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第48話バンとマリーとリーファちゃん08

~~リーファ視点~~

「あらあら。そんなことがあったのね。うふふ。バン様らしいですわ」

と言って、マリーがさもおかしそうに笑う。

「ああ、まったくだよ」

と私も少し呆れたように笑った。

「うふふ。まっすぐでお優しい方なのね。とっても素敵だわ」

と正直に言うマリーに私は、

「おや?マリーはバン君を憎からず思っているのかい?」

と、を少しからかうような口調でマリーの顔を覗き込みながら聞く。

すると、

「…まぁ、リーファちゃんったら…。いやよ、そんなこと言っちゃ…」

そう言って、マリーは少し頬を染めた。

「はっはっは。からかいすぎたかな?まぁともかく、そのうちバン君と一緒に気兼ねなくおやつを楽しめるようになるためにも早く良くならないとな」

と私が軽く言うと、

「もぅ…」

と言って、マリーは頬を膨らませる。

私はそんな子供みたいなマリーを微笑ましく思いながら、

「はっはっは。じゃぁそろそろ今日の治療を始めようか」

と言い、

「はーい」

と、答えるちょっとむくれたような顔のマリー背中に手を当てた。

一通り、治療が終わると、マリーはうっすらと汗をかいてはいるものの、どことなくすっきりとしたような表情で、

「でも、これって不思議ね。最初は背中だけだったけど、最近はもっとお腹の方までポカポカするようになってきたのよ?」

と言う。

私は、嬉しくなって、

「それは良かった」

と言って笑顔を浮かべた。

「うふふ。おかげでお食事も前より食べられるようになったし、だるさも減って、起きていられる時間も長くなったわ」

そう言うマリーに、私は、

「確実に良くなってきているね。どうやら魔素の循環も良くなってきているようだ。魔力操作も前より向上している。…しかし、油断は禁物だよ?ここで無理をしたら元も子もないからね」

と言って一応釘を刺す。

すると、マリーは、いつものように微笑みを浮かべながら、

「わかっているわ、リーファちゃん。でもこの調子なら、そのうち、お父様にもお会いできるかもしれないわね」

と言って嬉しさの中にほんの少しの寂しさを混ぜたような顔をした。

私はそんなマリーを励ますように、

「ああ、そうだ。そういえばバン君が近々君の父君に報告の手紙を出すと言っていたよ。その時、小さな刺繍の一つもあれば、父君は喜ばれるんじゃないかと言っていたが、そのくらいの気力は戻ってきたかい?」

と聞いてみる。

するとマリーは一瞬でいつもの明るい笑顔を取り戻し、

「あら、素敵!そうね。そのくらいなら大丈夫よ。お父様の好きなお花でも刺繍して差し上げようかしら、うふふ」

と無邪気に喜んだ。

それを見て私は、

「はっはっは。それはいいかもしれんが、無理はいかんぞ?ハンカチかなにかに小さく刺繍する程度にしておいてくれ」

と笑顔で軽く窘める。

「…ええ、わかったわ。そうね、無理はいけないわね。私我慢するわ」

と、少し残念そうに言うマリーに、私が、

「ふふふ。いい子だ。完成したらさっそくバン君に届けよう」

と言うと、マリーは、

「ええ、お願い。うふふ、きっとお父様喜んでくださるわ」

と言って心から嬉しそうに微笑んだ。

「ああ、そうだね」

「うふふ」

そんなやりとりをして、2人して微笑みあう。

そして、今日の診察も無事に楽しく終了した。

帰り際、玄関まで送り届けてくれたメルが、

「本当によろしゅうございました。日に日にお元気になられていくお嬢様を見ていると…」

と言って少し涙ぐむ。

「おいおい…。気持ちはわかるが、まだまだ勝負はこれからだよ。君たちも気を抜かず、マリーの様子には十分に気を付けてくれ?」

と言うと、メルは、

「はい!もちろんでございます」

と気を引き締めるようにそう答えてくれた。

私はそんなメルに、微笑みながら、

「ああ、頑張ってくれ。…そうそう、近いうちにドーラさんにプリンの作り方を習いに行くといい。あれはマリーの体にもよさそうだし、またみんなで食おう」

と伝える。

「はい!」

とまた、真剣な表情を浮かべるメルに私は、もう一度、

「よし、じゃぁくれぐれもマリーに無理はさせないでくれ。うれしいからといって張り切り過ぎるとまた寝込んでしまうことになりかねないからね」

と念を押した。

「かしこまりました。必ず」

と言うメルに軽くうなずき、私は屋敷の方へ足を向ける。

そして、後ろから聞こえる、

「本日もありがとうございました」

という声に後ろ手に手を振りながら、離れを後にした。

~~村長視点~~

ギルドで注文を終えると、私はさっそく役場に向かう。

「おはようございます」

と淡々と挨拶をしてくるアレックスに、

「すまなかった。食べ物のことになるとついつい気がせいてしまう。悪い癖だとはおもうんだが、こればっかりなは…」

と私が頭を掻きながら言い訳をすると、アレックスから、

「もう慣れました」

という一言を返された。

(なんというか、実に物分かりがいいというか、良過ぎるというか…。この歳でずいぶんと達観した男だなぁ)

