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第14話お嬢が村にやって来る05

部屋で一人になった私は、さっそく机に向かう。

まずは、旅行鞄の中から買い付けの明細なんかが書かれた紙束を取り出して、帳面に写した。

本来は役場でやるべきことだが、今日の内に済ませておかないと後から面倒になってしまう。

それに大した量じゃないから早めにやってしまうことにした。

簡単にそれを終わらせると、とりあえず茶をすする。

村では普通に緑茶が好まれているが、私が飲んでいるのは薬草茶だ。

王都の学院に通っていたころ、たまたま風邪気味だった私にリーファ先生が処方してくれた。

飲んでみると意外に美味い。

それになんだか調子もよくなったようなきがしたので、それをきっかけにほとんど毎日飲んでいる。

そう言えば、その診察の時リーファ先生は「君は魔素欠乏症気味かい?」と妙なことを聞いてきた。

なんでも私は魔力の通りがあんまりよくないように見受けられたらしい。

リーファ先生曰く、こんな状態なら普通は、気だるいくらいの症状があってもおかしくないとのこと。

私にはまったく実感がなかったが、一応今でも気を付けている。

その診察の時、ついでとばかりにリーファ先生は、自覚症状がないからと言って油断はいけないと言って、この薬草茶のレシピを教えてくれた。

幸い、材料はどこにでも生えている普通の野草や薬草で家の裏の菜園でも作れるし、森の中でも取れるものばかりだから自分でも簡単に用意できる。

最近では村民も風邪気味の時や寒くて冷えるときに飲んでいるのだとか。

体が温まって良いらしい。

しかし、あの診察結果はいったいなんだったのだろうか?

自覚症状は全くない。

むしろ、冒険者をやっているくらいだ、体力は有り余っている。

当時、私もリーファ先生もおおいに不思議がったものだ。

薬草茶を飲んで、そんなことを思い出すと、もう一つ雑務を片付けてしまおうと思ってまた筆をとった。

もう一つの雑務…と言っていいのだろうか?…はエインズベル伯爵とボーツ辺境伯宛の書状を書くことだ。

エインズベル伯爵には実家から聞いて、お引き受けすることにした。

至らぬ点もあろうかと思うが、精いっぱい務める。

こちらでは村長屋敷の離れを改装して準備するつもりだ。

離れは食堂とリビングを除いて4部屋ほどあるから、メイドや執事を同行させても問題ないだろう。

また、我が家の家政婦も協力してくれるはずだ。

その際、必要となるものがあれば教えてほしい。

アレスの町で手に入るものであればコッツ商会という私の幼馴染が経営する商会が届けてくれる。

輸送に際しての護衛は冒険者ギルドを通して我が村が手配する予定だが、できれば資金面でご協力願いたい。

というような内容で、

ボーツ辺境伯には、事情はお聞き及びだと思う。

何卒ご支援をいただきたい。

詳細は実家とエインズベル伯爵との間で詰めて欲しい。

という内容を書いた。

当然、お貴族様言葉で、庶民にはわけのわからない表現もつけて書かなければならないから、簡単な内容の手紙とはいえ、結構苦労する。

気が付けば夕方になっていた。

そんな気苦労の多い手紙をしたため、背伸びをして背中の筋肉をいくらかほぐすと、とっくに冷めてしまった茶を飲み干す。

そこへ、ちょうどいいタイミングでドーラさんがカートを押してお茶を持ってきてくれた。

この人は超能力者なのだろうか?時々そう思う。

「お疲れ様でございます。まもなくアイザックさんが来る時分ですかね?お夕食はいつでもお出しできますので、アイザックさんがお見えになるまで、少しお休みください。帰られてすぐに書類仕事ではさぞお疲れでしょう」

