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第43話バンとマリーとリーファちゃん03

それから会談…というよりもおしゃべりは和やかに続いたが、やはり無理をさせるのはいかんだろうと思って、

「いや、ともかく今日は無事に挨拶ができてよかった。少し調子が良くなったのはいいことだが、くれぐれも無理はしないでくれ。今日はこの辺りでお暇する」

と言って、早々にその場を辞すると告げる。

「あら、それは残念ですわね…。もう少しお話をしたかったのですが…」

と言ってマルグレーテ嬢、もといマリーは心から残念そうな顔をした。

しかし、私は、

「いや、やはり無理はいけない。もし何かあればエインズベル伯爵に申し訳が立たんからな。これからも、リーファ先生の指示に従って十分に療養してくれ」

と言って、リーファ先生の方へ目を向ける。

すると、リーファ先生も、軽くうなずき、

「うん、バン君の言う通りだ。無理はいかん。なに、またいつでも会えるさ。なんなら、今度はルビーとサファイアも一緒に連れて来よう」

と言って、私の意見に賛同しくれた。

すると、マリーは

「あら、それは楽しみですわ!ルビーちゃんもサファイアちゃんもとってもかわいらしいんですもの。調子も良くなってきたから、今度は是非一緒に遊びたいわ」

と言って先ほどとは打って変わって嬉しそうな表情を見せる。

(どうやら、うちのペットはどうやら受け入れられているらしい。良かった。やはりペットセラピー的な効果があったようだな。よくやってくれた。帰ったらおやつでもやろう)

と、そんなことを思いつつ、立って見送ろうとするマリーを制して、その場を辞した。

帰りはメリーベルが玄関まで送ってくれる。

玄関先までくるとメリーベルは、私に向かって、

「本日はありがとうございました。あのように嬉しそうに笑うお嬢様を久しぶりに見られて私たち姉妹も大変うれしゅうございました。また、ぜひお越しください。…あと、妹がなにやら不躾なお願いをしたようですが、どうか、許してやってくださいませんでしょうか?…あれは私とは違って幼いころから剣が大好きでしたから…」

と、遠慮がちに妹のことを頼んできた。

「ああ、かまわんとも。我流の剣術だが、なにかの参考になれば幸いだ。私は自分のペースでやっているから、時間のある時はいつでも見に来いと伝えてくれ」

私がそう言うと、メリーベルは、

「ありがとうございます」

と嬉しそうに笑う。

(なんとも妹思いの良い姉だな)

と思いながら、私たちは屋敷へと戻って行った。

屋敷に戻ると、とりあえず服を着替える。

時刻はまだ夕方前。

どうしようかと迷ったが、ギルドに復帰の挨拶に行くことにした。

なにか土産の一つでも持って行った方がいいだろうと思って、ドーラさんに聞いてみると、イノシシの味噌漬けがあると言われたが、それは断固拒否する。

「うちで食う」

そう言うとドーラさんは笑いながらソルという鮭に似た魚の塩漬けを一本用意してくれた。

どうやらコッツがたくさん仕入れてきてくれたらしい。

この村では魚は珍しいから喜ばれるだろう。

私はドーラさんかソルを受け取ると、

「ああ、そうだ。ルビーとサファイアになにかおやつでもあげてくれ。マリーの慰みになってくれた礼だと言ってな」

と言って、さっそくギルドへと向かう。

ギルドに着くと受付にはサナさんがいた。

「やぁサナさん、アイザックはいるか?」

「こんにちは、村長。ギルドマスターなら2階におりますが、お呼びしますか?」

と言うサナさんに、私は、

「ああ、いや、私が行く。ああ、そうそう。私が寝ている間、アレックスを手伝ってくれたらしいな。ありがとう」

と礼を言う。

すると、サナさんは、

「いえ、お気になさらず」

といつものようにそっけなく答え、

「こちらへ」

と、私をギルドの2階へ案内してくれた。

(そう言えば、この村にギルドが出来て、もう3年くらいか。時が経つのは早いものだ)

そんなことをふと思う。

そして、

(あの時はまさかアイザックがギルマスになるとは思わなかったし、前ギルマスことドン爺さんが一緒に来てくれるとも思わなかった。あの当時たまたまギルド内で私にはわからんいざこざがあったらしいが、ただ、それがきっかけで村のギルドに2人が来てくれることになったんだから、言っちゃ悪いが、私にとっては幸運だったな。やはり知り合い同士だと仕事がしやすい)