と思いながら私は自分の机につく。

しかし、この日もさして急ぎの案件はなかった。

ただ、そろそろ収穫の時期が迫ってきている。

野菜の収穫は夏が盛りだ。

特にイモ類やツルウリなんかは厳重に管理した方がいいだろう。

しっかりと備蓄して、冬に備えなければならない。

村ではジャガイモに似た丸イモの生産が盛んだが、サツマイモことアマイモはあまりとれないが、今年はコッツの行商があるから、冬場になったら辺境伯領の南の方から、村の丸イモと交換するような形で仕入れられるはずだ。

(焼き芋にスイートポテト、寒天ことトロミが手に入れば芋ようかんもいける。村の食卓がさらに豊かになるな。実に楽しみだ)

そんなことを思いながら、書類をめくった。

米はやはり順調なようだ。

その後は蕎麦の収穫が始まる。

こちらも例年通りとのことだから、蕎麦酒の仕込みは例年通りに戻してもらってもいいかもしれない。

その辺りをアレックスと世話役で調整してもらうことにした。

リンゴや柿は豊作。

リンゴは干したりジャムにしたりして保存する。

一応、その場合に必要になる設備について考えるが、

(そろそろ、干場を作らないといけないな。竹材の備蓄を確認しておいた方がいいだろうか?去年の物がまだ使えるようならいいが、おそらく足りないだろう。まぁ、炭焼きの連中も世話役の爺さんたちもわかっているだろうからそこは任せてもいいか)

と、こちらは村人に任せることにした。

他で言えば、そろそろアップルブランデーを仕込み始める頃。

まだ作り始めて数年だからどの酒も若いが、そのうち極上の物が出来上がる予感がしている。

こちらも楽しみで仕方ない。

(そういえば、ドーラさんからそろそろ料理用のシードルが足りなくなってきたと言われていたな。あれで作るイノシシの煮込みは美味い。私はあまり飲まないが、もしかしたらリーファ先生は好きな味かもしれない。少し多めにもらっておこういつもは小瓶で2,3本だから今回は5、6本くらいか?)

と、そんなことを考えつつ、書類に目を通していたら、ふとアレックスが思い出したように、

「ああ、そういえば村長」

となにやら思い出したようにそう聞いてきた。

私が、

「ん?」

と答えると、

「村長は今日なにかギルドに要望を出しにいかれたんでしたよね?」

と言う。

「ああ。ちょうど明日にはアレスの町へ向かうっていう冒険者がいたから急ぎで頼んでおいたよ。で、それがどうした?」

私がそう聞き返すと、アレックスは、

「いえ。昨日、ギルドへ暖房の魔道具の件で確認にいったら、先日コッツさんが来たときに置いていった仕入れられるものの一覧がありまして、その中にありましたよ」

と何気なくそう言った。

私が、私が喜色を浮かべて、

「お!そうか」

と言うと、アレックスは、

「一応、ほかの要望なんかと併せてギルド便で送ってもらうように依頼しておきましたが、明日送られるのであれば、1,2カ月で届くでしょうね」

と言う。

「そいつはよかった。寒くなる前には十分間に合いそうだな」

私がそう言うと、アレックスは、

「ええ、大丈夫かと」

といつものように淡々と答えてくれた。

ひとまず、諸々の冬支度は順調なようだ。

そう思ってほっとしながら、また書類をめくり、やがて今日の仕事が終わる。

「確認も終わりましたし、今日も午後はご自由にどうぞ」

とアレックスが言うので、私が、

「そうか。じゃぁ、稽古でもしよう」

と言うと、アレックスから

「…お好きですねぇ」

と少し呆れたような表情でそう言われた。

「ん?まぁ習慣だし、冒険者の基本だからな」

と私が言うと、アレックスは、

「村長の仕事も忘れずにお願いしますよ?」

と、すかさずくぎを刺してくる。

私はやや動揺しながらも、

「…ああ、もちろんだとも…」

と言って、アレックスにジト目を向けられながらも、今日もトーミ村が平和であることに感謝しつつ、役場を後にした。

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