と言って、おかわりの薬草茶を淹れてくれた。

本当に気が利く人だ。

「そうだな。ありがとう」

私がそう言うとドーラさんは一礼して部屋を出ていく。

私はまた少し背伸びをすると、薬草茶をすすりながらくつろいだ。

本当はベッドに横になってしまいたかったが、そのまま寝てしまってはダメだと思いそこは我慢する。

そんなふうにしばらくゆっくり過ごしていると、またドーラさんがやってきて、アイザックが来たことを告げてくれた。

気が付けばもう陽が落ちている。

「まぁ、灯りもお付けにならなかったのですか?」

と言ってドーラさんはちょっと驚いたような表情をすると、

「よほどお疲れになっていたんですねぇ。あとでお風呂を入れておきますから、今日はゆっくりとしてくださいまし」

と言って、ドーラさんは私を気遣ってくれた。

「すまん。ありがとう」

と私が礼を言うと、

「いいえ」

と言って、ドーラさんは、客人をもてなすために再び階下へと降りていく。

私も、よっこらせ、とソファーから立ち上がると簡単に身だしなみを整えて1階の食堂へと向かった。

「ようバン。何事だ?」

食堂に入ってきた私の姿をみるなり、アイザックはざっくばらんに本題を聞いてくる。

「相変わらずせっかちだな。ドン爺ゆずりか?」

私が少しからかうようにそう言うと、アイザックは、

「はっ。あんな親父に似たつもりはないぞ?まぁ、たしかにせっかちなのは認めるがな」

と言って、ちょっとすねたような表情を浮かべながら頭をかいた。

アイザックとドン爺ことドリトン親子は、二人ともややずんぐりとした体格だが固太りの立派な体格で、ドン爺の頭がツルツルなのを除けば二人ともそっくりだ。

アイザックもそのうちそうなるに違いない。

「まぁせっかくだ。飯を食って酒でも飲みながら話そう。少し長い話になるかもしれん」

私がそう言うと、アイザックは、

「ん?なんだ?面倒事か?まったく、お貴族様の面倒事に一般人を巻き込むんじゃねぇよ」

と言って悪態を吐く。

しかし、アイザックは責任感の強いやつだ。

こちらがきちんと説明すればギルドマスターとしてきっちり協力してくれるだろう。

それがわかっているから私は、

「まぁ、そうツンデレるなよ。ギルドに迷惑はかけない。むしろ冒険者の仕事が増えるって話だ。それに安心しろ、私だってお貴族様の面倒事にはできるだけ関わりたくない」

と言って、苦笑した。

するとアイザックは、

「つんで…なんだって?…よくわらんが、なんとなく言いたいことは伝わったような気がするな…。まぁいいさ。とりあえず、さっさとドーラさんの飯を食わせてくれ、今日の献立はなんなんだ?」

と言って、飯のことを聞いてくる。

(相変わらずだな)

そんなことを思い、私は軽く「ふっ」と笑って、

「今日はヤナの塩焼きだそうだ。なんでもズン爺さんが獲ってきてくれたらしい。卵もあるらしいからあとで塩漬けがでてくるんじゃないか?」

と今夜の献立を教えてやった。

「ほう。そいつぁいいな。ご馳走じゃないか。当然パンじゃなく米なんだろ?茸汁もあれば最高だな」

と、アイザックが無遠慮にそう言ったタイミングでドーラさんがお膳を運んでくる。

ドーラさんは、

「お待たせしましたかね?ご要望の茸汁もありますよ、アイザックさん。あと根菜とクック肉の煮物もつけましたし、お替りもありますから、ご遠慮なくどうぞ」

と、笑いながらそう言ってくれた。

完璧なタイミングだ。

やはりこの人は超能力者であるらしい。

そんなドーラさんを見て、アイザックは、

「いやぁ、いつもながら完璧だね、ドーラさん。うちのかかぁにも見習わせたいよ」

と言って、軽口を叩く。

それを聞くと、ドーラさんは「ふふふっ」と笑いながら、

「まぁ、アイザックさんったら。そんなことをいうとリーサさんが怒りますよ?」

と言って、アイザックを窘めた。

すると、アイザックが、

「うわぁ、そいつぁおっかねぇな。あいつはいったん怒ると3日は口をきいてくれなくなるんだ。すまん、今のは失言だった。あいつには内緒にしておいてくれ」

と言って、泣きそうな表情を浮かべる。

「まったく、お前というやつは…。まぁ、いい。早速いただくとしよう」

私が半ば呆れながらも笑ってそう言うと、

「そうだな。いただきます!」

と言って、アイザックはまるで学問所へ通っている子供のような挨拶をして、これまた思春期の子供のような勢いで飯をがっつき始めた。

私は、そんな様子に少し呆れながらも、

(ドーラさんの茸汁は冷めないうちに食わねば)

と思って、さっそく自分も茸汁に手を伸ばす。

そして、とりあえず、目の前の飯に集中した。

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