と、これまでのことを思い出しながら、ギルマスの執務室へ入っていった。

「よお、アイザック。この間はすまんかった。鍛冶屋の所の仲裁をしてくれたそうじゃないか。ありがとう」

「ん?ああ、そのくらいたいしたことじゃないさ。で、そいつはなんだ?」

と言って、アイザックは目ざとく私が持っているソルの塩漬けに目をやる。

「ああ、一応礼だ。リーサちゃん…いや、もう『ちゃん』って歳でもないな…。リーサに渡してくれ。いい肴になるぞ」

そう言って、アイザックにソルの塩漬けを渡すと、

「おお、こいつぁいい。リーサの奴も喜ぶだろうよ。ルッツの町にいた頃はたまに食ってたんだが、この村じゃなかなか手に入らないからな。コッツ様々だぜ」

そう言ってアイザックは「がはは」と笑った。

するとそこへ、サナさんがお茶を持ってきてくれる。

「すまんな」

私がそう言うと、

「いえ」

と、いつものように短く返事をして、お茶を差し出してくれた。

「そういえば、サナさんもこの村に来て3年くらい経つんだよな…。どうだい村の生活は?」

「毎日楽しく過ごさせていただいております」

「そうか、そいつはよかった。しかし、なにかあったら遠慮なく言ってくれ。村の生活を向上させるのも村長の仕事らしいからな」

私が苦笑交じりにそう言うと、アイザックが茶々を入れてきて、

「おいおい、ずいぶんと立派なことを言うようになったじゃないか。まったく、あのバンが誰かの心配ができるようになろうとはねぇ…。大人になったな」

といって、また豪快に笑う。

「はっ。うるせーよ」

私も笑いながらそう返して、その場は和やかに終わった。

屋敷にもどると、ちょうど庭木の手入れをしていたズン爺さんに、

「ただいま」

と挨拶をする。

すると、ズン爺さんは、

「お帰りなさいやせ、村長。どこかへ行ってらしたんで?」

と、珍しく玄関から入って来た私にそう聞いてきた。

「ああ。ギルドへ行ってきた。私が寝込んでいる間アイザックにも世話になったみたいだからな」

私がなんとなくそう話すと、ズン爺さんは、

「ああ、あの鍛冶屋の件ですかい?まったく、人騒がせなことで」

と言って、苦笑いを浮かべる。

「まぁ、そうだな。しかし、結局あの夫婦は仲が良いってことが証明されたようなものじゃないか。夫にやきもちが焼けるってのは愛し合っている証拠だ」

と言ったが、そこで私は、ふと自分が独身であるという当たり前のことに気が付いて、

「まぁ想像だがな」

と苦笑しながら付け加えた。

どうやら、私は恋愛というものに縁がないらしい。

しかし、それを不満に思ったことも無ければ、なぜだろうかと考えたことも無い。

実に不思議なものだ。

毎日、それなりに楽しい。

冒険者としても充実した日々を送ってきたし、今の村長生活も悪くない。

美味い飯に穏やかな日々。

たまの森歩きで気分転換もできる。

(しかし、こういう感覚は普通ではないんだろうか?)

と、ふとそんなことを思い、一瞬だが考え込んでしまった。

「村長、どうなすったんで?」

ズン爺さんにそう声をかけられて、はっとする。

「ああ、いや。ちょっと考え事をな…」

そう言うが、なんとなくついでだと思って、ズン爺さんに聞いてみた。

「そういえば、ズン爺さんは結婚したことはあるのか?」

「いえ。ついぞそんなもんには恵まれませんでしたねぇ。まぁ、それをさみしいとか不満だとかって感じたこともありゃしやせんが」

とズン爺さんは苦笑いでそう言う。

「ああ、いや、そうか。すまんな突然変なことを聞いてしまって…」

「いえ、かまいやしませんが…。なんです?村長もついにそういうおつもりになったんで?」

と、少しにんまりとして私の顔を覗き込んでくるズン爺さんに、私はやや慌てて、

「いやいや!そんなつもりも予定もない。…ただ、ふと疑問に思ったんだ…。なんで私は今まで結婚だとか恋愛だとかに全く意識が向かなかったのかってな…」

と先ほど疑問に思ったことを正直に告げた。

するとズン爺さんは、少し不思議そうな顔をして、

「…あんまりお悩みにならんでもいいじゃないんですかい?村長が今の生活にご不満をいだいてるってんなら話は別ですが…」

と何でもないことの様にそう言ってくる。

そんな言葉で私はまた、はたと気付いて、

「ん?いや、なんの不満も無いぞ?…ああ、そうか。不満が無ければ問題ないよな…。うん。そうだな。すまん、なんだか考えすぎていたようだ。ありがとう。おかげですっきりしたよ」

と、なんだか憑き物が落ちたような気持ちになってズン爺さんに礼を言った。

「へぇ、ご参考になったんでしたらようござんした。ところで、今日の飯はなんでしょうねぇ?」

と言って、ズン爺さんが小さく笑う。

おそらく気を遣って話題を変えてくれたんだろう。

「ああ、昨日のイノシシ肉の残りを味噌漬けにしたと言っていたからきっとそれじゃないか?」

と私が何となく答えると、ズン爺さんは、

「へぇ、そいつぁ楽しみですなぁ」

と言って笑った。

「ああ、あれはいい。飯が進む」

私がそう言うと、ズン爺さんが、

「はっはっは、そうでなぁ。しかし、あれは酒のあてにもようござんすよ」

と言ってニヤリと笑う。

「はっはっは。そうだな。よし、今夜は酒もつけてもらおう」

と私が笑うと、またズン爺さんは、

「いいですなぁ」

と言ってニヤリと笑った。

私とズン爺さんはそんな会話をしながら屋敷の中へと入って行く。

私の頭の中はいつの間にか今夜の飯のことでいっぱいになっていた。

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