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第63話新しい武器03

翌日。

適当に朝食を済ませて宿に戻ると、さっそく持ってきた聖女服に着替え、のんびりと王宮を目指してあるく。

下町の職人街をぶらつき、冒険道具を見たり、最近流行りのおもちゃを物色したりしながら、のんびり歩いているうちに、ちょうど昼前、リリエラ様の住まいへとつながるあの門へとたどり着いた。

「こんにちは」

と声を掛け、いつもの衛兵さんに案内してもらう。

そしていつものように野趣あふれる小路を抜け、あの美しい離れへとたどり着いた。


「お待ちしておりました。ジュリエッタ様」

とセシルさんに出迎えられてさっそく中に入る。

広く明るい廊下を通り、すぐに食堂へと通された。

食堂で待っていたリリエラ様と抱擁を交わす。

そして、

「お久しゅうございます。エリオット殿下」

と、エリオット殿下に向かってはきちんと礼を取った。


「ははは。クレインバッハ侯爵邸以来だね。今日はかしこまった席じゃないんだ。楽にして欲しい」

と言う殿下に、

「ありがとうございます」

と言って席に着くと、リリエラ様が少しムッとした表情で、

「もう。ジルちゃんったら…。ちょっと堅苦しいわ」

と子供っぽいことを言う。

そのわざとらしい表情がおかしくて、私はつい笑ってしまい、

「ごめんなさい。リリーちゃん」

と言ってしまった。

「おや。2人は愛称で呼び合うほどの仲だったかい?」

というエリオット殿下に、私は内心、

(しまった…)

と思いつつも、一応落ち着いたふりをして、

「2人きりの時だけというお約束でそう呼ばせていただいております。どうかお見逃しを」

と言って軽く頭を下げる。

するとエリオット殿下は笑って、

「いや。構わないさ。なんなら私のことも『殿下』なしで呼んでくれ」

と言った。

「ご冗談を。『殿下』」

と言って、私はその言葉を流す。

そのやり取りを見ていた、リリエラ様が、

「うふふ。相変わらずですのね」

と笑った所で、ポーラさんとセシルさんが料理を持って入ってきた。


何かのムースだろうか。

綺麗な色の前菜に始まり、メイン、パスタ、と料理が進んで行く。

やはり、私たちに比べてリリエラ様の食事の量は少ない。

そのことを内心痛ましく思いながらも、なるべく楽しい話をしてその食事を進めていった。

やがてデザートは場所をサロンに移し、私の冒険の話になる。

そこで私は最近一緒に冒険をする仲間が出来たことを話した。


すると、リリエラ様の顔が少し曇る。

そして、

「なんだかずるいわ…」

とひと言つぶやいた。

「リリー…」

とエリオット殿下が窘める。

おそらくリリエラ様は羨ましかったのだろう。

私は自分の軽率な発言を悔みつつ、

「王都で私に初めて出来たお友達はリリーちゃんよ」

と、精一杯の笑顔でそう答えた。


「まぁ…。ジルちゃんったら」

とリリエラ様が照れながら喜びの表情を浮かべる。

これは本当のことだ。

聖女学校では勉強ばかりでろくに友達も作らず、飛び級で入った学院ではエリオット殿下やその周りの数人はともかく、同級生とはほとんど交流が無かった。

当時の私は冒険者になることばかり考えて、早くこんな世界を抜け出したいと思っていたから、何も気にしなかったが、今にして思えば少しもったいないことをしたとも思っている。

しかし、そんな私にも友達だと思える人が出来た。

それがリリエラ様だ。

不敬かもしれないが私はこのリリエラ様、リリーちゃんという人を心の底から可愛らしい人だと思っている。

ちょっと子供っぽいところはあるが、天真爛漫で誰にでも優しいところがとても魅力的だ。

自分の気持ちに正直になるのが苦手で、ついつい他人に対して壁を作ってしまう私とは全く違う。

そんな誰に対しても嘘偽りなく接することができるリリーちゃんを私は心の底から尊敬していた。


「ははは。ジュリエッタはなかなかの人たらしだね」

とエリオット殿下が軽く茶化してくる。

私はそれに、

「殿下。そういうところですよ」

とひと言だけ返して、リリエラ様に視線を向けた。

お互いに照れくさくて、くすくすと笑ってしまう。

身分の違いはあっても、それぞれに友達だと思っていることを再確認して、その日は楽しく過ぎていった。


やがて、残念ながらお暇しなければならない時間になる。

「絶対にまた来てね」

と、本日何回目かの言葉を言うリリエラ様に、

「はい。必ず」

と何度目かの同じ答えを返して、私は離れを後にした。


王宮を離れ貴族街の丘から、すっかり夕焼けに染まった下町を眺める。

(さて、今日はどこで飲もうかしら)

私はいつものようにそんな呑気なことを考えながら嬉しい気持ちで下町を目指した。


ガヤガヤと大勢で賑わう居酒屋の片隅でステーキとビールを楽しんだ翌日。

さっそくエリーに跨り王都の門を目指す。

次の目的地はクレインバッハ侯爵領。

3日ほどの旅だし、途中には宿場町も多い。

きっとのんびりとした旅になるだろう。

そんなことを思いながら、門を出て街道を進んで行った。


予想通り、何事もなくクレインバッハ侯爵領の領都エインセリアの町に入る。

ここでもいつもより少し長めに待たされた。

どうやらこのところの盗賊被害というのは予想以上に大きいらしい。

(まったく。迷惑な話よね)

