ドーラさんにじゃぁよろしく頼むと言い、
「午後の仕事は休みで良いそうだから庭で刀でも振っているよ」
と言って、さっそく裏庭に出る。
すると、ちょうとズン爺さんが井戸の所で水を汲んでいたので、手の空いた時にギルドへ行って、今年の冬は5つほど魔道具のヒーターを使うから、その魔石を確保しておくよう依頼してきてくれないか?と伝言を頼んだ。
ズン爺さんは快く引き受けてくれて、さっそく行ってくれるという。
そんな雑用を引き受けてもらい、私は改めて木刀を取ると、いつもの朝稽古の場所で稽古を始めた。
丹田に気をため、ゆっくりと型をなぞっていく。
やはり思うようにはいかないが、それでも昨日よりは少し感覚がつかめるようになっているようだ。
そんなかすかな手応えを感じつつ、私は長い間木刀を振り続けた。
~~リーファ視点~~
プリンという謎の食べ物について思いを馳せながら、私はルビーとサファイアを連れて離れ訪ねる。
「やぁ、マリー調子はどうだい?さっきの治療は疲れたんじゃないかい?」
私が気軽にそう声を掛けると、マリーは、
「あら、リーファちゃん。うふふ。たしかにちょっと疲れたけど、おかげですっきりもしているのよ。それにルビーちゃんとサファイアちゃんが来てくれたんですもの、すっかり元気になってしまったわ」
と微笑んで、ルビーとサファイアに手招きをして呼び寄せた。
「きゃん!」
「にぃ!」
と鳴いて、ルビーとサファイアがマリーのベットのもとへと近寄って行く。
「うふふ。ようこそいらっしゃい。さぁ、今日はお姉さんと遊びましょう?」
そう言って、マリーはメルに頼んでベッドの上に2人を招いた。
「うふふ。2人とも本当にお利口さんね」
マリーが2人を撫でながらそう言うと、
「きゃん!」
「にぃ!」
と2人は元気よく返事をする。
「あらあら。じゃぁ、そんなお利口さんの2人には特別にお姉さんのお人形さんを貸してあげるわね。大切に遊んでくれるかしら?」
「きゃん!」
「にぃ!」
(もちろんだよ!)
という2人をマリーがまた軽く撫で、
「うふふ。メル。お人形の入った箱を取ってきてくれる?」
と、メルにおもちゃを取って来てくれるように頼んだ。
「はい。かしこまりました」
そう言って、メルはクローゼットを開けると、かわいい飾りのついた衣装箱を持ってきて、
「どれになさいますか?」
とマリーに聞く。
「うーん。どれにしようかしら?ねぇ、ルビーちゃんとサファイアちゃんはどれがいい?」
マリーはそう言って、まずはルビーを抱えて箱の中身を見せた。
「…んなぁー…」
ルビーはしばし迷っていたようだが、
「にぃ!」
と鳴いて、デフォルメされたコッコのぬいぐるみをテシテシと叩き、これがいいと意思表示する。
「あら、これがいいのね。はいどうぞ」
といって、マリーはルビーにその鳥のぬいぐるみを渡すと、
「じゃあ、今度はサファイアちゃんね」
そう言って今度はサファイアを抱き上げ、同じように箱の中身を見せた。
サファイアも少し迷っていいたようだが、すぐに、
「きゃん!」
と鳴いて、
ウサギのぬいぐるみを指名する。
「うふふ、2人ともかわいらしいのを選んだわね。じゃぁ、お姉さんはこの女の子のお人形にしようかしら。うふふ、これはね、小さいころにお母様から初めていただいた大切なぬいぐるみなのよ。ちょっと汚れてしまっているけど、お姉さんにとってはとても大切な思い出の品なの」
そう言って、マリーが、優しい眼差しでそのぬいぐるみを見つめていると、ルビーとサファイアは、
「くぅん…」
「なぁ…」
やや寂しそうな表情で鳴いた。
きっと何かを察したのだろう。
「あらあら。ちょっと心配をかけてしまったわね。でも大丈夫よ。もう10年も前のことだから、今はとってもいい思い出なのよ。さぁ、一緒におままごとをしましょう?」
マリーはそう言って笑う。
そして、2人と一緒にピクニックごっこを始めた。
私はメルに淹れてもらったお茶を飲みながらその光景を微笑ましく眺める。
給仕をしているメルも同じように幸せそうな表情でその光景を見つめていた。
そして、そんな幸せな時間にさらなる幸せが訪れる。
「お嬢様、今しがたドーラさんがプリンというものを持ってきてくださいました」
ローズのそんな声が聞こえた途端、私はつい興奮してしまって、
「おおっ!ついに来たか!」
と叫ぶと、まじまじと、そのプリンとやらが乗った皿に見入ってしまった。
私はそこでふと我に返り、
「…おっと。これはマリーへの差し入れだったな。いや、すまん。楽しみにしていたからつい興奮してしまったよ」
と照れながら頭を掻く。
しかし、マリーは、
「あらあら。リーファちゃんは食いしん坊さんだったのね。うふふ…。でも私はあまり食べられないから…」
と言って、最初は笑顔を浮かべたものの後半はなんとも寂しそうな顔になってしまった。
そんな顔を見て、私は、
「ああ、それなら大丈夫じゃないか?見たところ柔らかそうだし、甘くて滋養があるそうだ。一度で食べきれなければ夕食のときにでもまた食べればいいだろう」
とあえて気楽そうにそう言ってマリーを促がす。
すると、マリーはちょっとだけほっとしたような表情を浮かべ、
「まぁ、そうなの?なんだか楽しみね。いったいどんなものなのかしら?」
と興味津々と言った感じで、そのプリンとやらが乗った皿の方に目をやった。
「バン君曰く、卵を使うそうだが…。匂いは甘いな。うん。実に美味そうな匂いだ」
私がそう言うと、ローズも、
「ええ、とってもいい匂いがしていますよ、お嬢様。さっそくご準備いたします」
と言い、陶器の器に入った、それを私とマリーに渡してくれた。
「ローズとメルも一緒に食べよう。こういうのはみんなで食った方が美味くなる」
私がそう言うと、マリーは嬉しそうに微笑んで、
「あら、それはいいわね。ぜひそうしましょう。…ルビーちゃんとサファイアちゃんも食べられるかしら?」
と2人に聞く。
私は一応心配して、
「あー、それはどうかな?卵と…砂糖が入っているようだが…少量ならいいのか?」
と言うが、2人は、
「きゃん!」(平気だよ!)
