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第62話新しい武器02

翌朝。

市場で下町流のこってりとしたサンドイッチを買い、頬張りながら教会本部に向かう。

(相変わらず肉と脂の暴力ね)

と、その朝食にそんな感想を抱きながら歩いていると、いつの間にか貴族街に入っていた。

冒険者姿の私は時折奇異の目で見られる。

(こういうのにも、もう慣れたわね)

と心の中で苦笑いしつつ、のんびりと、やたらと高くそびえる教会の塔を目指した。


やがて、教会本部につくと前回よりもやや落ち着いた対応で出迎えられる。

(そろそろ、私の存在が教会本部に認知されてきたってことなのかな?)

とどうでもいいことを思いつつ、どうやら、すぐにでも会えるらしいことにほっとして案内を待った。

しばらくすると、例のサリーという名のメイドさんがやってきて、

「どうぞ」

と言って先に立って歩き始める。

私はその後を付いて、無事に教会長さんの執務室の扉をくぐった。


「お久しぶりね。聖女ジュリエッタ」

という教会長さんに、

「お久しぶりです。冒険者ジルです」

と返して苦笑いされるという一幕を挟んで、さっそくソファに腰掛けさせてもらう。


「元気そうでよかったわ」

と私の目の前に座りながら、話しかけてくる教会長さんに、

「おかげ様で元気にやらせてもらってます」

と素直に感謝の気持ちを返す。

しかし、教会長さんは嫌味だとでも勘違いしたのだろうか、

「これでも、心配しているのよ?」

と苦笑いを返してきた。

私は少し慌てて、

「いえ。本当におかげ様で、護衛についてくれた冒険者からいろんなことを学べましたし、いろいろと気付きを得ることができました。感謝しています」

と弁解する。

すると、教会長さんは、少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んで、

「そう。それはよかったわ」

と本当に嬉しそうにそう言ってくれた。


その態度にほっとした私は改めて、

「この度は武器を作っていただき、ありがとうございます」

と肝心の礼を先に述べる。

すると、教会長さんは、

「いいえ。先に見せてもらいましたけど、あれはいい物になると思いますよ。もしかしたらこれからの聖女にとって重要な物になるかもしれません。いい先例を作ってくれました」

と言った。


私はその言葉の意味を理解しきれず「?」という顔をする。

すると、教会長さんは笑いながら、

「うふふ。あなたの真似ができる人がそう簡単に出てくるとは思わないけど、それでも、あれがあるということは、そういうこともできるというひとつの証になるわ。それに、あの携帯型の浄化の魔導石よりも広範囲を浄化できるものが出来たんですもの。それだけでも十分な成果よ」

と言ってくれた。

なるほど、将来的には私のように冒険しながら各地を浄化して回るという存在が増えるきっかけになるかもしれないということらしい。

そうでなくても、今使われている携帯型の浄化の魔導石がより進化したのだから、それだけでも十分な成果だということを言ってくれているようだ。

私はそのことに、一応、ほっとしてその他の話に移った。


話を進めると、どうやら聖女の教育はあまり上手くいっていないらしい。

どうにも「はぐれ」への嫌悪感や侮蔑が根強く残っているようだ。

それをすぐに変えることは困難だろうが、聖女学校に通う若者を中心に地道に取り組んでいくということを聞いてなんともいえない複雑な気持ちを抱く。

そんな話を聞き、私が思わず、

「いっそのこと若いうちのドサ回りを義務化できればいいのに…」

と、つぶやくと、

「あら。それはいいわね」

と教会長さんが目を見開いてそう言った。

思いついてしまったとはいえ、どうやら未来の聖女たちにとって、過酷な業務を強いることになってしまった自分の発言を、なんだか申し訳なく思いつつも、

(いや。それこそが聖女の役目だから)

と当たり前のことを当たり前に言っただけだと開き直り、話の続きに移る。

その後は報酬を王都のギルドにまとめて置いてあるから、すぐにでも受け取って欲しいとか、今後の依頼はすぐにでも出す予定だとかいう話をして簡単に場所の候補や日程を確認して話は終わった。


帰り際。

サリーさんから箱を渡される。

「新品の聖女服です。予備にどうぞ」

と言われ、

(いや、予備もなにも…)

