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第74話村長、馬をもらう03

今日の昼飯はなんだろうか?

そう楽しみに思いながら役場を出ると、こちらに向かって来るジードさん一行が見えた。

門のところまで移動して、ジードさんたちを迎える。

「やぁ、バン君すまないね。意外と魔獣に出くわさなくて遅くなってしまったよ。あぁでも安心してくれたまえ、ちゃんとヒーヨを3羽ほど落としてきたからね。はっはっは」

と機嫌よく言ってくるジードさんに、

「それは助かります。うちのルビーは鳥好きですから」

と言って礼を述べると、ジードさんの後ろにいる1頭の森馬の背を見た。

たしかにヒーヨが入っていてもおかしくない程度の麻袋が3つ乗っている。

(森馬をゆっくり見るのは初めてだが、なかなか力持ちらしいな…)

というような感想をもっていると、

(…ん?)

と、そこで気が付いた。


よく見ると、森馬の列の最後尾に白い馬がいる。

他の馬よりやや小柄か?

ジードさんたちの乗って来た森馬をちゃんと見たのは初めてだが、遠目に見た記憶ではそんな個体はいなかったはずだ。

(他の馬は茶色か黒だからあんなにきれいな白馬を連れて来ていればいやでも目に付くはずだ。

まさか見落としていたということはないと思うが…)

と私は不思議に思い、

「ジードさん。そんな白い森馬も連れて来ておられましたか?」

と聞いてみると、ジードさんは、

「ああ、そうだ。その白い子は森の中で出会ってね。ついてきてしまったんだよ。どうだい?飼ってみないかい?」

とジードさんは事も無げにそう言った。


「え?」

私がやや素っ頓狂な声を上げてジードさんの方へ驚きの表情を向けると、

「いや、元々1頭は君への贈り物にと思って連れてきたんだが、これで2頭になったね。はっはっは」

とジードさんは鷹揚に笑いながらそう言う。

私が戸惑って、

「え?いや、しかし…」

と言うと、ジードさんは、

「ああ、ちなみに、この子はマルグレーテ嬢とお友達になりたいんじゃないかな?たぶんだけどね…。どうだい?一度マルグレーテ嬢に会わせてみないかい?」

と言ってジードさんはなぜか、マリーの名を挙げた。

私がまだどうしたものかと戸惑っていると、その白い森馬が私に近づいてきて、

「ぶるる」(やさしい子のにおい。いる?)

と言った。

(あー…。ルビーやサファイアと同類か…)

その瞬間、私はなんとなく諦めがついた。


「わかりました」

私はジードさんに向かって苦笑しながらそう言うと、今度はその白馬に向かい、

(ルビーやサファイアと同じならば、こちらの言葉は理解できるだろう)

と思って、

「お前の言う優しい子ってのはたぶんマリーのことだと思うんだが、そのマリーは今病気の治療中でな…。一緒に遊べるようになるには何年もかかると思うが待っていられるか?」

と聞いた。

すると、案の定その白馬は

「ひひん。ぶるる」

と鳴いて、

(うん。へいき。まってる)

いかにも嬉しいという思いを伝えてきた。


そんな一幕のあと、旅装を解きたいというジードさん一行に、午後の予定があるから飯は先に失礼すると断って私は一人でさっさと飯を済ませると、ギルドへ向かった。

ちなみに昼は蕎麦だった。


「やぁ、サナさん。アイザックは空いてるかい?」

ギルドへ着くと、ちょうど受付にいたサナさんにそう声をかけた。

「さっそくありがとうございます。村長。ご案内いたします」

と言って、サナさんは相変わらず淡々と対応してくれる。

(…やはりアレックスに似ているな)

とそんな感想を抱きつつ、サナさんに案内してもらいギルマスの執務室に入ると、アイザックは珍しく書類仕事をしていた。


いや、珍しくというのは違うかもしれない。

私が見たことがないだけできっと私と同じように普段からこういう仕事に追われているのだろう。

私がそう思って、

「忙しいところすまんな。書類仕事は肩が凝るだろう」

と軽く労ってやると、

「まったくだ。たまにしかやらんからな」

と言ってアイザックは肩を揉みながらそうぼやいた。


(おいおい。たまにしかしないのか…)

と私が思っていると、

「マスター。決裁期限が迫っています。さっさと終わらせてください」

とサナさんは釘をさし、「ただいまお茶を」と言って、執務室を後にした。

(アイザックは夏休みの宿題をギリギリまでやらないタイプだったか。サナさんがいなければこのギルドは回らないな)

