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第68話辺境へ03

浄化によって、綺麗になった体を確認して、さっそく荷造りに取り掛かる。

オークの素材は牙と皮。

そのうち牙は重たいが、4人で手分けをすればなんとか持って帰れるくらいの重さだ。

あとは、ユナにお願いしてさっさと燃やしてもらった。


荷物を背負ってさっそくその場を離れる。

魔物の脅威は一応去ったが、ここは森の奥。

なにが起こるかわからない。

そう思ってみんな無言で足早に村を目指した。

やがて、ある程度浅い所まで来たのを確認して、野営にする。

いつものように設営をアイカとベルに任せ、私とユナは料理に取り掛かった。


夕食のスープが出来上がり、焚火を囲みながらみんなで食べる。

みんな疲れはあるものの、その表情にはどこかほっとしたような感情が表れていた。

「割と楽だったわね」

とユナがつぶやいた。

私は一瞬何のことかわからなくて、

「ん?」

という表情を返す。

すると、ユナは苦笑いで、

「オーク。初めてだったけど、もっと手強いかと思っていたわ」

と説明してくれた。


私はそこで、ふとあのオークが弱いと感じたことを思い出す。

そして、

「あのオーク、ちょっとおかしかったわ」

とみんなに向かって、自分が違和感を持ったことを告げ、話を切り出した。

「どういうこと?」

とベルが真剣な表情を私に向けてくる。

そこで私は、オークが2度目だったことや、「烈火」の3人の戦いぶり、そして、その時と比べてオークが明らかに弱かったことなどを話して聞かせた。

みんなの表情が曇る。

私も少し暗い気持ちになった。


その場に重たい空気と沈黙が流れる。

そして、ベルがふと、

「…なぜかしら?」

とつぶやいた。

みんなの視線がベルに集まる。

すると、ベルは一瞬その視線に驚いたような表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して、

「魔物にも個体差はあるから、ある程度弱い個体と強い個体がいるのはわかるわ。でも、ジルの話だと明らかに弱かったっていうんでしょう?だから、なにか異常でもあったのかな?って思ったの」

そのベルの言葉を聞いて、みんな考え込んだ。

私も考えを巡らせる。

しかし、これといったことは思い浮かばない。

そして、私がこの話はとりあえず置いておいて、と言おうとした時、アイカが、

「あのジルの浄化が関係してるのかな?」

と言った。


今度はみんなの視線がアイカに集まる。

アイカは少し慌てたような表情で、

「え、あの、なんていうか、ほら。あの浄化ってやつをやってた時にオークの叫び声が聞こえたでしょ?だから、あの浄化ってやつがオークにとってはなにか嫌な感じがしたとか、邪魔だったとか、そういうことなのかなぁって…」

その意見を聞いて、私が考え込むと、今度は私にみんなの視線が集まった。

その視線を感じながら、私はひとり考える。

(聖魔法。すなわち浄化をするための魔力操作は魔素の淀みを取り除く。そして、魔物というのは、魔素の淀みで生まれやすい。ということは、魔物は地脈が浄化されることを嫌うというのは可能性としてありそうね。なにせ自分たちの住みやすい環境が奪われることになるんだから…。その可能性は理解できるわ。でも…)

私はそこまで考えて、

「うーん…」

とひとつ唸った。


「…あはは。ごめん、なんか変なこと言っちゃったね」

とアイカが頭を掻きながら軽く謝って来る。

しかし、私は、

「いえ。貴重な視点だわ。おそらくだけど、あの浄化の魔法を魔物が嫌がるってのは、可能性が高いと思う。それに…。まだはっきりとしたことは言えないけど、もしかしたら魔物を弱体化させるなにかの要因の一つになっているのかもしれない。ありがとう。良い気づきになったわ」

と言って、逆に礼を言った。


「そう?なら良かったよ、ははは」

と言って笑うアイカをよそに、私はまたひそかにひとりで考えを巡らせる。

(もし、聖魔法を使うことで、魔物を弱体化させることができるとしたら…)

私は思わぬ形で現れたその可能性に驚きつつ、

(仮に、そんなことができるとしたら、ますます聖女の仕事が重要になってくるわね…。さて、教会はどう動くことになるのかしら…)

