」
「私は肉餡掛けチャーハンをお願いするわ」
「じゃぁ、私はラーメンと半チャーハン」
とそれぞれが注文を出す。
そして、
「かしこまりやした」
と言って下がっていく店員を見送りながら、
「見事にばらけたわね」
「ふふ。定食と丼を同時に頼む人なんて初めて見たわ」
「そう?普通よ?」
「あはは。アイカは相変わらずよく食べるよね」
というやり取りを交わしみんなで笑い合った。
注文の品が届くまでの間、私は改めてみんなに、
「ありがとうね。私に合わせてくれて」
と先ほど、みんながチト村に拠点を移してもいいと言ってくれたことの礼を言う。
「もう、ジルったら」
とユナが苦笑いで、答え、アイカとベルも、
「そうそう。そう言うのは無しだよ」
「ええ。水臭いわ」
と笑ってくれた。
そんなみんなの気持ちに改めて嬉しさが込み上げてくる。
私はそんな自分の気持ちに少し照れてしまって、
「うん…。そうだね」
と言ってはにかんだ。
「あはは。ジルって意外と照れ屋だよね」
「うふふ。そうね。意外とね」
「ふふっ。素直になれないお年頃なのかしら?」
とみんなが笑う。
私は、それに、
「もう…。なによ、それ」
と笑いながら抗議した。
そんな私に、アイカが、
「ねぇねぇ、チト村ってどんなとこ?」
と聞いてきたので、私は、
「うーん…。普通の田舎の村って感じだけど、人が温かくて良い所よ」
とものすごく簡単にチト村のことを説明する。
そこからは私の普段の暮らしの話になったり、ユリカちゃんやアンナさんの話をしたりして、チト村の生活がいかに私にとって重要かということを何となく話した。
話を聞き終えたベルが、
「いい拠点になりそうね」
と言って、私に微笑む。
アイカとユナも、
「うん。のんびりできそう」
「ええ。素敵な拠点になりそう」
と言って、微笑んでくれた。
私もそんなみんなの笑顔が嬉しくて微笑みを返す。
するとそこへ、店員が料理を持ってやって来て、
「あいよ。お待たせしやした。まず、ラーメンと半チャーハンっすね。ほかもすぐに持ってきやす」
と言うと次々に料理を運んできてすぐに全員の分がそろった。
「「「「いただきます」」」」
と全員の声がそろう。
私はまずラーメンに手を付けた。
ズズッとすするとすっきりとした醤油と鶏ガラの味が口いっぱいに広がって、なぜか懐かしさを覚える。
私はたまらずもう一口すすって今度はチャーハンに手を付けた。
(パラっとしてて美味しいわね)
と、こちらも大満足で頬張る。
すると、私の正面に座っていたアイカが、
「やっぱり餃子には白いご飯だよね!」
と美味しそうにお米を頬張りながらそう言った。
ユナも、
「この肉卵炒めふわふわで美味しいわ」
と言って微笑みながらご飯を口に運んでいる。
ベルも、
「お肉たっぷりだし、この餡がしみたところがたまらないわ」
と嬉しそうだ。
そんなみんなに、私は、
「美味しいね」
と笑顔で声を掛けた。
「うん!」
と明るい返事がアイカから帰ってくる。
ユナとベルも、それぞれに、
「ええ。美味しいわ」
「そうね。良い感じね」
と答えて食事は楽しく進んでいった。
やがて満足のうちに全員がお腹をさすりながら店を出る。
それぞれが「美味しかった」と満足の言葉を発していると、ベルが、
「ねぇ、ギルドに行かない?」
と声を掛けてきた。
私が、
(なんでギルドなんだろう?)
と思いながら、
「いいけど…」
と言うとベルは、
「せっかく新しい武器をもらったんだから、試してみたくない?」
と、いかにも冒険者らしい言葉を言っていたずらっぽく微笑む。
すると真っ先にアイカが、
「いいね!」
と言って賛成した。
ユナも、
「ええ。とっても素敵な提案だわ」
と答えて、私に視線を向けてくる。
私はその視線に軽く苦笑いを浮かべ、
「じゃぁ軽く冒険に出掛けましょうか」
とわざとらしく肩をすくめてそう答えた。
さっそくみんな揃ってギルドへ向かう。
おそらくこの時間でも常設に近いような薬草採取や小物退治の依頼は残っているはずだ。
今回は軽くでいい。
私たちはみんなでそんな話をしながらギルドの扉をくぐった。
さっそく依頼が張り出してある掲示板を見る。
予想通り、薬草採取と小物の依頼しか残っていないように見えた。
それでも一つずつ丹念に依頼を見て気になるものがないか探す。
すると、王都から2日ほどの所にある、キト村という所からオオトカゲ退治の依頼が出されていた。
「うわぁ…トカゲかぁ」
とアイカが嫌そうな顔をする。
他のみんなもそれぞれに顔をしかめているから、よほどあの血液が苦手なんだろう。
そんなみんなに私は、
「安心して、お洗濯と塗り薬は必要ないわ」
と冗談っぽく胸を張ってそう答えた。
「あ、そうか。そうだよね。ジルの魔法ならあれを気にしなくていいんだった」
「ええ。それなら何とでもなるわ」
「そうね。近接だとやりにくい相手だけど、あれがあるなら安心して切り込んで行けるわ」
とみんなが明るい顔になる。
そんな表情を見て、私は、
「じゃぁ、決まりね」
と言うと、その依頼票を壁から剥がして受付へと向かった。
「ねぇ、この依頼ってどんな状況なの?」
と念のために、この村の状況を聞いてみる。
すると、受付のお姉さんは、
「ああ、それなら最近、定期的に出されてるやつですね。近頃キト村の近くになぜかトカゲが出るようになったみたいですね。まぁ、森の奥の方なんで目立った被害はないみたいですけど」
と、ややのんびりとそう答えた。
(いやいや。そういう小さな変化を見落として後から大変なことになったらどうするのよ!?)
と内心思いつつ、
「そう。じゃぁ、適当に狩って来るわね」
と軽く答えてみんなの所に戻る。
そして、
「どうだった?」
と聞いてくるみんなに向かって、
「もしかしたら、ちょっとだけ厄介になるかも」
と告げた。
私はみんなに向かって小さな異常があることを話す。
こういう小さな変化を見逃すと大変なことになりかねないということも説明した。
すると、みんなの顔つきが変わり、
「じゃぁ、急いで行かないとね」
というユナの言葉にみんながうなずく。
私はそのことを心強く思い、感謝しながらも、
「今日は各々準備を整えて明日の朝早く出発しましょう。集合は馬房でいい?」
と簡単に明日からの行動予定を提案してみた。
みんなから了解の返事が返って来る。
事態は思っていたほど軽いものじゃなかった。
しかし、その一方でみんなの顔にはどことなく楽しそうな表情が浮かんでいる。
おそらく、私同様、またみんなで新しい冒険に出掛けられることへの期待が大きいのだろう。
私も嬉しさを隠さず笑顔で、
「じゃぁ、明日からまたよろしくね」
と声を掛け、みんなと一緒にギルドを出て行った。