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第69話実家へ01

オークとの一戦のあと、ベッツ村に帰って来た日の翌日。

ほんの少し寝不足気味で、しかし、なんとも清々しい気持ちで目覚める。

みんなと交わす朝の挨拶もどこか昨日までとは違って感じた。

そんな自分の心の変化をどこか嬉しく、気恥ずかしく思いながら、村長に見送られてベッツ村を発つ。

そして、私たちは私の実家クルツの町を目指して南に進路を取った。


道中、冒険が終わった気楽さもあって、楽しく進む。

世間話をしながら、進む中で、

「ねぇねぇ。ジルってどんな子供だったの?」

と、アイカが聞いてきた。

私はその質問に少し戸惑いながらも、

「どうって…。普通よ?学問所に行くようになってからは、勉強をして、その後、薙刀の稽古をして、夜はお店のお手伝い。そんな感じかな?」

とありのままを答える。

すると、それを聞いたアイカが、

「え?」

と驚いたような顔をした。

私はなんで驚いたのかわからなくて、逆に、

「ん?」

と問い返す。

私とアイカとの間に不思議な間が生まれ、ユナが、

「ぷっ」

と小さく噴き出した。

その後、ユナは、

「あはは。ごめんなさい。なんだか2人の温度差が面白くって…」

と言ってまた笑う。

その笑いに釣られてアイカも笑い出し、

「ジルって子供の頃から真面目だったんだね」

と言って微笑んだ。

私はそんな2人に、

「えー…」

と一応抗議する。

どうやら私は、自分では普通のことだと思っていたが、他人から見ればずいぶんとまじめな子供時代を送っていたらしい。

そのことに気付かされて私はなんだか恥ずかしいような気持ちになってしまった。


「そう言う2人はどんな子供だったのよ?」

と私はアイカとユナに仕返しのつもりで逆に質問する。

しかし、アイカもユナも平然としたもので、

「私は勉強もお手伝いもそっちのけで遊んでたかな?特に上の兄貴たちと遊ぶことが多かったから、やんちゃなものだったと思うよ。良く冒険者ごっことかしてたし」

と、アイカが答え、

「あら。私はちゃんとお手伝いもしてたわよ。でも、たしかにやんちゃだったかしら?小さい頃からおままごとよりもかけっこの方が好きだったから。よくお友達と近所の空き地を走り回ってたわ」

とユナもどこか懐かしそうな目でそう答えた。


私はなんだか一本取られたような気がして、次にベルに話を向ける。

すると、ベルは苦笑いで、

「私はジルと似た感じかもしれないわね」

と答えた。

「へぇ。なんとなく小さい頃から真面目だったんだろうなとは思ってたけど、どんな感じだったの?」

とさらに突っ込んで聞いてみる。

するとベルは、少し照れたような苦笑いを浮かべて、

「うちは実家の隣がギルドだったの」

と言い、続けて、昔のことをぽつりぽつりと語ってくれた。

なんでもベルの実家はギルドの隣にある冒険者向けの雑貨を扱う小さなお店だったらしい。

小さい頃から店やギルドに出入りする冒険者を見ていたベルは自然と将来は冒険者になりたいと思ったのだそうだ。

それで、学問所に通うようになるとすぐにギルドの訓練場に出入りするようになってそこで剣を覚えたという。

その話を聞いて私は、

(なんか似てるなぁ…)

と素直にそう思った。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、その話を聞いたアイカが、

「あはは。なんか2人ともそっくり!」

と言って笑う。

それに続いて、

「うふふ。そうね」

とユナも笑った。

私も、なんだかおかしくなって、

「ははは。そうかもね」

と言って笑う。

そんな私たちを見ていたベルも、

「もう…」

と言って、困ったような顔で笑った。


旅は笑顔のまま楽しく進む。

そして、そろそろ夕日が辺りを染め始めてきた頃、私たちの前にクルツの町の門が見えてきた。

さっそく町に入る。

懐かしい景色、懐かしい匂い。

クルツの町は私がこの町を離れた時と何も変わってはいない。

その景色を見て、

(ああ、帰ってきたんだなぁ…)