「んにゃ!」(食べるもん!)
と元気に答えた。
私はそんな2人の答えに苦笑いすると、
「あはは、そうかそうか。うん。2人にも少し分けてあげよう。ローズすまないが2人に小皿をもってきてあげてくれ」
とローズに頼む。
そして、ローズが、
「はい。ただいま」
と言って、小皿を持って来ると、いよいよ私たちはそのプリンとやらを食べることになった。
「よし、そろったな。早速いただこう。では、まずマリーから食ってみてくれ」
私がそう促がすと、マリーは、
「あら、私からでいいの?」
と少し遠慮したような口調でそう言う。
しかし私が笑顔で、
「もちろん、これは君のために作ったものらしいからね」
と答えると、マリーは、やや恐る恐るといった感じで、ほんの少量を掬い取り、
「そう?じゃぁいただくわね」
と言ってプリンを口に入れた。
「…っ!」
口に入れた瞬間、マリーは、無言で目を見開いて、プリンをまじまじと見つめる。
「ど、どうされました、お嬢様!」
ローズが慌てたようにマリーに聞くと、
「美味しいわ!」
とマリーは目を輝かせてそう言った。
「甘いの!とっても甘くて、とろっとしているのよ。これなら私でも食べられそうだわ」
と興奮気味に言うマリーの顔を見て、私はなんとも言えない喜びを感じると、
「おお、それは良かったな、マリー。よし、ではさっそく我々もいただこう」
と言って、さっそく一口食べてみる。
そして、口に入れた瞬間、
「むっふーっ!」
と、つい叫び声を上げてしまった。
「美味い。これは美味いぞ!なめらかな舌触りと濃厚な甘さ。それにこの茶色いソースの香ばしさが黄色い所の濃厚な甘さとちょうどよくあっていて、お互いを引き立てあっている。素晴らしいおやつじゃないか!それに、これならマリーでも食べられる。いや、ぜひ食べたまえ!ドーラさんの言う通り、これは滋養がありそうだ」
と興奮してまくし立ててしまう。
そして、メルとローズにも食べるよう促すと、2人も、
「美味しい!美味しいです、お嬢様」
「はい、とっても甘くて、なめらかで…。こんなお菓子食べたことがないです!」
と言って、2人ともそのプリンなるものを絶賛した。
「きゃん!」
「にぃ!」
ルビーとサファイアがこらえきれないと言った様子で、マリーに訴えかける。
「あらあら、ごめんなさい。あまりの美味しさに一瞬我を忘れてしまっていたわ。メル、お願いしていいかしら?」
マリーがメルに取り分けを頼むと、メルは、
「はい、お嬢様」
と言って、プリンを一口ずつ、小皿にとりわけてルビーとサファイアの前に置いた。
すると、2人はすぐに食べ、
「きゃん!」
「んにゃっ!」
と目を見開いて鳴く。
「うふふ。2人とも美味しかったのね。よかったわ。あら?もう一つあるのね。きっとドーラさんが2人の分も作ってくれたんだわ。うふふ。たくさん食べてね」
と2人をまた笑顔で撫でた。
すると、2人は、
「きゃん!」
「にぃ!」
と鳴いて、メルがさらに取り分けてくれたプリンをガツガツと食べ始める。
マリーはそんな2人に、まるで子供に話しかけるようにして、
「うふふ、よかったわね。こんなに素敵なおやつがいただけて。あとで、ドーラさんにちゃんとお礼を言いましょうね」
と言うと、また優しく撫でてあげた。
「きゃん!」
「にぃ!」
と、ルビーとサファイアが嬉しそうに鳴く。
マリーも、
「うふふ、お利口さんね」
と言って、みんなで過ごすこの幸せな時間をかみしめるように目を細めると、もう一口プリンを口に運んだ。