と心の中で迷惑な悪人に文句をつける。

そして、問題無く門を通過すると、さっそくギルドに向かった。

ギルドに着くと、クレインバッハ侯爵からの依頼を受けるための手紙を出す。

手紙にはこれから教会長の依頼でエルド村に向かう。

3、4日で戻ってくる予定だ。

その後、エインセリアの町に数日は滞在できる見込みである。

という旨のことをなるべく丁寧な文章で書いた。

こうしておけばギルド経由で戻ってき次第連絡が付くだろう。

そう思って、ギルドを出ると少し食料を買い足して、その日は宿に向かった。


翌朝。

市場で軽く朝食を食べてから、エインセリアの町を出る。

目的のエルド村にはおそらく今日の夕方前に着くだろう。

急ぐ旅では無い。

私とエリーはややのんびりとした足取りで、エルド村へと延びる道を進んだ。


エルド村に着き、さっそく村長宅へ向かうと、歓迎してくれる村長から夕飯をいただきつつ、最近の村の状況を聞く。

村長曰く、浄化の魔導石はつい数年前に見てもらったばかりだし、作物にも異常は無いそうだ。

私はそのことに安心しつつも、

「一応、念のためですから」

と断って、明日浄化の魔導石を見せてもらうことにした。


翌日。

さっそく浄化の魔導石の様子を見てみる。

たしかに異常は無かったが、ほんの少しの引っ掛かりを覚えた。

(まぁ、このくらいなら及第点かな)

などと、妙に上から目線の感想を持ちつつ、念のために調整しておく。

そして、村長に全く異常はなかったと報告すると、いつもの薙刀とエリーを預けてさっそく森へと向かった。


おそらく異常は無いだろうと思いつつも、半日ほど歩き森の奥で小休止にする。

そこでさっそく薙刀と一体になった浄化の魔導石を試してみることにした。

刃を地面に突き立て、慎重に魔力を流す。

(くっ…。意外と持って行かれるわね)

と思いつつも慎重に操作して、魔素の淀みを探った。

(広いわね…。あと、細かい点が良く見える)

そんな感想を持つ。

(これがあればあのワイバーンと戦った草原も一気に浄化できたかも)

と思いつつ、いつもより広く細かくなった分、時間をかけて地脈に流れる魔素の動きを追っていった。

すると、ほんのわずかに淀んでいる場所を見つける。

(少し遠いかしら…)

と思いつつも、放っておくわけにもいかないので、私はさっそくその小さな淀みがある方へと足を向けた。


また半日ほど進み、その日は野営にする。

おそらく、まだ遠い。

そう思いながらももう一度魔素の流れを読んでみた。

また、慎重に魔力を流していく。

すると、先ほどよりもはっきりと淀みの場所を特定することができた。

(なにげにすごいわね。これ…)

そんな感想を抱きながら、私はやや疲れた体に行動食を詰め込む。

そしてその日は緊張しながらも、いつもよりは少しゆったりとした気持ちで体を休めた。


翌日。

日の出とともにさっそく行動に移る。

場所はある程度把握できていから、後は進むだけだ。

なんとも効率良く進めることに自分でも感心しながら、慎重に、しかし、さくさくと森の中を進んで行った。

そして、案の定痕跡を発見する。

おそらくゴブリンの小さな集団だろう。

新しい武器の練習をするにはうってつけの相手に、

(なんとも都合のいいことね)

と苦笑いしつつ、ひとつ深呼吸をすると気を引き締めなおしてその痕跡を辿って行った。


しばらくして群れを発見する。

見たところ本当に小さな群れのようだ。

相変わらずギャーギャーとうるさい。

そんな相手に油断することなく、慎重に近寄ると、私はさっそく新しい薙刀の革鞘を取り一気にその群れの中へと突っ込んで行った。

(軽い…)

そんな感触を得ながら右に一閃する。

すると、今までの薙刀とは明らかに違う、まるでそこに何も無かったかのような感覚でゴブリンが斬れた。

(マジ…)

と驚きながらも今度は薙刀を返すようにやや下から左に一閃する。

また、驚くほどの切れ味でゴブリンを斬ることができた。

次に突く。

スッとゴブリンの体に入っていく刃の感覚にまた驚きながらも、素早く抜いて今度は右後方へと薙刀を振った。

最後にやや大きい個体と相対する。

おそらくリーダーだろう。

だが、私はそれを気にすることなく、一気に勝負を決めに掛かった。

ジミーに教えてもらった通り、魔力を練り一気に解き放つ。

すると、リーダーの体がスッパリと2つに分かれて、あっけなく勝負は決まった。

(うっわー…)

と心の中で感嘆の声を上げる。

そして、ふと母さんの、

『まだ薙刀に使われてるよ。もっと自分の体の延長線上にあるものだと思って使いこなしなさい』

そんな優しくも厳しい声を思い出した。

私は、想像していた以上の性能を示してくれた薙刀を見つめ、

(この武器に見合うように、もっと強くならなくちゃね…)

と改めて自分に言い聞かせる。

そして、いつものように後始末をすると、さっそくエルド村への帰路に就いた。


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