と、ひとり今後の聖女というものの在り方が変わっていくかもしれないという可能性に気付き、そっとため息を吐いた。


「スープ冷めちゃったね。温め直そうか」

というユナの声でふと我に返る。

気が付けば半分ほど残っていたスープはすっかり冷めていた。

「そうね。お願い」

と言って、ベルがユナにお皿を差し出す。

私とアイカも、ユナにお皿を渡し、スープを温め直してもらった。

ユナはこうしていつも私たちを気遣ってくれる。

アイカの明るさとはまた違った意味で、私たちの空気を変えてくれるその気遣いに嬉しさを感じつつ、温め直してもらったスープを受け取ると、私たちはまた和やかな雰囲気で食事を再開した。


翌日の夕方なんとか村に戻り、遅い時間に申し訳ないと思いつつも村長宅に報告にいく。

すると、村長は村の森にオークがいたことに驚いた様子だったが、私が、

「稀にですが、あることです。もう討伐しましたから心配ないですよ」

と、にこやかに、しかし、ほんの少しの嘘を交えてそう言うと、どうにか安心してくれた。

遅い時間だったが、村長の厚意でお風呂を使わせてもらう。

十分に温まり、みんなのいる寝室へと向かった。


私が部屋に入るなり、

「お。待ってたよ」

とアイカが声を掛けてきた。

「ん?」

と聞くと、

「今回はちょっと余裕があるからユニスの町で一泊して打ち上げしていこうと思うんだけど、どう?」

というアイカに、私は、

「ごめん、実はこのあと実家に帰ることになってて…。実家はクルツの町だからみんなとは逆方向なんだ…」

と、心の底から残念な気持ちで、この後の予定を告げた。

「そっか…。残念だけどしょうがないね」

と言って、アイカがしょんぼりする。

すると、ユナが、

「あら。それならみんなでクルツの町に行けばいいじゃない。ベルはどう?」

と何でもないようにそう言ってくれた。


「ええ。私は構わないわ。日程には余裕があるから」

とベルが答えると、ユナが、

「じゃぁ、決まりね。今回の打ち上げはジルのご実家よ」

と嬉しそうな、ちょっと、イタズラっぽいような表情でみんなにそう告げた。

「やったー!」

とアイカが無邪気に喜ぶ。

しかし、私は、

「え?ええ!?」

と、ちょっとすっとんきょうな声を上げてしまった。

そんな私に、

「あら。ダメだった?」

とユナが首を傾げながら聞いてくる。

「い、いや。ダメじゃないけど…。なんていうか、その…。急だったから…」

と、ややしどろもどろに答える私に、今度はベルが、

「お友達の家で打ち上げなんて初めてだから楽しみだわ」

と、嬉しそうな顔を見せてきた。

そんなに嬉しそうな顔を見せられると私も断れない。

私は苦笑いで、

「しょうがないわねぇ」

と言ってわざとらしくため息を吐く。

そして、しばらくの間、

「ジルの実家ってどんな所かなぁ」

とか、

「クルツの町は泊ったことがないから今から楽しみだわ」

と言って、盛り上がる3人と一緒に楽しくおしゃべりした。


いろいろと昔のことを聞かれてなんとなく恥ずかしくなってきた私は、

「さぁ、明日も早いしそろそろ寝ましょうか」

と、やや早口に言って、そのおしゃべりに幕を下ろす。

「はーい」

「うふふ」

「ふふっ。そうね」

と笑顔で答える3人と同時にベッドに横になる。

「おやすみ」

と互いに声を掛け合ってそれぞれの枕元にあった小さなランプの灯りを消した。


目を閉じても、くすぐったさが胸から消えない。

何度深呼吸をしても、ウキウキとした気持ちが湧きだしてくる。

ベルは先ほど私のことを友達だと言ってくれた。

一緒に冒険をする仲間であり、友達でもある。

そんな関係になれたんだと思うとニヤニヤするのを抑えきれない。

(そう言えば私、友達を実家に呼ぶなんて初めての経験よね?)

そう思うと、妙な緊張感が湧いてきた。

(いけない。明日も早いんだから…)

そう思って必死に目を閉じる。

心を落ち着けるようにそっと何度も深呼吸をした。

ようやく心が落ち着いてくる。

しかし、胸の中に広がった喜びは消えない。

(うふふ。楽しみね)

と心の中でつぶやいた。

隣からみんなの静かな寝息が聞こえてくる。

私はそれをなんとも嬉しい気持ちで聞き、いつの間にか安らいだ気持ちで深い眠りに落ちていった。


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