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第24話村長、薬草を取りに行く02

一つ尾根を越えて小さな沢沿いを進む。

お互いに口数は少ない。

少し水を補給する程度の小休止を挟んでさらに森の奥へと進んでいった。

「バン君、たぶんこの近くだ。谷間に木が密集したような場所はないかい?」

私は少し考え、地図を見ながら、

「たしか、もう一つ先の尾根から谷が見えるはずだ。たしか、大木が茂っていた」

「よし、そこへ向かおう」

何か、確信があるのだろう。

短くそう言うとリーファ先生と私は時々方角を確かめながら尾根を登り始めた。

尾根を登りきると、たしかにこんもりと木の生い茂る谷間が見える。

巨木の森。

まさしくそんな感じの場所だ。

今は昼ごろ、通常なら休憩をはさみ、谷の手前で野営の準備といったところだろう。

しかし、ここから先はそうのんびりもしていられない。

どうやらリーファ先生もそんな感想を持ったようだ。

「よし、ギリギリまで近づいてみよう。たぶん、そこからは強行軍になる」

というリーファ先生の言葉に私もうなずき、

「そうだな。ここからは私が先行する。リーファ先生は後衛を頼む」

と返して、尾根を下り始めた。

空気はいよいよ重くなり、ねっとりと絡みつくような感覚さえある。

普通なら少人数で近づきたくはない場所だ。

油断なく構え、時折現れる藪を剣鉈で切り払いながら進む。

藪を抜けると、巨木が立ち並び苔の生い茂る場所に出た。

巨木の隙間からほんの少しだが日光が入ってくる。

なんとも幻想的な雰囲気の場所だ。

おそらく、目的の場所が近いのだろう。

リーファ先生は辺りを注意深く見ている。

私はさらに集中を高め、気を練ると、油断なく周囲を警戒した。

ふと、リーファ先生の足が止まる。

その視線の先には、薄い紫色の小さな花が点々と咲いていた。

「…あれだ」

どうやらあれが目的の一つらしい。

「わかった。頼む」

私がそう言うとリーファ先生は手早く背嚢から採取用の道具と布袋を取り出して作業を始め、私は辺りを警戒する。

どこかで鳥の鳴き声がした。

ヒーヨォー…!という独特な鳴き声だ。

「…ちっ!」

思わず私は舌打ちをする。

一瞬リーファ先生の視線がこちらに向いたような気がしたので、

「大丈夫だ。どうやらまだ気づかれてはいない…。だが、もう少し進めば…時間の問題だろうな…」

そう言って、私たちは採取を続けた。

辺りに他の魔獣の気配はいまのところない。

どうやらヤツらの縄張りの外縁部らしい。

ここで出るとすればヒーヨにやられない程度の大型だろうが、ヤツらもよほど餌に困っていない限り、他の魔獣の領域には入ってこない。

ヤツらなりの住み分けというやつなんだろう。

しばらくすると、

「よし、いいぞ。充分だ」

というリーファ先生の言葉に私は軽くうなずき返し、そそくさとその場を後にした。

なるべく、ヤツらの視界に入らないよう、慎重に道を選ぶ。

そのうち気が付かれるだろうが少しでもそれを遅らせたい。

いざという時、奴らが襲いにくいような、あまり開けていない場所を、巨木の間を縫うように進んでいった。

地形が少しだけ下り基調になってきたから、おそらく沢が近いのだろう。

徐々に巨木が少なくなっていく。

すると、少し先に倒木が見えた。

おそらく嵐にでもあったのだろう。

リーファ先生が辺りを観察し始める。

「…あそこに群生しているね」

リーファ先生の視線の先に目をやり、よくよく見ると、100メートルほど先の倒木に小さな白い茸がびっしりと生えているのが見えた。

「ちょっときついな…」

私は思わずそうつぶやく。

「どうする?」

リーファ先生に質問されたが、少しの間考えて、こちらからも質問してみた。

「採取にはどのくらい?」

「…すまん、少し慎重に採らねばならんから、少なくとも10分、下手をすれば20分はかかる…」

そう聞いて私は頭の中でこれからの行動を整理し始める。

遠距離攻撃が得意なリーファ先生に攻撃を任せ、私が採集するのは無理だろう。

リーファ先生が慎重に採らねばならないという以上、採取は神経を使う作業のはずだ。

私にはできない。

そう考えて私は余計な考えを振り払い覚悟を決めた。

「こそこそしてもどうせ、結果は同じだな。あの広さなら群がって襲ってくることはない。一匹ずつならなんとかなるから、私が相手をしている間に採取してくれ」

私はそう言うと、集中を高め、

「…ふぅ」

とひとつ息を吐く。

私は身を隠している木の根元に背嚢を置くと、装備の具合を軽くたしかめながらリーファ先生に、

「弓矢を貸してくれ。あと、背嚢はここに置いていく。必要な物だけ取り出してくれ」

と指示を出した。

リーファ先生は背嚢から道具を取り出し、少し確認すると、こちらを向いて小さくうなずく。

私も弓矢を受け取りながらそれにうなずき返し、行動を開始した。

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