という当たり前の感想が心の奥底からじんわりと沁みだしてきた。


まずはみんなのための宿を取る。

うちの実家にはみんなを泊めてあげられるだけの部屋がない。

適当に宿をとると、さっそくみんなそろって銭湯に向かった。


小さい頃通った懐かしの銭湯で、いつものように、

「ふいー…」

とついつい声を出してしまう。

すると、やっぱりみんなから笑われてしまった。

恥ずかしくてついついお湯に顔を半分ほど埋める。

でも、友達とのそんなやり取りは妙に楽しくて、私は心の中でこっそりと微笑んでしまった。


手早くお風呂から上がり、さっそく実家へと向かう。

慣れ親しんだ道を妙に緊張して歩く。

初めて友達を連れて家に帰る。

そのことが私にその妙な緊張感をもたらしていた。

やがて店の前に着く。

「居酒屋 ルピナス」

それが、我が家が営む居酒屋の名前だ。

母さんが一番好きな花がルピナスだからその名前になったらしい。

私はひとつ大きく深呼吸をすると、目の前にある扉を開き、

「ただいま!」

と明るく声を掛けた。


「はい。い…、ジュリエッタ!」

という声とともに母さんが注文そっちのけで飛びついてくる。

すると、その声を聞きつけたのか、少し遅れて厨房の奥から父さんも、

「なにぃ!?」

と言いながら飛び出してきた。

「おぉ…。ジュリエッタ…」

という父さんはすでに涙ぐんでいる。

そして、母さんごとその大きくて太い腕で私を包み込んできた。


「ちょ、父さん暑苦しい…。ていうか、鍋とか平気なの?」

と声を掛ける。

すると、父さんは、

「いけねぇ!」

と言って慌てて奥の厨房へと戻っていった。

「久しぶりね…」

と母さんが私の顔を両手で挟み、優しく微笑みながら、そう声を掛けてくる。

「うん。ごめんね」

と私も無沙汰を謝りつつ、母さんの手に自分の手を添えた。

しばし見つめ合って、お互い照れくさそうに笑う。

すると、後ろから、

「うふふ。感動の対面ね」

というユナの声がした。


私は慌てて、

「そうそう。紹介するわ。最近一緒に冒険している仲間なの」

と言って、母さんにみんなを紹介する。

すると、母さんは少し驚いたような顔をしたあと、ニッコリと微笑んで、

「あらあら…。まぁ…。そうなのね。うちの子がいつもお世話になって…」

と言って軽く頭を下げた。

みんなも、

「アイカです!」

「ユナと申します」

「ララベルです」

とみんながそれぞれに自己紹介をする。

そして、

「あらやだ。私ったら…。店先でごめんなさいね。さぁどうぞ座って、今飲み物…えっと、とりあえずビールでいいのかしら?」

という母さんの声をきっかけに私たちはさっそく適当な席に着いた。


私が席に着くと、方々から、

「あれ?もしかしてジルちゃんかい?懐かしいねぇ」

とか、

「ちょっと見ない間に別嬪さんになったなぁ」

という常連のおっちゃんたちからの声がかかる。

私はそんな声にひとつひとつ答えながらビールの到着を小恥ずかしい気持ちで待った。


やがて、

「はい、お待ちどうさま」

と言って母さんがジョッキを4つ持ってきてくれる。

私たちはさっそく、

「「「「乾杯!」」」」

と声をそろえてビールを一気に流し込んだ。

お風呂上がりの火照った体に良く冷えたビールが沁み渡る。

私たちは思わず、

「「「「ぷはぁ…」」」」

と声をそろえてしまった。

「あはは」

と今度は笑い声がそろう。

そして、楽しい打ち上げが始まった。


やがて、次々と料理が運ばれてくる。

「前もって知らせてくれてりゃもっといい物を作ったんだが、あり合わせですまねぇ。でもまぁ、遠慮なく食ってくれ」

という父さんの言葉にみんなで礼を言ってさっそく料理に手を付ける。

「ん?このサケのフライ、美味しいね。身がほっくほくだよ!」

とアイカが嬉しそうにサケのフライを頬張ると、ユナも根菜と豚肉の黒酢炒めを食べながら、

「まぁ、優しい甘さで美味しいわ」

と言ってくれた。

「この卵焼きとっても甘いのね」

とベルも出汁巻き卵を美味しそうに頬張ってくれている。

私はそれが嬉しくて、

「こっちのギョーザも美味しいよ!餡にたっぷりのハクサイが入っているの」

と、我が家自慢のギョーザを勧めながらそのギョーザを頬張りビールを一気に流し込んだ。


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