と思ったが、苦笑いでありがたく頂戴することにした。

聖女服が入った箱を抱えて王宮の塀沿いを歩く。

途中、巡回の衛兵から胡乱げな目を向けられたが、堂々と歩いて、見慣れた小さな門の前までやって来た。


「こんにちは」

と見知った衛兵さんに声を掛ける。

「やぁ、今回はいつもの服なんですね」

と苦笑いで声を掛けられるのに、

「あはは」

と苦笑いを返しつつ、

「明日と明後日の2日は王都にいる予定なんです。それで、もし、お時間の都合が会えばリリエラ様にお会いできないかと思ってお伝えにまいりました」

と伝えた。

すると衛兵さんは、

「わかりました。少々お待ちいただけますか?」

と言ってさっそく奥へ行こうとしてくれる。

私は慌てて、

「いえ。後日で構いませんから」

と言ってそれを止めたが、衛兵さんは、

「リリエラ様からのお達しでジュリエッタ様の来訪は最優先事項として扱うように言われておりますので」

と言って一礼すると、一目散に奥へと駆けていった。


私はその言葉を驚いたり嬉しく思ったりしながら、その場で他の衛兵さんと世間話をしながら待つ。

すると、しばらくして、衛兵さんはメイドのセシルさんを伴って戻って来てくれた。

「お久しぶりです、ジュリエッタ様」

というセシルさんに、

「こちらこそ、お久しぶりです」

と、慣れ親しんだ感じで挨拶をする。

すると、セシルさんは微笑みながら、

「お嬢様は大変お喜びになられて、今すぐにでもとおっしゃったのですが、さすがに準備もございますので、とお諫めいたしました。明日はエリオット殿下も昼食にお見えになる事になっておりますから、その時ご一緒出来ればと思っております。いかがでしょうか?」

と聞いてきた。

私は一も二も無く、

「かしこまりました。必ず」

と答えて門を後にする。

そして、ウキウキとした足取りで再び下町へと戻っていった。


いったん宿に戻り、聖女服が入った箱を置くと、薙刀を担いで適当な定食屋を目指す。

朝、あの暴力的なサンドイッチを食べたからだろうか。

少しあっさりしたものが食べたい気分だったので、日替わりが、焼き野菜がたっぷり乗ったスープカレーだという喫茶店を見つけるとそこで昼を食べた。

食後、少し辛くなった口を甘めのミルクティーで癒し、今度はいつもの武器屋を目指す。

私は、

(さて、どんな武器が出来上がったのかな?)

とワクワクしながら、武器屋の扉を開けた。


「こんにちは。出来てる?」

と声を掛ける。

すると、奥から、

「おう。ちょっと待ってろ」

といういつものダミ声が聞こえて、バルドさんが出てきた。

開口一番、

「まったく、お前が聖女たぁ、世も末ってもんだ」

と悪態を吐いてくるバルドさんに、

「私もそう思うわ」

と、冗談を返し、ひとしきり笑い合うとさっそく新品の武器を見せてもらう。

手に取った感触は今までの薙刀よりも少し軽いだろうか?

てっきり重たくなると予想していた私が、それを意外に思っていると、横からバルドさんが、

「へっ。教会さんがたんまりくれるっていうんで、これでもかってくらいアルム鋼を使ってやったぜ。どうだ。軽いだろ?」

とドヤ顔で言ってきた。

私はその言葉を聞いて、

「アルム鋼!?」

と驚いてしまう。

なにせ、アルム鋼といったら高級品中の高級品だ。

軽く弾力があるから斬る武器にはうってつけだし、何より強い。

魔力の通りもいいらしいから、今私が練習しているあの技との相性も抜群だろう。

そんなことを考えながら、

(いったい、いくらするのよ…)

と心の中で冷や汗をかきつつ、その真新しい薙刀を見つめた。


そんな私に、バルドさんは、

「ああ。魔導回路とかそういうのは柄の中に組み込んである。浄化っつったか?聖女の魔法を使う時は刃を地面に突き立てて魔力を流せばいいように作ってあるからそうしてくれ。あと、整備はそれなりで構わないが、万が一大物にでもあたって柄が傷ついたらすぐに持ってきてくれよ。なにせ、回路の調整には時間がかかるからな。わかったか?」

と、立て続けに仕様を説明してくれる。

私はその話を聞きながら、再度その薙刀を見つめ、

(ああ、この石突についてる魔石も高そうだなぁ…)

と、ぼんやりとした感想を持ちつつ、苦笑いでその薙刀を見つめた。


「ああ。ついでだ。いつもの薙刀も見せてみろ。ちょいと研いでやるぞ」

と言ってくれるバルドさんに薙刀を預け、もう一度、新しい薙刀を見る。

石突に魔石が付いている以外は今までの物と同様に黒くて質素な印象だ。

(見た目はそれほど変わってないわね…。まぁ値段は全然違うだろうけど…)

と思いながら、私はその薙刀の感触を確かめるように構えてみたり軽く振ってみたりしながら、いつもの薙刀の調整が終わるのを待った。


やがて調整を終えた薙刀を受け取り、新しい薙刀専用の皮鞘と帯を受け取ると早速その新しい薙刀を担ぎ、今までの物を手に持って武器屋を出る。

私はまだしっくりこないその背中の感触を体に馴染ませていくような気持ちで遠回りして町をぶらつきながら、宿へと戻っていった。


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