そう思って、苦笑しつつ、

「最近、魔獣が増えてるらしいじゃないか。あと、街道付近に狼が出たんだって?」

と言って、本題に入った。

アイザックは書類仕事の手を止めて、ギルドマスターらしい表情を作ると、

「ああ、そのことだが、俺も少し気になってな。魔獣の方は今のところウサギ程度だからその辺のガキンチョでもなんとかなっているが、どうもキナ臭せぇ」

と言う。


「ウサギってことは、あのいくつか草地がある辺りか。歩きで2日くらいだったな」

私がなんとなく場所を思い浮かべながらそう言うと、アイザックは、

「ああ、慣れたヤツならな。ガキンチョなら3日ってところだ。薬草採りのついでに弓の練習がてら小遣い稼ぎに行くやつが多い」

と言って、現状を教えてくれた。

ウサギの魔獣は弱いが、素早いし巣穴に逃げ込むと厄介だから普通は弓か罠で狙う。

罠は主に猟師が使って冒険者は弓だ。

肉は美味くないが一応食えるし、安いが毛皮も売れる。

それにくず魔石が採れるからアイザックの言う通り、初心者の小遣い稼ぎにはピッタリの獲物だ。

「どのくらい増えたんだ?」

と私が聞くと、

「今のところ2割ってとこだろう。駆除隊を組むかどうか悩ましいところだな」

と言ってアイザックは少し面倒くさそうな顔をした。

さて、どうしたものか。

私が少し考え込んでいると、サナさんがお茶を持って来た。


サナさんは、

「どうぞ。あと、マスター。そちらの決裁を優先的にやってください」

とまた、くぎを刺してから執務室をあとにする。

「お前も大変だな」

私がそう言うと、

「…まったくだよ」

と言って、アイザックはため息を吐いた。


「で、話は戻るが、ウサギは早めに対処したほうがいい。あいつらは一気に増える。後回しにすると面倒だ。…その書類みたいにな」

と私がやや皮肉っぽく言うと、

「うっせーよ。…でもまぁ、たしかにそうだな」

アイザックはふてくされてそう答える。

「どうする?罠を仕掛けるんなら、炭焼きの連中に声をかけて協力してもらうが」

私がそう提案すると、アイザックは、

「ああ。しかし、その前に原因を探りてぇ。今のところ目立ったことは報告されてねぇからベテラン連中に頼んでもいいが、この時期は熊が多い。あいつらも稼ぎ時なんだ」

と言った。

たしかにそうだ。

原因究明は必要だし、冒険者の懐具合にも配慮してやらねばならない。

ギルドマスターなら当然の配慮だし、村の経済の一翼を担ってくれている冒険者の懐が痛むことは私も避けたい。

そう思った私は、

「そうだな。よし、急ぎじゃなければ私が対応しよう」

と言って、調査の役目を請け負った。


「ああ、そうしてくれると助かる」

と言ってほんの少しだけ申し訳なさそうな顔をするアイザックに、私は、

「どうってことはない」

と言い、私はもう一つ気になっている狼のほうの状況を聞いた。


「それから、狼だったな?」

「ああ、そいつは行商の護衛の連中に気を付けろって言えばそれで済むんだが…」

「そうだな。しかし、気になる」

「ああ。ウサギが増えてるんだったら、なんで街道に出てきやがるのか…」

と言って考え込むアイザックに私は、

「もしかしたら、ウサギが増えた原因となにか関連があるのかもしれないってことか?」

と言って、「何か思い当たるふしでも?」と目で聞いてみた。

「いや、まだそいつはなんとも言えねぇが、どうもなにかが引っかかる」

と言って、アイザックは思案顔になる。

たしかに、話を聞いていると、冒険者としての勘が少しざわつく。

「…そうだな」

と言って、私はアイザックの懸念に同感しつつ、

「ともかく、コッツたちをしっかり守ってやってくれ。あいつにもしものことがあったら大損害だ」

と言って、まずは街道の安全を確保してくれ、とアイザックに頼んだ。


「ああ、わかってる。そっちは任せとけ」

と言ってくれるアイザックに、

「伯爵はあと4日ほどでお帰りになる。もう一人の客人もおそらくそのくらいだろうから、その後森に入ってみるさ。それまでに詳しい場所と数をまとめておいてくれ。…その書類が片付いたらな」

と言って私はまじめな話の最後にアイザックをからかってやった。


「ちっ…。お前はこっち側の人間だと思っていたんだが…。すっかり説教くさくなりやがって」

と言って恨めしそうな顔で悪態を吐くアイザックを私は、

「ふっ」

と軽くはなでわらい、

「お前もそのうちわかるようになるさ」

と言ってやった。

するとアイザックはまた私を恨めしそうな顔でにらみながら、

「まったく、お偉くなったもんだ」

と言うので、私は、

「偉いんだよ、実際。まぁ、お前も責任ある立場になったんだ。それなりにしっかりやれよ」

と言ってやる。

アイザックはまた、

「あぁ、言われなくてもわかってるさ…。わかっちゃいるんだがなぁ…」

と言って盛大にため息を吐いた。


「まぁ、私の場合、きちんと仕事をこなさないとアレックスが森に行かせてくれないから、仕方なくってところもあるがな」

とあえて茶化すようにそう言うと、アイザックは、

「相変わらずだな、お前は。まったく、俺も久しぶりに狩に行きたいもんだ」

と言って本日何度目かわらないため息を吐いた。


「ほう、なら今度一緒に行くか?」

と私がからかい半分にそう言うと、

「いや、お前と違って俺は所帯持ちだからな。無理はできねぇ。それにこの鈍った体じゃ森の入口辺りが関の山さ」

と言って、腹をさする。

「お前も老け込んだなぁ。あんまりオヤジ臭くなるとリーサに愛想付かされるぞ?」

と私がそう言ってまたからかうと、

「うっせー。いつまでたっても独り身のお前ぇにはわからねぇんだよ」

と言ってまた悪態を吐いた。


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