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第26話村長、薬草を取りに行く04

2人とも一通りの作業を終え、先ほどの水場に戻る。

水を補給し、小休止を取っていると、リーファ先生に、

「しかし、相変わらずだねぇ、バン君は」

と言われた。

「ん?なにがだ?」

私が聞き返すと、リーファ先生は苦笑いしながら、

「そういうところがだよ」

と言う。

どういう所がそういう所なのか全く分からなかったが、私はここもまだ危険な地帯だということを忘れずに、

「なんだかわからんが、さっさと行こう。もうじき暗くなる。その前にとりあえず、さっきの尾根のあたりまでは出たい」

と言ってリーファ先生に先を促した。

急いだが、やはり尾根に着く手前で暗くなり始める。

まだ尾根の上に出るにはもう少しかかるだろうが、森はやや開けてきた。

いい頃合いかもしれない。

そう思った私は、

「どうする?無理してでもまだ歩くかい?」

と聞いてくるリーファ先生に、

「…いや、ここらで野営にしよう。もちろん普段みたいにゆっくりはできないが、少し仮眠をとるくらいはできるはずだ。まずはある程度疲れをとって、明日、陽が昇り始めるころに出発しよう」

と提案する。

「わかった、荷物の整理もあるし、そうしようか」

と言って賛成してくれたリーファ先生と一緒にさっそく付近で野営に適した場所を探し始めた。

やがて、大きな岩を見つけたので、そこにタープを張る。

簡単な行動食を腹に入れ、いつもの薬草茶をすすりながら、明日の予定を確認した。

「明日は東へ動きたい。適当な場所を見つけたら、おそらくそこで野営になるだろう。で、明後日がまた本番だ…途中で他の薬草も見つけたら採取していこう。少しでも効率を上げたい」

そんなリーファ先生の提案に、

「そうだな。帰りは2,3日くらいだろうから、できれば明後日には結果を出したいところだが…無理はできないぞ?」

と言って賛同しつつも、念のために注意しておく。

「はっはっは。わかっているさ。特に今回は人ひとりの命がかかわっているからね。おうちに帰るまでが冒険さ」

と言って、リーファ先生は笑い、地図で簡単に位置を確認すると、

「じゃぁ、休もうか。あとは任せたよ」

と言って、さっさと寝袋に入ってしまった。

私も

「ああ、おやすみ」

といって簡単に布にくるまる。

そして、いつものように浅いようで深い眠りに落ちていった。

翌朝。何事もなく目覚める。

まだ夜明け前。

いくつか獣の気配は感じたが、殺気は感じなかった。

おそらく遠くで様子を見る程度だったのだろう。

意外と平和な夜だった。

「やぁ、おはよう」

そういって、リーファ先生がもそもそと起き上がってくる。

私も短く、

「おはよう」

と返すと、さっさと朝食の支度を始めた。

干し肉を挟んだパンと干し果物、それに薬草茶の簡単な朝食はすぐに出来上がる。

私たちはそんな簡単な朝食を手早く済ませると、荷物の整理をし、さっそく出発した。

地図を指さしながらリーファ先生は、

「今日はこの辺りを目指そう。地形からみて、その途中でだいたいのものが揃うはずだ」

そう言って、いくつかの地点をなぞるようにルートを示す。

「わかった。その辺りなら魔獣もそんなにいないはずだから、予定通りに進めるだろう」

私がそう答えると、リーファ先生は地図を見ながら、なにやらうんうんとうなずいてルートを再確認しているようだった。

午前中。

やや大きな薬草の群生地を見つける。

幸運なことにそこには求めていた薬草が数種類生えていて、十分な量が確保できた。

リーファ先生曰く、残りも今日中には採取できるだろうとのこと。

薬草を採り終え、再び荷物を背負いながら、私は何となく気になって、リーファ先生に、

「ちなみに、今回採取した薬草でどのくらいの期間もつんだ?」

と軽く問いかける。

すると、リーファ先生は、

「普通のやつはおおよそ1年分かな?いつでも採りに来られるようなものだから、そこまでの量は必要ないよ。まぁ…それ以外は…一生分くらいはあるね…」

と少しうつむきながらそう言った。

なんとも気まずい空気がその場に漂う。

(…バカか)

自分の軽率な発言に自己嫌悪しながら、私は、

「そうか。使うことにならなければいいな…」

と力なく言葉を発した。

しばらく歩くと灌木の林に出る。

下草の間を縫うように小川が流れていて、何も無ければ絶好のピクニックスポットといった感じの場所だ。

そんな一見長閑な場所を、二人して、野草や茸を適当にちぎりながら歩き、開けた場所を見つけると、そこに布を敷いて背嚢を降ろした。

「とりあえず、お茶を淹れてくれないか?」

リーファ先生は肩のあたりを少し伸ばしながらそう言った。

今日で5日目。

それなりに疲れているのだろう。

かく言う私もそうだ。

へばるほどではないが、疲労の蓄積は否めない。

なるべくなら、明日には結果を出してしまいたい。

そんなことを思いながら、小川の水を沸かしてお茶にした。

「やはり、魔素の濃い自然の中で飲むお茶は美味いね…」

そう言うリーファ先生に、ふと思いついて、

「そういえば、昔診察してもらった時に、『君は魔素欠乏症気味か?』なんて聞かれたが…。このお茶はそれに効くのか?」

と聞いてみる。

すると、

「ああ。多少はね。ところで、この頃体調はどうだい?見たところ異常はなさそうだが…疲れやすいとかそんなことはないかい?」

とリーファ先生が聞き返してきた。

「…いや?特には無いな。昨日みたいに集中して刀を振るうと多少疲れるようにはなったが、それは歳のせいだろう」

と私はそうやや自虐的に答える。

「…いや、あれだけのことをしておいて、多少の疲れで済んでいるというのは十分におかしなことなんだがね…」

と苦笑いしながらリーファ先生がそう言うので、

「…と、言うと?」

と私は何気なく、そう聞き返した。

そんな気軽な私の質問にリーファ先生はやや真剣な顔になると、

「君のことだからおそらく、昔から自然にやっていて、特に不思議には思っていないんだろうが、君の身体強化というか、集中強化というか…あの状態は普通では到達できないものなんだよ」

と言った。

私はいまひとつ理解できなかったが、そういうものなのか?という感じで、

「…なるほど…」

と返す。

「…まぁ、その辺の鈍感さがバン君らしいといえばバン君らしいが…。しかし、これだけは覚えておいてくれ。君の魔力操作はいわゆる達人の域に達している。しかし、それとは真逆に、体の魔素の流れは悪い。とにかく、なにがなんだかよくわからない状態にあるんだ。だから普段から気を付けなくちゃいけないし、何かあったらすぐに教えてくれよ?」

とリーファ先生はかなり真剣な目を私に向けながら、そう言った。

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